90歳になったばぁちゃんが突然、動画アプリを始めたら――。プロの漫画家を目指し、SNSなどで発信をするmicomaluさんは、スマホを買った祖母が孫と一緒に、動画投稿に夢中になる漫画を創作しました。「ある過去」からカメラと距離を置いていた孫は、ばぁちゃんの撮影係を経て心境が変化します。フィクションでありながらも、手触り感のある物語。そこには、micomaluさんの体験が投影されていました。
孫を撮影役に巻き込むばぁちゃん
ストーリーは、孫の亮ちゃんが、ばぁちゃんを撮影するシーンから始まります。90歳になってスマホを買ったばぁちゃんが始めたのは、話題の動画アプリ。「『この歳で初体験』ばテーマに放送したら面白いやないと」と博多弁で亮ちゃんを誘います。
亮ちゃんに声がかかったのは、カメラを得意としていたのをばぁちゃんが知っていたからでした。しかし、「もう、カメラはとっくにやめとうとよ」と亮ちゃん。それでも、ばぁちゃんは「早口言葉に挑戦するけん、撮っとって」とお構いなしに巻き込んでいきます。

最後の動画に込められた思い
パワフルなばぁちゃんのペースで進んだ配信は、90歳のチャレンジ精神が話題となり、たちまち人気チャンネルに。亮ちゃんとの「人生初」を、ばぁちゃんは楽しんでいきます。

ただ、その時間は長くは続きませんでした。天国へと旅立ったばぁちゃん。残された亮ちゃんは、託されていた最後の動画を投稿します。
映し出されたのは、「これが流れとるちゅうことは、もうこの世におらんとよ」と語り出す生前のばぁちゃんでした。そして、配信を始めた本当の理由を明かします。

「これ始めたのは孫のため。小さか頃はあげんカメラ好きやったとに、専門の大学落ちてから触りもせんようになっとったね」
亮ちゃんに再び「撮ってもらいたかった」と打ち明けたばぁちゃん。「でも途中から、ばぁちゃんの女優さんごっこになっとったね!」と続け、「ばぁちゃん若か時、女優さんになりたかったとよ! この告白が最後の初体験やね!」と語りかけます。

「いつの間に、こんなものを……」。スマホを握りしめ、涙を流しながらばぁちゃんの告白を聞く亮ちゃん。動画の最後は、こう結ばれました。
「亮ちゃん、あんたの人生たい。生きたいようにせんね。ばぁちゃんいつも見ようけんね。ありがとう、亮ちゃん」
ラストのシーンは、最後の動画から月日が流れ、「次の現場遠いから、ちょっと急ぎで!」と先輩から指示を受ける亮ちゃんが描かれます。肩にぶら下げているのは一眼レフのカメラ。空を見上げた亮ちゃんは、決意の言葉を口にしました。「ばぁちゃん、俺やっとスタートしたと!」

絵の道、一度は諦めた自分重ね
作者のmicomaluさんは、5歳と4歳の子どもを育てる2児の母です。写真家への道を一度は諦めた亮ちゃんは、美大に進みながらも、絵を描くことに意欲的になれず、一時距離を置くようになった自分自身を重ね合わせました。
micomaluさんは、物心ついた時から、漫画のキャラクターを描くのに夢中でした。「セーラームーンが好きで。特にジュピターばかりを模写していました」。幼稚園生だったころ、描き上げた絵を父親がコピー機で印刷し、「ぬり絵」として周りに配ったことがありました。
「自分の絵が機械から出てきて『漫画みたい』とうれしかったのを覚えています。そこから小中高と、絵や漫画を書くことにのめり込んでいきました」
美大では日本画を専攻しましたが、そこで大きな壁がありました。「写実的な描き方や色使いから、『日本画が向いているよ』と勧められて専攻しましたが、一緒に入った同級生たちの熱量に圧倒されてしまったんです」
「浪人時代、ひたすら絵を描いて力はつきましたが、入学後、周りとの差は明らかでした。漫画のように『好き』ではなく、『向いている』と選んだ道が通用しなくなったときに、『何のために描いてきたんだろう』と絵を描く意味を見出せなくなってしまったんです」。大学卒業後も、絵を描くこととは関係のない公的施設の事務職に就きました。

戻ってきた漫画家への情熱
絵との距離が再び縮まってきたのは結婚をしてから。仕事をやめ、空いた時間でイラストを描いたり、子どもを産んでからは育児の様子を漫画にしたり。インスタやツイッターでの発信も通じて、幼少期にあった漫画への情熱が戻っていきました。
そして昨年には夫からも「後悔しないように生きなよ」と発破をかけられます。育児との両立になりますが、憧れだった漫画家になることを掲げ、この漫画も創作しました。
登場するばぁちゃんは、micomaluさんの義理の祖母がモデルになっているそうです。「90歳を超えているんですが、焼き肉が好きだったり、『最近、フワちゃんが好きなのよね』と言ったりするぐらい元気で若々しくて。『スマホを持ちたい』と話していたことも、ストーリーのきっかけとなりました」
回り道をしながらも、漫画家という夢へのスタートラインに立ったmicomaluさん。「『いつからでも、始めることはできる。足踏みしているんじゃない』と自分に言い聞かせているので、そうした思いを作品に少しでも残すことができて今回は良かったです」。まずは商業誌デビューを目標に、創作活動を続けていきたいとしています。

micomaluさんのインスタグラム:https://www.instagram.com/micomalu/