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連載

#23 金曜日の永田町

菅さんの「驚くべき答弁」デジタル法案に物申した議員の心配

「スマホ投げたくなる」マイナンバーの複雑さ

デジタル庁設置法案などのデジタル関連法案の採決のため衆院本会議場で着席し、河野太郎行革担当相と話す菅義偉首相(右)=2021年4月6日午後、上田幸一撮影
デジタル庁設置法案などのデジタル関連法案の採決のため衆院本会議場で着席し、河野太郎行革担当相と話す菅義偉首相(右)=2021年4月6日午後、上田幸一撮影

目次

【金曜日の永田町(No.23) 2021.04.04 10】
菅義偉首相肝いりの「デジタル庁」創設や個人情報保護ルールの見直しを盛り込んだ「デジタル改革関連法案」が衆院を通過し、4月14日から参院での審議が始まります。与党も巻き込んで28項目もの政府への注文を並べた付帯決議の原案者が、衆院の審議で感じた疑念と、ここから先の国会で議論すべきと考える課題とは――。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
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セクハラ官僚への反論

4月9日の金曜日。新型コロナウイルスの感染再拡大(リバウンド)が進むなか、政府は東京都、京都府、沖縄県に対し、緊急事態宣言に準ずる「まん延防止等重点措置」の適用を決めました。

緊急事態宣言を解除する際、リバウンドの懸念を問われた菅さんが「大丈夫だと思う。微増になっているのは事実なので、総合的対策をして何としてもリバウンドを防ぎたい」と国会で答弁していたのは、わずか3週間前。結局、増加傾向を止めることができないまま、再び罰則を背景に私権を制限する状態に逆戻りし、ゴールデンウィークまで通した自粛を呼びかける事態になりました。

昨年来の自粛の繰り返しで、深刻な影響を受けている一つが、文化・芸術の分野です。

この日も、社会派ミュージカルを手がける劇団「ミュージカル・ギルドq.」の公演が東京都内で行われました。自粛ムードが広がるなか、コロナ前と同じようには集客ができないので運営は大変そうですが、熱のこもった公演になっていました。

「BRAVEHEART(ブレイブハート)~真実の扉を開け~」と題した作品は、安倍政権で起きた公文書改ざんや財務事務次官のセクハラ問題などをモチーフにし、権力とメディアの関係、ジェンダーギャップを問い直す内容です。印象に残ったのは、情報提供をちらつかせて呼んだ女性記者に暴力を振るった幹部官僚が、「何がセクハラか。見返りを求めて何が悪い。おまえたちもそうだ」と開き直った場面です。

これに後藤夕貴さんが演じる新聞記者・舞島朱里は、伸びやかな歌声にのせて、幹部官僚に突きつけます。

「あなたが手にする情報は、決してあなたのものではない。この国に住む人たちがあなたに託したもの。私たちの仕事はそれを日々拾い集め、一人一人に返していくこと。みんなが幸せに暮らすために。みんなが平和で生きられるために」

そして、最後にこう告げます。

「自分の欲望のために使っちゃいけないんです。それを私物化というんです」

「BRAVEHEART」のパンフレット
「BRAVEHEART」のパンフレット

「1人1万円かけても便利にならない」

さて、4月6日の衆院本会議で、デジタル社会における情報の取扱のルールを盛り込んだ「デジタル改革関連法案」が自民、公明両党などの賛成多数で可決されました。

菅さんはこの日開かれた世界経済フォーラムの会議に寄せたビデオメッセージのなかで、「世界最先端のデジタル社会を目指します」と宣言。「司令塔として、今年9月にデジタル庁を創設します。デジタル庁は、組織の縦割りを排し、強力な総合調整機能と、初年度3000億円の予算を持った巨大な組織として、国全体のデジタル化を主導します。企業関連情報などの基本的なデータをいわゆるベースレジストリとして整備し、データの共有と、利活用を進めます」と訴え、データの利活用を強調しました。

ただ、この法案には、衆院内閣委員会での採決の際、個人情報への配慮など、28項目にわたる政府への注文を列記した付帯決議がつき、与党と立憲民主、国民民主両党が賛成しています。

4月8日の夕方、この付帯決議の原案者のもとを訪ねました。立憲の後藤祐一さんです。

「この法案は、推進派は『DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるんだ!』、反対派は『個人情報はどうなるんだ!デジタル反対!』と二極化しやすいテーマなんですよね。でも、どちらかに偏りすぎるのではなく、『心配しながら使う』というのが答えだと思うんです。①政府による監視手段にしない、②個人情報の保護、③セキュリティの確保、④利便性の向上、⑤使わない人が不利にならない、という五つのポイントを重視しながら、議論しました」

後藤さんは、これまでもデジタル関連の法案に取り組んできました。デジタル改革担当相の平井卓也さんらと一緒の超党派の議員連盟で、役所に提出する添付書類を削減し、行政手続きのオンライン化を進める議員立法を推進。政党間の協議が整わず、議員立法としては成就しませんでしたが、2019年の通常国会で政府提出の「デジタル手続法」として成立する流れにたずさわりました。

予算委員会の質問でも、道路に空いている穴の写真を市民がLINEに投稿すると、市役所が直しにくる大阪・四條畷市の事例などを紹介。市民が自分たちの街をよくするために、自治体で芽生えているデジタル化の取り組みを後押しすべきだと政府に求めてきました。

そのようにデジタル化に取り組んできた後藤さんですが、内閣委員会理事として関わった衆院での法案審議では、「今のところ、国民の側のメリットが薄いかな」と感じたといいます。

後藤さんは3月31日の菅さんとの質疑で、マイナンバーカードを使った確定申告のシステムを例に挙げました。後藤さんが自分で試してみたところ、システムの複雑さにはまり込み、「途中でスマホを投げたくなるぐらい」の状態で、7時間もかかったからです。

「菅さんが、これまでマイナンバーカードに8800億円かかっていると答弁しましたよね。実はあの数字違うんです。『8800億円』には、いま政府がマイナンバーカード普及のために行っている最大5000円分還元の事業の予算2500億円が入っていないんですよ。それを合わせると、1兆1300億円で、さらに別枠で堺雅人さんを使った政府広報を行っています。国民1人あたり1万円のコストをかけながら、確定申告一つ便利になっていないんですよ」

後藤さんが指摘するのは、行政側のメリットが先行しているバランスの悪さです。

「例えば、私がどこかのテレビに出て出演料をもらうと、それはマイナンバーで国税庁は把握できます。行政側にとっては、デジタル化は便利なんです。そのときに、国民側にとって便利になっていないままではダメでしょう、というのが一つの問題です」

自宅からの確定申告を呼びかける東京国税局の電子掲示板=2021年1月20日午前10時9分、東京都中央区築地5丁目、中野浩至撮影
自宅からの確定申告を呼びかける東京国税局の電子掲示板=2021年1月20日午前10時9分、東京都中央区築地5丁目、中野浩至撮影 出典: 朝日新聞

内調が1週間後に認めた回答

さらに懸念しているのは、今回のデジタル化を主導する菅さんの体質です。

3月31日の質疑で、国会議員や各府省の幹部官僚の通話やメールなどの情報を政府が集めていないか、確認した際に「法令にのっとって適法のやつについては適切に情報収集していますけども、それを超えるようなことは一切やっていません」と含みを持たせるような答弁が続けたからです。

「驚くべき答弁でしたよね。菅さんにとってのデジタル化は、監視のためにあるんじゃないかと思いました」

安倍政権時代、官房長官だった菅さんが「怪文書のようなものだ」と否定していた政権に不都合な文書の存在を証言しようとしていた元文部科学事務次官の前川喜平さんが「出会い系バー」に行っていた話が明るみに出たことも例に挙げ、「(内閣官房の情報機関である)内閣情報調査室(内調)のようなシステムの使い方に慣れている人ではないか」との見方を示しました。

後藤さんは、今回の法案が政府による監視と直接結びつくかについては断定を避けましたが、「個人情報をデータベースで管理することが全体としてしやすくなるので、(政府が)意思を持った場合は監視しやすくなる」と分析。そうした政府の意思を制御する必要性を指摘しています。特に、これまで国より厳しい基準で個人情報を保護してきた自治体のルールが緩められ、自治体が集めた個人情報が「目的外利用」で国に提供されて、プロファイリングされることを危惧しています。

そうしたなか、3月31日の質疑で後藤さんが、「他の行政機関が集めた個人情報を、内調に提供していただいて、総理にレクするなり使うという場合には、全て、行政機関の保有する個人情報保護法第8条に基づいて提供されているということでいいか」と根拠となる法律を尋ねた際に、「どのような法的根拠で情報提供しているかについてはお答えする立場にはない」と明らかにしなかった内調が4月7日、以下のような回答を後藤さんに文書で示しました。

《関係行政機関が内閣情報調査室に対して、利用目的以外の目的のために保有個人情報を提供する場合は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第8条にのっとって行われている》

質疑では認めようとしなかった法的根拠の条文をはっきりさせたのです。8条は、利用目的外に個人情報を利用したり提供したりすることを制限する条文です。その制限に従い、各行政機関は、目的外利用の情報提供をした場合には総務省に報告し、ホームページにその一覧が公表されています。ところが、後藤さんが調べたところ、内調は他の行政機関のようなルールに従ったホームページでの公表がなされていないのです。

「質問通告をしていたのに、あいまいな答弁を繰り返していたのは、内調が当初から(文書での回答と)同じ考え方ではなかったことが逆にわかります。8条の厳格さを理解していなかったのではないでしょうか。参院の審議では、『情報提供を受けたら、8条に基づいてきちんと総務省に報告するのか』『今まではどうしていたのか』などを、きちんと詰める必要がありますね」

内調が文書で示した回答文
内調が文書で示した回答文

二つの足がかり

後藤さんは国会での議論を通じて、二つの足がかりを築いたとみています。

一つは、自身が原案をつくった28項目の付帯決議です。特に以下の項目が入ったことを「歴史的に重い」とみています。

《個人の権利利益の保護を図るため、自己に関する情報の取扱いについて自ら決定できること、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行うこと、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求めること及び本人の同意なしに個人データを自動的に分析又は予測されないことの確保の在り方について検討を加え、必要な措置を講ずること。》

「これは、私たちが主張していた『自己情報コントロール権』や『忘れられる権利』『プロファイリングされない権利』のことを指しています。その言葉を使うことには与党はYESと言いませんでしたが、『検討を加え、必要な措置を講ずる』という内容で与党も含めて合意した。これは、『プロファイリングされない権利を尊重するよりデジタル推進』というアメリカ型ではなく、『個人の情報を個人がコントロールする条件のもとでデジタル化を進める』というEU型を目指していくという方向性を出しているものです」

もう一つの「足がかり」とみるのが、2013年に安倍政権が世論や野党の反対を押し切って、特定秘密保護法を制定した際、衆参両院に設けられることになった「情報監視審査会」です。

現状の審査会は、情報の管理状況までしかチェックできません。しかし、先送りされている特定秘密保護法の見直しの議論とあわせて、審査会の権限を強化し、国の行政機関が違法行為をしたり、不当に個人情報を扱ったりしていないか、立法府がチェックできるようにつなげたいというのが後藤さんの考えです。「審査会ができたのは、特定秘密保護法の国会審議の最大の成果だった。審査会があることで、こうした議論が成り立つんです」と言います。

デジタル改革関連法案の参院での審議は、4月14日から始まります。

デジタル化が進むなかで、「情報は誰のものなのか」ということを規定していく重要な法案です。与野党合意した28項目の付帯決議をもとに、参院でより具体的な詰めをしてほしいと思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

《今週の永田町》
4月12日(月)東京都などで「まん延防止等重点措置」の適用
菅首相が出席した衆院決算行政監視委員会の質疑
4月14日(水)デジタル改革関連法案の参院での審議入り

     ◇

〈南彰(みなみ・あきら)〉1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連の委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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