連載
#15 「きょうも回してる?」
「コップのフチ子」生みだした会社が従業員に求める「ヒットの作法」
前々回、ガチャガチャの歴史を取り上げた際に、第3次ブーム(2012年~現在)で、オリジナルで大きなヒットが誕生した話をしました。
その大ヒット商品は2012年7月に発売された「ーコップのフチに舞い降りた天使ーコップのフチ子(以下、フチ子)」です。このフチ子のシリーズは累計2000万個を達成。この数は、たとえて言うなら日本の人口の6人に1人はフチ子を持っている計算になります。ガチャガチャ業界では、20万個超えればヒット商品と言われるなか、オリジナル商品で2000万個は、ガチャガチャ史上でダントツです。フチ子シリーズは「コップのフチ子7」まで続いており、今年はオリンピックバージョンも予定しています。
このフチ子を販売したメーカーは2006年に設立した大人向けフィギュアに特化したキタンクラブ。21年で設立15年を迎えました。キタンクラブの代表の古屋大貴さんは「当時3人で始めた会社でしたが、現在18人になりました。だだ、『面白い商品だけを作って勝負する』という根っこの部分は15年経った今も変わっていません」と振り返ります。
この根っこの考え方は、古屋さんが元ユージン(現:タカラトミーアーツ)の出身でガチャガチャの企画や営業の経験から生まれた考え方です。経営面でも「昨年比をなくす」ことで本来のものづくりに専念できる環境づくりも行っています。そこには、昨年比に趣を置くのでなく、面白い商品を出すことで、数字は後からついてくると古屋さんは考えているからです。
キタンクラブの従業員に対して、古屋さんは「社員というよりも、サーカスや劇団員に近い。一人ひとりが戦える。いつ独立してもやっていけるような強みを持っている人が多い」と話します。
その結果、毎月新商品が目まぐるしく誕生するなかでも、キタンクラブは設立して5年後には「アマガエルストラップ&マグネット」、「シリーズ生きる、土下座ストラップ」「江頭2:50フィギュアストラップ」など次々とオリジナル商品で売上累計100万個を達成していき、オリジナルでも面白い商品を作れば売れることを証明していったのです。
ヒットする商品について、古屋さんは「ガチャガチャの機械に自分たちの考えたアイデアを商品として入れたとき、そこに人の行列ができるかどうか。そのイメージがわかないものは駄目だ」と言います。
オリジナルの数々のヒット商品を手掛けていくなか、フチ子は誕生しました。
このフチ子はマンガ家のタナカカツキさんが原案したキャラクターです。タナカカツキさんの持ち味を再現するために、キタンクラブの企画担当者と原型師さんは徹底的してこだわります。たとえば、フチ子を見るとわかりますが、フチ子のヒザや手先、お尻のちょっとしたくぼみ、服のしわ、イヤリングまで、ここまでするかというくらいまで細部にこだわっています。
このコラムでも取り上げたブシロードクリエイティブの代表取締役社長成田耕祐さんも、学生時代にフチ子を見た瞬間、「200円のガチャガチャで、このクオリティを出すことができるなんて」と衝撃を覚えたそうです。
フチ子の特徴は大きく①コミュニケーションツール②フチ子のキャラクターの汎用性、の2つが挙げられます。
特徴の一つ目、「コミュニケーションツール」では、フチ子が誕生したとき、ツイッターやフェイスブックが流行り始めたときであり、気軽にネットを通じてフチ子の写真を撮ってSNSにアップすることで、人とのコミュニケーションツールとして活用する人が増えました。
特徴の二つ目は「フチ子のキャラクターの汎用性」です。
多くのヒットしたガチャガチャはマンガをはじめ、ゲーム、アニメなどの人気のあるキャラクターが多く、キャラが立っています。一方、フチ子はガチャガチャのために生まれたオリジナルのキャラクターであり、年齢や性格といった背景は一切語られることなく、OLの女性というどこか個性が強くない要素が逆に多くの人にウケたと思います。その結果、フチ子は企業とタイアップしやすく、ご当地のフチ子までできました。
さらに、2015年には「ほぼ日刊イトイ新聞」のコラボで、「奇譚クラブPRESENTSコップのフチ展TOBICHIスペシャル」を開催。そのなかで、世界で一点しかない雑誌「AERA」とほぼ日の共同企画「40歳は、惑う。」のために製作した「39歳のフチ子」を展示するなど、フチ子のイベントは全国各地で開かれるようになりました。そしてフチ子を好きで集めている人を「フチラー」という言葉も誕生しました。
2017年に入ると、フチ子の販売5周年を記念して、東京の池袋パルコでコップのフチ子5周年記念展覧会「あなただけのフチ子展」するなど、オリジナル商品だけの展示会はガチャガチャ業界初の試みでした。
フチ子の影響について、古屋さんは「キタンクラブの知名度が上がったのとお金が増えましたね」と笑いながら、「『フチ子は売上を達成するために生まれた商品ではない』というところが大きい」と話してくれました。
フチ子はまさに、古屋さんが「面白いものだけを作って勝負する」という信念のもと、「面白いもの」を追求したほうが結果的に「売れる」ことを証明してくれたのでした。
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