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妹の死から15年 「きょうだい」の姉が背負った親の期待と葛藤

「きょうだい」である東洋美さんが制作の裏方として関わった短編映画「ふたり~あなたという光~」(佐藤陽子監督)のワンシーン(c)2021映画「ふたり~あなたという光~」製作委員会
「きょうだい」である東洋美さんが制作の裏方として関わった短編映画「ふたり~あなたという光~」(佐藤陽子監督)のワンシーン(c)2021映画「ふたり~あなたという光~」製作委員会

目次

障害のある人の兄弟姉妹を「きょうだい」と表すことがあります。自営業で3児の母親、東洋美(ひがし・ひろみ)さん(33)も「きょうだい」です。重度心身障害のあった妹は15年前に、12歳で亡くなりました。当時、東さんは18歳。高校3年生。それまで、母親の相談役で、家事も手伝う「優等生」だったそうです。

ただ、自身が抱いた違和感は封印していました。妹が亡くなって15年。1本の映画制作に裏方として関わり、「きょうだい」としての自身の人生を振り返るようになりました。それは、感情をときほぐし、苦しんでいた過去の自分を認め、いたわることになるのだと話します。

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東洋美さん(中央)と家族=本人提供
東洋美さん(中央)と家族=本人提供

重度心身障害があった妹

東さんは、大学卒業後、生活保護のケースワーカーなどを経て、結婚。3歳から7歳まで3人の子どもがいます。長男のアトピーをきっかけに薬膳料理に関心を持ち、現在は「薬膳講師」を名乗り動画配信などをしています。

そんな東さんは、高校の教員だった両親の長女として生まれました。5歳の時に、双子の妹と弟が生まれました。母親は妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)で、緊急入院しての出産でした。

妹は、薬では発作を完全に抑えられない「難治性てんかん」でした。重い知的障害と身体障害がありました。さらに弟には、小児ぜんそくの持病がありました。「弟も、夜にせきが止まらずそのまま入院、ということがありました」

疲れ切っているか家事しているかの両親

両親は、入退院を繰り返す双子の看護と仕事を両立させることで手いっぱいでした。

「勤務先の高校から病院へ行き、そこから出勤することもあったようです」。土日も病院へ。「土日に家にいるときもありましたが、疲労で倒れているか、家事をしていました」

そうした両親の姿を見ていた東さんは、自然と家の手伝いをするようになりました。妹のおむつや、チューブを通じてあげるミルクの準備。10歳の頃には、お鍋や煮物など夕食の支度もしていました。

「お手伝いをすると喜ばれました。だから、うれしくて続けました。ただ、それが当たり前になり、準備できていないと『なんで夕食ないの?』と怒られることもありました」

頼られるうれしさとしんどさ

同時に、東さんは、母親のストレスを引き受けることもありました。

当時の妹は、平日は施設暮らしでした。週末、母親が迎えに行くと、決められた時間を過ぎていたことがきっかけで施設スタッフと衝突したそうです。スタッフは母親に対して「どうして仕事を辞めないのか?」と迫りました。帰宅後も涙が止まらない母親に、小学生だった東さんは言いました。「ママは、頑張ってるよ」

家事や母親の相談役にしんどさもありました。

ただ「母親は、『ひろみちゃんがママの生きがい』と言っていました。頼られるとうれしい気持ちもありました」

そうした言葉に自分を奮い立たせました。

ありのままを認めてほしい

ところが、ある頃から気づきます。「私が何かしないと、ほめてもらえないんです。条件付けのように感じてしまいました」

 東さんにはいろいろな感情が渦巻いていました。
「役に立たないと価値がない」
「ありのままを認めてほしい。愛してほしい」
「よい姉、よい娘でありたい」

「次第に、自分の意思が分からなくなりました。相手の顔色をうかがって、相手の要求にあわせるようになりました」

うらやましかった妹

妹には、こんな感情を抱くこともありました。「妹は全介助でも愛される。私は役に立たないといけない。うらやましかったです」。弟は、小学校も半ばを過ぎると小児ぜんそくの症状が安定してきました。「親に隠れて弟を小突くことも。当たっていました」

その度に自己嫌悪に陥りました。

高校に進学する頃には、「優等生」ではいられなくなりました。体調も崩しがちでした。

そんな時、風邪をこじらせた妹の容体が急変しました。

脈拍や心拍数などは目に見えて悪化していきました。それでも、東さんがお見舞いに行くと、ほほえもうと目を細めてくれました。迎え入れてくれると感じました。「この子は生き抜こうとしているんだと思いました」

急変から1カ月。妹は亡くなりました。

母親と向き合った

「亡くなってからの数年は、妹のことばかり思い出していました」

妹が生き抜いた姿勢に影響を受け、人が可能性を発揮できる手伝いがしたいと社会福祉の仕事を目指しました。

しかし、東さん自身、うつ状態と過眠に悩まされたり、相手の顔色をうかがう余りコミュニケーションがうまくとれなくなったりするなど、苦しい時が続いたそうです。

カウンセリングを受け、母親と向き合いました。母親に「ありのままを認めてほしい。愛してほしい」といった正直な気持ちを伝え、「和解」。徐々に体調を取り戻しました。

いったんは区切りがついたと感じたそうです。

その後、今のパートナーと巡り合い、結婚。3人の子どもを授かりました。

きょうだいに光、救われた私

ところが最近、知人から「きょうだい」としての話を打ち明けられます。「甘えられない」「親の期待を背負う」。話を聞くうちに、そこに自分がいることに気がつきました。

知人は三間瞳さん(37)。自身がプロデューサーとなり映画制作を始め、今年2月、短編映画「ふたり~あなたという光~」(佐藤陽子監督)が完成しました。結婚をめぐる社会の偏見や「きょうだい」の葛藤がテーマで、三間さんの体験も盛り込まれています。

三間瞳さん=本人提供
三間瞳さん=本人提供
映画はクラウドファンディングで資金を集めました。東さんは、撮影状況をSNSに投稿するなど、側面支援を続けました。

「この映画を通じて『きょうだい』に光が当たることで、私自身が救われるのを感じました。1人でも多くの人に見て頂きたい一心で活動に携わりました」

クラファンでは当初目標の300万円の倍以上、614万4562円を集めました。支援者は、528人に及びます。

この映画制作には、東さんのような「きょうだい」が次々と参加しました。クラファン支援者にも、当事者が多く、「きょうだい」の共感が広がった形です。

映画は今年2月、クラファン支援者向けには公開されました。支援者の中には、「上映権」を得た人たちもおり、今後自主的な上映会も開催されます。情報は、ホームページhttps://www.movie-of-siblings.com/)で更新されます。

東さんは言います。

「私自身、自分を投影しながら映画制作に関わりました。この映画のメッセージの一つは、『あなた(きょうだい)も、自分の人生を生きて』です。映画を通じて、きょうだいについて考えてもらえたらうれしいです」
映画のワンシーン(c)2021映画「ふたり~あなたという光~」製作委員会
映画のワンシーン(c)2021映画「ふたり~あなたという光~」製作委員会
【関連記事】転落寸前、握った妹の手 悪夢見た姉問う「きょうだい」(朝日新聞デジタル)

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