連載
#13 「きょうも回してる?」
「キン消し」が誘発?ガチャガチャ界の大変革 300億円市場の実態
アナログ的やり方は、どんなにデジタル化が進んでも変わりませんでした。
2月17日で日本でガチャガチャの歴史が始まって 56年目を迎えました。今や日常生活の一部として、至るところで見ることができるガチャガチャ売り場。そのガチャガチャ市場は日本玩具協会の2017年の統計によると、319億円。その後、私が取材した感覚では、現在350億円前後を推移していると思います。
それでは、300億円台の市場 を持つガチャガチャはいつから始まったのか、今回はガチャガチャの歴史を紐解きます。
今から遡ること、およそ55年。1965年2月17日(昭和40年)、国内はいざなき景気が始まるなか、ペニイ商会(現:ペニイ)は、米国のペニイ・キングカンパニー社長のレスリー・O・バードマン氏の協力を得てガチャガチャの機械を輸入。ここから国内でのガチャガチャの歴史が始まりました。
ガチャガチャの歴史を語るとき、第1ブーム(1965年~1976年)、第2ブーム(1977年~2011年)、第3ブーム(2012年~現在)に大きく分類することができます。
第1ブームは、ガチャガチャビジネスの誕生を表します。当時の商品は中国から輸入したチープトイが多く、子どもたちの社交場であった駄菓子屋などに置かれるようになりました。価格は10円で、機械を置けば一日約1万個(関東地区)売れてしまうほど子どもの心を魅了します。
そして1966年には、初めてガチャガチャが「アサヒグラフ」の1月28日号で取り上げられ、世間でガチャガチャが注目を浴びるようになりました。
ちなみに、当時のアサヒグラフは80 円、銭湯は28円のなか、ガチャガチャの商品が1日約1万個売れたことは、ビジネスとして見た場合、驚くべき数字です。
商品開発では1970 年に入ると、今野産業(東京・墨田区)が日本の子どもにあわせた日本独自のオリジナル商品を開発していきます。カプセルは今のカプセルとは違って3.5センチ程度の卵型の球体をしていました。
第2ブーム(1977 年~2011 年)は、時代とともに商品が多様化し、2大メーカーのバンダイとユージン(現:タカラトミーアーツ)が業界に参入したことがきっかけで、ブームが起こります。
1980 年代になってくると、スーパーカー消しゴムをはじめ、当時のアイドル、相撲、プロレスラーなど、時代を反映させた商品が多く作られました。
そのなかで、1977 年にバンダイがガチャガチャ業界で参入しことにより、大きな変革をもたらしました。変革の理由は、 商品価格を10 ~50 円から100 円に設定したことにあります 。
また、40 代後半から50 代前半の人なら、一度は手にしたことがあるキン肉マン消しゴム、通称、キン消しが 登場したのもこの時期です。1983 年に発売されたキン肉マン消しゴムは、当時の小学生の間で大ブームとなり、累計1億8000 万個以上の販売を記録しています。ちなみに、キン肉マン消しゴムはポリ塩化ビニル(PVC)製の人形であり、消しゴムではないのに外見が消しゴムに似ていることからキン消しと呼ばれたそうです。
さらに、1985 年には「機動戦士ガンダム」のスーパーデフォルメフィギュア「SDガンダム」も発売され、こちらも大ブームになりました。
1988 年には、ユージンがガチャガチャに参入し、今も子どもに人気のあるカプセルプラレールは1999 年に販売を開始します。
この第2ブームの特徴として、バンダイやユージンは自社独自のガチャガチャの機械を開発し、スーパーマーケットをはじめ量販店などに販路を広げていることがあります 。
価格も100 円から200 円の商品が増えていき、商品のクオリティーが高いフィギュアも 作られるようになりました。バンダイは「HGシリーズ」、ユージンは「SRシリーズ」として展開し、コレクションのブームが起こります。第2ブームのなか、コスモスが1977 年に業界に参入していますが、このコスモスのお話はまた今度。
さて2000 年代に入ると、久しぶりにガチャガチャ業界にオリジナル商品に特化したメーカーのキタンクラブがガチャガチャに参入し、オリジナルの商品でヒット商品を数々生み出します。
第3ブーム(2012 年~現在)は、大人向けにサブカルチャー化した商品が誕生しブームを引き起こします。造形がより精巧な商品が増えはじめ、商品価格は300 円が主流となります。また、メーカーが次々と参入し大人向けのオリジナル商品の割合も増えてきました。またメーカーは付加価値が高い商品を手がけるようになり、2018 年あたりから価格も500 円で販売する商品が増加しました。
メーカーの試みとして、バンダイは2014 年に、丸い球体のカプセルの常識を打ち破り、カン状のカプセル「ガシャポンカン」を開発するほか、電子マネーで買えるガチャガチャの機械も開発しました。最近では、中国のガチャガチャの機械を輸入して販売を開始する動きもあります。
第3ブームでオリジナル商品で大きな影響を及ぼした商品がありました。そのお話は次回で。(次回は3月5日配信予定)
今回はガチャガチャの歴史を振り返りましたが、ガチャガチャの形態は56年以上経った今、商品の中身は進化してもコインを入れハンドルを回し商品を手に入れる、このアナログ的やり方はどんなにデジタル化が進んでも変わりませんでした。そしてお金を握りしめ、ワクワクしながらガチャガチャを回す子どもの姿も56年前と現在も変わりませんね。最近では、大人向けにサブカルチャー的な要素を持った商品も増え、大人も楽しめるようになりました。
※(株)は省略しております。
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【主な参考文献】
・アサヒグラフ1966年1月28日号(朝日新聞社)
・「面白すぎる『おもちゅあ』研究序説・櫻田純(KADOKAWA)
・タカラトミーアーツカプセルトイマガジンガチャ大図鑑(ネコ・パブリッシング)
・ガシャポニカNEO2015Summer(バンダイのイベント配布物)
・昭和レトロガチャ最強コレクション・ワッキー貝山(グラフィック社)
【取材協力】
日本ガチャガチャ協会
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