連載
#67 #となりの外国人
アメリカではタブーでも、ここは日本 実家での質問攻めに未来の夫は
「あなたの文化、とりあえずまねる」
社員の3割が外国籍というTwitter Japan。ダイバーシティー(多様性)の勉強会では、国際結婚した社員たちが「異文化」とのつきあい方を語っていました。登壇者の一人、アメリカ出身のガエゴス・ロニーさんは、妻になる日本人女性の実家へ最初にあいさつに行ったとき、冷や汗をかきました。異国で暮らす立場から日本の「ダイバーシティー」について思いを聞きました。
あなたの文化、とりあえずまねしてみる
アメリカ出身のガエゴス・ロニーさん(34)は、最近、マンションを買いました。来日前に、日系人の叔父から、「ロニーのことだから、日本で彼女つくって、結婚して、帰ってこないんじゃない?」とからかわれたときは、「いや、2年ぐらいで帰ってくるよ(笑)」と返事をしたのに、「まさか、本当になっちゃうとは」。日本に暮らして10年以上になりました。
アメリカ出身で、カリフォルニア州のアジア系移民が多い地域で育ちました。母は中華系4世、父はメキシコ系。「自分には日本の血は入っていないけど、叔母は夫が日系アメリカ人。祖母は、韓国と日本人のハーフと再婚して、家族には日本との接点がありました」
そんなルーツの影響からか、ロニーさんはアジアに興味がありました。大学時代は東アジア(中国、韓国、日本)について勉強し、言語は日本語を専攻しました。
「勉強してきた中で一番面白かったのが日本だった」とロニーさん。
歴史や伝統文化だけではなく、「日本のヒップポップがおもしろい」と言います。
アメリカでブレイクダンスをしてきたロニーさんが見る日本のヒップホップは「外の文化を吸収して、自分らしく変えて、さらに発信する」魅力に溢れていたと言います。
在学中は日本に2週間ホームステイ。その後、韓国で留学やインターンシップを経験します。出身地も経歴も、性格も色々な人が混ざる環境で、それまでの「人をすぐに判断する性格」を見直したと言います。
「この人は合わないだろうな」と思っていた人と、話を重ねると仲良くなれたこと。自分とは違う文化に接したときに、それを勉強して、まねをすると、相手が喜んでくれたこと。
「異文化」での生活が、自分を変えてくれたことを実感し、ロニーさんは卒業後も海外で、さらに新しい文化を経験したいと思いました。
卒業後、群馬県で2年英会話の先生をし、その後、東京で人事関係の仕事をしました。
「妻」となる女性と出会ったのは、六本木のクラブでした。
「外国人で、六本木で、クラブだから、すごくナンパなイメージですよね? 『記事に書かない方がいいですか?』って? いや、逆に書いていいですよ。クラブでもいい出会いができるって、これで分かってくれる人が増えるといいので」
ロニーさんはそう言って、笑いました。
その日は、クリスマスが終わった直後でした。ロニーさんの目に留まった、初めてクラブに来たと言う日本人女性は、ナンパ狙いの子たちとはどこか違う雰囲気がありました。「しっかりした子。そんなところにひかれました」
それが朋奈(ともな)さん(32)との出会いでした。
交際を始めて、2カ月後、朋奈さんはロニーさんを実家に連れて行きました。朋奈さんにとって、初めて親に紹介する彼氏だったそうです。
母は歓迎して、ご飯をごちそうしてくれました。「でもお父さんは、めちゃくちゃ質問してきました」
父からの質問は止まりませんでした。
結婚式は仏教式かキリスト教式か? 国籍は日本にするのか? いずれアメリカに帰るのか? 子供がハーフだといじめられるかもしれないけどどう思う?
面食らったロニーさんでしたが、一つ一つの質問に答えていきました。
「娘が初めて連れてきた彼氏。父親として心配するのは当然だと思う。ましてや僕は、こんな見た目ですし。もし、彼氏が日本人だったとしても、きっと質問責めにされていたと思う。質問内容は変わったかもしれないですけどね」
多様なルーツや宗教の人が暮らすアメリカでは、差別につながることも考え、それらについて聞くことはタブーとされています。そんな国から来たロニーさんにとっては、キツい質問もあったかもしれません。でも、ロニーさんは「日本は、まだほとんどが日本人。知りたいだけだと思うんです。僕は彼女が真剣に好きだったから、お父さんとの関係を築くのが大切でした。彼女のお父さんだからこそ、悪気もって聞いているのではないと信用していました」と話します。
一つ一つ答えるロニーさんの真摯な態度が朋奈さんの両親にも伝わり、その後も信頼関係を築くことができたと言います。
「お父さんは教育に熱心で、どんどん勉強したい人。今も洋楽や、アメリカの映画など、いろいろなことを僕に聞いてくれます」
付き合って約5年後の、2018年1月に、ロニーさんと朋奈さんは結婚しました。
ガエゴスさん夫婦が大切にしていることは、お互いが違う環境で育ったことを尊重しながら、「『あなたの文化でしょ』じゃなくて、とりあえずまねしてみる」こと。
例えば、ロニーさんが初めて朋奈さんの家に招かれる前のことでした。一緒にご飯を食べているときに、朋奈さんがロニーさんに「米粒を集めて、まとめるようにして食べてみて」と言いました。ロニーさんは最初、「何それ?」と気にしませんでしたが、実際に朋奈さんの両親と会ったときにそのように食べてみたら、「マナーがある人だと思われました」と振り返ります。
反対に、朋奈さんをアメリカに連れて行ったとき、ロニーさんは「英語は話せなくても良いから、ジェスチャーでもいいし、笑顔だけでもいい。何かでコミュニケーションとった方がいいよ」と言いました。朋奈さんはアドバイスの通り積極的に家族とコミュニケーションとって、大好評だったと言います。
「文化や考え方、その価値を判断しないようにしています」
10年日本に住んできたロニーさんは、ダイバーシティーのコツについてこう考えています。
「日本には日本の文化や、考え方、伝統を、大事にしてほしい。日本らしさを変えないでほしいです。ただ、ほかに『違う文化や考え方がある』というのを意識するだけで、多様性は生まれるんだと思います」
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