連載
#53 夜廻り猫
「嫁だから」寝る暇もなかった…今年は? 夜廻り猫が描く年末年始
帰省してきた義妹の子どもを預かり、寝る暇もなかった年末年始。もう子どもを預かるのはやめよう、そう伝えた今年は――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「嫁」を描きました。
夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵は、心の涙の匂いに気づき、こたつでひとり暗い顔をしている女性へ話しかけます。
「そこなおまいさん、ひとりでやけ酒か?よかったら話してみなさらんか」
女性はぽつりぽつりと振り返ります。
結婚して夫と義両親と暮らす家には、年末年始になると義妹が子どもたちを連れて帰省してきます。
家事をして、お茶を入れて、義理の甥っ子たちにパンケーキをつくって……。
「『嫁』だから 年末年始はいつも寝る暇もなかった」
義妹は子どもを自分に預けて出かけてしまいますが、昨年は、遅く帰った義妹に甥っ子が「ママ頭いたーい」と甘えました。
すると「お義姉さんどういうこと?」と問い詰められます。ついに「もう私が預かるのはやめましょう」と伝えました。
それからコロナの流行もあって、義妹たちが来なくなりましたが、
義理の両親は「誰も来ないから火が消えたようだ」「来ても歓迎されないから」と嫌みを言います。
夫は知らん顔。女性は「一人になろうかな ここにいても家族はいない」とつぶやきます。
遠藤はそっと女性の背中に手をあてました。その様子を、声をかけられない夫が見ているのでした。
作者の深谷さんは、「年末年始」をテーマに今回のマンガを描きました。
「今年は〝帰省自粛〟とも言われますが、やはり年末年始は家族のありようが浮き彫りになる時です」と話します。
「つらい立場は『嫁』ばかりではなく、『婿』だったりお年寄りだったり子供だったり……いろいろあります。弱い人をいじめず、『弱い立場』と決め込まず、付き合うならば楽しく付き合えますように」との願いが込められています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本7巻(講談社)が2020年12月23日に発売された。
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