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プロテインは必要?食事だけで十分?専門家に聞く筋トレの運動栄養学

トレーニングをする人のたんぱく質の摂取は食事からだけで十分なのか、粉末プロテインは必要なのか、専門家に話を聞きました(写真はイメージ)。
トレーニングをする人のたんぱく質の摂取は食事からだけで十分なのか、粉末プロテインは必要なのか、専門家に話を聞きました(写真はイメージ)。 出典: PIXTA

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世間は筋トレブーム。自分も始めてみたけれど「やっぱりプロテインって飲んだ方がいいの?」「食事だけじゃダメ?」など疑問が尽きない、という人も多いのではないでしょうか。

そこで、withnewsでは運動栄養学が専門で、『運動生理学(栄養科学イラストレイテッド)』(羊土社)「筋肉づくりとタンパク質」の項の著者である滋賀県立大学教授の中井直也先生を取材。筋トレをする人の悩みに答えます。(朝日新聞・朽木誠一郎)

「断食」筋肉はどうなる?

中井先生は筋肉の原料であるたんぱく質が生物の体内でどう合成・分解されるかのメカニズムを研究しています。トレーニングをする人の疑問に、運動栄養学の原理・原則と、世界の研究結果に目を通す立場から回答してくれました。

前提として「栄養は筋トレの効果を100%出すために必要」であり「栄養で120%になるわけではない」と中井先生。まずは日々のトレーニングをしっかりがんばることが、筋肉をつけるためには必要だと指摘します。

一方で、栄養補給については誤解や根拠のない経験則も広まっており、「トレーニングの効果を損なわないために、正しい知識を持ってほしい」とも。例えば「過度のファスティング(断食)」は、筋肉をつけたい人には勧められないとします。

理由は、筋肉のたんぱく質合成を促進するのが「トレーニング」と「食事」の二つの要素だから。

「筋肉は合成と分解を常に繰り返しています。ある研究では、安静時・食事後には合成と分解がともに上昇しましたが、合成が上回りました。逆に、安静時・絶食後(一晩)には合成が低下し、分解が上回りました。

さらに、疲労困憊するような筋トレ後に絶食(一晩)すると合成と分解がともに上昇しましたが、このときは分解が上回りました。また、疲労困憊するような持久運動後に絶食(一晩)すると分解が大きく上回りました。

多くの研究から、トレーニング後には食事をしないと、筋肉が減ってしまうことが明らかになっています。ちなみに、筋力の向上や筋肥大を目的とする場合には、ジョギングのような持久的運動よりも筋トレが有効です。これは筋トレのような『レジスタンス運動』の後にたんぱく質を合成する経路が活性化するためです」

食事により筋肉が増えるのは、摂取したたんぱく質の消化・吸収により、たんぱく質、ひいては筋肉の原料になるアミノ酸の血中濃度が上昇するから。

逆に、トレーニングをしていてもしていなくても、絶食すると筋肉は分解されます。“ダイエット法”としてファスティング(断食)をする人もいますが、筋肉量が減ると基礎代謝量、つまり「放っておいても体が消費するカロリー」も下がるため、長期的なダイエットには不利と言えます。

もし「ジョギング(持久運動)をして夕食は抜いたからやせた」と思っている人がいたら、減ったのは脂肪ではなく、ボディラインをきれいに見せることのできる筋肉かもしれません。

粉末プロテイン、本当に必要?

筋トレをする人が飲んでいるイメージがあるものといえば、そう。プロテインです。水や牛乳などに溶かして飲む粉末状のプロテイン。あれはやはり、必要なのでしょうか。結論から言うと「筋トレ直後の栄養補給をする上では便利」と中井先生。

「摂食のみ(安静時)で起きるたんぱく質合成は比較的、短時間で終了しますが、筋トレをすると24時間後まで継続します。また、筋トレ後のたんぱく質摂取はたんぱく質合成率を大きく高めることがわかっています。

このたんぱく質摂取はもちろん食事からでも問題ありません。ただし肉や魚、大豆などのたんぱく質食品は消化吸収に2時間以上、脂質を多く含むとさらにそれ以上かかるため、運動後の摂取には向きません。粉末プロテインは消化吸収が速いために有利です」

また、たんぱく質摂取タイミングと筋肥大の関係についての複数の研究をメタ解析した結果、運動後「なるべく早いタイミング」でのたんぱく質摂取が筋肥大と正の相関があったことがわかっています。では、それはどのようなメカニズムによるものなのでしょうか。

「運動後は筋肉への血流が高まっています。速やかにたんぱく質かアミノ酸を摂取することで、筋肉に原料を集めやすくなると考えられています。また、高強度の筋トレ後には成長ホルモン分泌が高まり、20〜30分後には血中濃度がピークになります。このようにして、運動後数十分で筋肉はたんぱく質合成に最適な状態になる、と説明できます」

長らく「プロテインのゴールデンタイム(筋トレ後すぐにプロテインを飲むべき)」と言われてきたのは、このような理由によるものでしょう。

一方で、タイミングよりも総たんぱく質摂取量の方が筋肥大との関連が高いという報告もあります。特に近年、筋トレ直後の血中アミノ酸濃度の上昇を早めるよりも、筋トレ後24時間を通して摂取するタンパク質の量が重要であるとの論文が発表されているそうです。

「いずれにせよ、トレーニング後にたんぱく質を摂取することは必要」と中井先生はまとめます。

「一度に摂取しすぎてもムダになってしまうため、複数回に分けて摂取することを考えると、すべてを食事で賄うのも難しい面があります。しっかり筋トレしたあと、まず粉末プロテインを飲み、その後の食事でもたんぱく質を摂取する、というのが妥当ではないでしょうか。

ただし、飲みすぎても意味がないのは粉末プロテインも同じ。飲みすぎると体に負担もかかります。そして、飲みすぎが起こりやすいのも粉末プロテインです。飲めばいいというものではないので、自分の体格やトレーニングにあわせた必要量を摂取するようにしてください」
 

実は「糖質」の摂取も必要

たんぱく質以外にももう一つ、筋トレ後に摂取した方がいいものがあります。それは「糖質」。ダイエットをしているとあまりいいイメージがないかもしれませんが、実は筋トレをする上では重要です。

「糖質を摂取すると、血糖値を下げるためにインスリンが分泌されます。このインスリンには、たんぱく質合成を高め、分解を抑制する作用もあるのです。運動後の筋肉ではインスリンへの感受性が高まっているため、インスリンのたんぱく質合成作用も大きくなります」

そもそも、糖質はヒトの主なエネルギー源です。運動前に食事から摂取する他、肝臓や筋肉の中にグリコーゲンの形で貯蔵されています。運動時に糖質が不足した場合、糖新生といって、体は筋肉などを分解してエネルギー源を確保しようとします。運動をする場合は糖質も摂取する必要があるのです。

目安となる糖質の量は、筋トレ後にインスリンの分泌を目的とした場合「ごはん二膳程度(糖質約100g)」(中井先生)。運動で利用した筋グリコーゲンを回復させるためには、さらに量が必要です。「運動後にまずおにぎりを二つくらい。さらに家に帰って一般的な食事をすれば、インスリン分泌を狙いつつ筋グリコーゲンも回復できるでしょう」
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