MENU CLOSE

連載

#5 金曜日の永田町

霞ヶ関から〝逃げ出す〟官僚たち 「白井大臣」のいない国会

野党時代、鳩山さんに迫った菅さんの面影は…

午後10時を過ぎても多くの部屋に明かりがともっていた経済産業省本館=2017年7月、東京・霞が関
午後10時を過ぎても多くの部屋に明かりがともっていた経済産業省本館=2017年7月、東京・霞が関 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.5) 2020.11.27】
「季節外れの桜満開」。安倍晋三前首相の後援会が毎年、「桜を見る会」の前夜に支援者を集めたパーティーの収支報告を政治資金収支報告書に記載していなかった問題で、東京地検特捜部が安倍事務所の秘書らの事情聴取に乗り出したことが明るみに出て、今週の国会は「桜を見る会」で大きく動きました。一方で、政権を支える官僚たちの異常な長時間労働と、うその数々も明らかに--。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

【PR】盲ろう者向け学習機器を開発。畑違いの挑戦に取り組んだ技術者の願い
#金曜日の永田町
※クリックすると特集ページに移ります。

「ブラック霞が関」

先週から永田町周辺では、行政改革担当相の河野太郎さんがつづったブログが話題になっています。

中央省庁に務める総合職の国家公務員で、「自己都合」で退職する20代が87人に上り、安倍政権の6年間で4倍以上に増えているデータを明らかにしたからです。

「危機に直面する霞ケ関」と題したブログには、「すでに辞める準備中」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」と考えている30歳未満の国家公務員が男性で15%、女性で10%、という数字も紹介されています。

働き方改革のなかで職員の期待が高いものの実施度が低いものとしては、「国会関係業務の効率化」が真っ先に記されていました。

いま、河野さんの指示で、各省庁の職員が職場にいた時間を示す「在庁時間」の調査が全省庁で行われています。

「労働時間」ではなく、「在庁時間」としたところがポイントです。

霞ケ関では、残業代に限りがあるため、それを超える部分は、組織命令による残業ではないことにして取り繕ってきました。このため、「労働時間」として調べると、違法なサービス残業を隠そうとして実態が見えてこないので、「在庁時間」としているのです。

時を同じくして書店に並んだのは、元厚生労働省のキャリア官僚だった千正康裕さんが出版した『ブラック霞ケ関』(新潮新書)です。

帯には、「07:00仕事開始 27:20退庁『このままでは国民のために働けない』」。

官邸主導や政権交代を前提にした政治に変わるなかで、霞ケ関の官僚たちに与野党の双方から大きな負担がかかり、「加速度的に忙しくなってきた」という実態を紹介しています。

この本のなかでも「最も負荷が大きい」と指摘しているのが、国会対応です。

千正さんは、野党合同ヒアリングを例に、「野党が必要とする回答や情報を政府が出さないから、より追及が激しくなるというケースもあると思うし、政府は説明責任を果たすべきだとも思う。ただ、官僚の判断で勝手に野党に新しい回答をすることは許されていない」「政策がテーマなら詳しい官僚が出て行って説明すればよいが、森友学園、加計学園、桜を見る会の問題などは政権の姿勢を追及する話なのだから、政治家同士で議論すべきと思う」と記しています。

厚労省の中核を担ってきた千正さんは昨年9月、18年半務めた厚労省を退職しました。

「官僚の疲弊の背景にあるものは、ブラックな労働環境に加えて、積み上げてきた政策の知見が活かされず、上から突如降ってきた政策の実現に奔走するようになり、答えようのない追及に対する説明に追われる虚しさです。それだけで精一杯になり、政策を考える時間も政策のネタをつかむために現場を見る時間も取れなくなってしまいます」

職場に残る後輩のため、そして国民のために、負のスパイラルを止めなければいけないと訴える千正さんのメッセージには胸に詰まるものがあります。

出典:千正康裕『ブラック霞が関』(新潮新書)

政権の「ウソ」で死に追い込まれた官僚

安倍政権では、国会答弁をめぐって公文書が改ざんされ、それを苦にした官僚が自死するという痛ましい事件が起きました。

森友学園問題をめぐる財務省による公文書改ざん事件です。今週火曜日(11月24日)、衆院の調査局は、森友問題をめぐり安倍政権が2017~18年に行った国会答弁のうち、事実と異なる答弁が計139回あることを明らかにしました。

森友問題とは、当時首相だった安倍晋三さんの妻・昭恵さんが名誉校長となり、教育勅語を教える小学校の建設予定地として、国有地が周辺価格より格安に払い下げされたという疑惑です。

2017年2月17日の国会で関与を問われた安倍さんが「私や妻が関係していたということになれば、総理も国会議員もやめる」と答弁。その後、財務省のなかで、交渉記録で昭恵さんが出てくる記述を削除する改ざんを行い、朝日新聞のスクープで改ざんが発覚するまで、1年以上にわたり、国会で事実に反する答弁が繰り返されてきたのです。事実上の「虚偽答弁」です。

そうしたなかで、意に反する改ざんの作業を強いられた近畿財務局職員の赤木俊夫さんが死に追い込まれました。赤木さんは生前、「僕の契約相手は国民」と語っていたとされる実直な公務員です。

衆院調査局に調査を求めた立憲民主党の川内博史さんは24日の衆院財務金融委員会で、同じようなことを決して繰り返すことがないよう、改ざん問題に関する財務省の調査報告書を、組織で将来にわたって保存する「歴史公文書」に指定するよう促しましたが、改ざん発覚後も財務大臣の職にとどまる麻生太郎副総理は、その求めに応じることはありませんでした。

そして、同じ日には、「桜を見る会」に関する事実に反する疑いのある国会答弁も、2019~20年にかけて、33回に上ることが衆院調査局の調べで明らかになりました。

安倍さんは、「事務所に確認した」といって、ホテルとの契約の主体は前夜祭の参加者1人1人で、事務所とホテルがかわした「明細書はない」、「後援会としての収入、支出は一切ない」「事務所側が補塡した事実も全くない」と述べていましたが、東京地検特捜部の調べで、そうした主張が崩れつつあります。

こうした答弁には、安倍政権で官房長官だった菅さんもかかわっていました。

11月25日に衆参両院の予算委員会では、野党側は安倍さんに事実関係を確認するよう再三求めましたが、菅さんは拒み、「答弁を控える」「答える立場にない」などと25回も繰り返しました。

「総理、それは全くおかしいと思いますよ。これだけ重要な事案を確認していないということは、私は信じられません」

野党議員だった10年前、刑事事件を理由に説明しない当時の鳩山由紀夫首相に迫っていた菅さんの面影はそこにはありませんでした。

「桜を見る会」で記念撮影する安倍晋三前首相夫妻(中央)=2019年4月13日、東京・新宿御苑
「桜を見る会」で記念撮影する安倍晋三前首相夫妻(中央)=2019年4月13日、東京・新宿御苑 出典: 朝日新聞

白井大臣のいない国会

「桜を見る会」の問題や、日本学術会議の会員任命拒否問題でたびたび国会答弁に立っている内閣府官房長は、民主党の野田政権で藤村修官房長官の秘書官を務めていました。

私は当時、藤村さんの番記者でした。いま、過去の国会答弁との整合性を必死になって強弁を重ねる官房長の姿を見ると、切なくなります。

森友問題を含め、公文書の改ざんや隠蔽、データ不正などが相次いで明るみに出た2018年の通常国会が終わった後、衆院議長の大島理森さんは所感に次のように綴り、猛省を促していました。

「この国会において、(1)議院内閣制における立法府と行政府の間の基本的な信任関係に関わる問題や、(2)国政に対する国民の信頼に関わる問題が、数多く明らかになりました。これらは、いずれも、民主的な行政監視、国民の負託を受けた行政執行といった点から、民主主義の根幹を揺るがす問題であり、行政府・立法府は、共に深刻に自省し、改善を図らねばなりません」

しかし、与党側からはその後も具体的な動きはありませんでした。

自民党幹部に至っては、「野党は追及したけど、結局、何も変わらなかったんですよね」と公言してはばからない状況です。

この、モヤモヤした感じはなんなんでしょう。

そう、日本の国会には、TBSドラマ『半沢直樹』で、立場を失うことも覚悟して、政治を私物化する身内の不正を追及し、「説明できないなら謝罪すべきです」「それが政治家として、人として、最低限度の義務ではないですか」と箕部幹事長に迫った白井亜希子大臣がいないのです。

「ウソ」と「長時間労働」という二つの膿を取り除き、疲弊する霞ケ関の官僚の働き方を「ホワイト化」するには、権限と情報を持つ1人1人の与党政治家が覚悟を決めて、動かないといけないのです。

白井大臣が半沢直樹らに覚悟を伝える場面は印象的でした。「誠実」が花言葉の桔梗を包んだ白のハンカチに目を落とした後、こう語りました。

「私もやるべきことを果たします。この国の未来のために」

29日に、国会で議会開設130周年の記念式典が行われます。これ以上、民主主義社会を担う将来世代に失望を与えないために。この数年間、積み重なった負の遺産と決別する必要があると思います。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

《来週の永田町》
11月29日(日) 議会開設130周年記念式典
11月30日(月) 参院本会議で決算の審議で、菅首相が出席
12月4日(金) 臨時国会の事実上の最終日(閉会日は5日)

     ◇

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

連載 金曜日の永田町

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます