連載
#60 コミチ漫画コラボ
ミュート忘れ「あるある」に仏の対応、漫画で描くオンライン「事件」
先生、成長していないのは私です…
新型コロナウイルスの影響で、日常生活の中に「新しい生活様式」が取り入れられています。マンガ投稿サービスを運営する「コミチ」とwithnewsがコラボし、「#わたしの新しい生活様式」をテーマに作品を募集した企画で、近藤丸さんの「オンライン授業における姿勢の問題」が大賞に決まりました。この漫画を読んで、「自分も……」と思った方は少なくないはずです。
人との密な接触や大人数での集まりを控えるようになり、オンラインでの講演や授業が多くなりました。漫画「オンライン授業における姿勢の問題」では、「仏教界」の法話や授業にもWEB会議ツールが導入されている様子が描かれています。
基になっているのは、浄土真宗の僧侶でもある作者の近藤丸さん(@rinri_y)の実体験です。
富山県に住んでいる近藤丸さんは、「都市部で行われる授業を受ける機会が増えた」と言います。
“事件”は、大学時代にお世話になっていた「覚田先生」の講義で起きました。
「数年ぶりに先生の顔をパソコン越しに拝見した」近藤丸さん。当時の覚田先生の凛とした記憶がよみがえってきて、思わず「覚田先生歳とったなぁ~」としみじみしてしまいます。
すると、画面の中から「あっはっっは」「プププー!」「歳とったなぁて失礼やで」と声が。
近藤丸さんのマイクは、ミュート設定されておらず、しっかりと声が届いていたのでした。
生徒から向けられた言葉に、覚田先生は一言。
「何も学べないまま歳をとってしまいました」
先生の偉大さと自身の未熟さが身にしみた近藤丸さんでした。
「オンライン授業で便利になりましたが、聞く態度がおろそかになっていました」という近藤丸さん。「情けなく、モヤモヤしていたことを表現したい」と漫画にしました。
浄土真宗では、法話を聞く「聴聞(ちょうもん)」を大切にしているといい、近藤丸さんはコロナ禍で一般にも公開されているオンライン授業を受けているそうです。
漫画でこだわった一つは、「覚田先生」の描写。「ただ面白いだけではなく、変わったシチュエーションでも、仏教の教えに基づいた言葉をパッと言える先生のすごさや人間性を強調し、仏教の深みを表現したいと思いました」
オンラインの授業や講演では、「なるべく顔を出す」ことを意識している近藤丸さんですが、今回の“事件”を気に、必ずミュートになっているか確認するようになったそうです。
同じく「聴聞」をしている人と話した際には、「オンラインでは全然聞けない」「調子が出ない」という意見を耳にし、リアルでは「場所の力」があったことを実感しました。
「周りの人が一緒に聞いていたから聞けたんだと思いました。オンラインでも聞く工夫をしないといけないと思い、少なくとも、『授業中はスマホを触らない』『なるべく部屋をきれいにして聞く』などしています」
仏教界でも「新しい生活様式」は広がっています。
近藤丸さんによると、オンラインでの「法話」の配信はもちろん、「これまでは僧侶が家にお参りしていましたが、広いお寺に来てもらうことが増えていたり、お盆に県外から呼んでいた『ヘルプ』の僧侶を呼ばず、8月13~15日で回っていたところを、1週間長くして対応したりしています。法事ではお昼ご飯をいただいていましたが、それもなくなりました」。
漫画に描いたオンライン授業での失敗は、仏教界に限らず「あるある」現象です。仏教界での変化よりも、この「あるある」を描いた背景には、コロナ禍での近藤丸さんの生活が関係していました。
近藤丸さんは、「社会との接点がZoomやオンラインだったからだと思います」と振り返ります。
3月まで、福岡県の私立中学・高校で教員として仏教の授業をしていましたが、現在は休職中です。新型コロナの感染拡大がなければ、インドなどで仏教を学びたいと思っていました。
「コロナで海外に行けず、家で1人でこもって勉強をすることが多くなりました。オンラインでお話を聞けることはありがたいことだったので、印象に残っているのかもしれません」
漫画を描き始めたのは3月から。もともとイラストを描くことが好きで、教員時代には授業で4コマ漫画の教材を作っていたと言います。
「3コマ目までは僕が描いて、4コマ目を仏教の教えにあてはめて考えたらどうなるかという問題を出していました。仏教の話はつまらないと思われがちですが、大事なことを話すときは、子どもたちも聞いてくれます。説明する方法、話す側の態度が重要です。漫画という手段で伝わりやすくなるかもしれないと思っていました」
仏教の教えを描く近藤丸さんの作品は、Twitterでもたびたび注目されています。
「苦労して作った書類のデータが消えた時
— 近藤丸 / Yoshiyuki Kondo (@rinri_y) August 27, 2020
立ち上がる勇気をくれた話」(1/2)#コルクラボマンガ専科 #仏教マンガ
仏教学者「中村元」先生のエピソード pic.twitter.com/MDnlWZKicd
「仏教は2500年続いていて普遍的なものですし、コロナのような危機を見つめてきた教えで、みなさんに響くのだと思います。仏教は深いです。教えのど真ん中を漫画にして伝えていきたいと思います」
漫画という表現手段を磨き、モヤモヤや日頃の思いを形にして読んでもらえることで、「心が軽くなった」と話す近藤丸さん。今後は僧侶をメインにしながらも、漫画家として仏教や日常を表現するなど、「二足のわらじ」を目指していくと話しています。
近藤丸さんのTwitter:@rinri_y(https://twitter.com/rinri_y)
電子書籍『ヤンキーと住職』(コルクスタジオ):https://www.amazon.co.jp/dp/B08LN2S5L3/
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