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コロナで崖っぷち…花火職人の今「9割が危機」存続のための「秘策」

「非日常と、生きる力を届け続けたい」

今年の夏、中止が相次いだ花火大会。花火の演出・打ち上げを手がける花火師の思いを聞きました
今年の夏、中止が相次いだ花火大会。花火の演出・打ち上げを手がける花火師の思いを聞きました 出典: 丸玉屋提供

目次

新型コロナウイルスが流行した今年、夏の風物詩・花火大会が軒並み中止となりました。花火の製造などを担う企業は売り上げ減に苦しみ、文化そのものが存続の危機に立たされています。人々に非日常と、生きる力を届けられる場を、このまま失わせてはならない。そんな決意から、花火業界全体をサポートするための、支援金集めに乗り出した事業者がいます。「花火文化の価値を伝え、100年先まで継承していきたい」。そう語る幹部に、思いを聞きました。(ライター・市川茜)

人が集まる場所で打ち上げられない苦しみ

今回話を聞いたのは、東京都中央区の企業・丸玉屋です。花火を上下左右に自在に打ち上げる仕掛け「花火タワー」を生み出すなど、先進的な企画や演出を得意としてきました。数々の海外コンペでの受賞歴もあり、国際的な知名度を誇っています。

これまで同社は、勝毎花火(北海道)や大曲(秋田)、世田谷区たまがわ(東京)、花火ファンタジアFUKUOKA(福岡)など、全国各地の花火大会で打ち上げを担当。テーマパークやコンサートでの実績も合わせると、昨年一年間の打ち上げ回数は880回にも上ります。

しかし、今年の夏は新型コロナウイルスの影響で花火大会の中止が相次ぎ、年間の売上予測は当初から約80%減少し、昨年対比で20%にとどまる見込みです。打ち上げ回数も10分の1程度の見通しとなってしまいました。

丸玉屋茨城工場の火薬庫に眠る花火玉の在庫
丸玉屋茨城工場の火薬庫に眠る花火玉の在庫 出典: 丸玉屋提供

親友の死を機に、花火業界へと飛び込んだ

「テーマパークでの打ち上げなどは少しずつ持ち直してきているものの、人が集まる場所での打ち上げは難しく、これまで通りとはいかないのが現状です」。そう語るのは、同社取締役の岩野成(いわの・せい)さん(40)です。

岩野さんは、この状況下だからといって全てを諦めるわけではないと続けます。

「コロナウイルスの流行下でも、人々に伝わる花火を実現したい。だからこそ、安心・安全な運営方法の指針作成や環境整備を目指し、前進していかなければと思っています」

丸玉屋は、25の花火事業者で構成する一般社団法人「日本花火推進協力会」の理事を務めています。その取り組みとして、来場客がソーシャルディスタンスを確保できることなどを前提とした、花火大会の運営指針を作成。実現に向けて動いているそうです。

家業として経営が受け継がれていることが多い花火業界ですが、岩野さんは、非血縁者として23歳で花火の世界に飛び込みました。きっかけとなったのは、きょうだいのように心を通わせていた親友を事故で亡くしたことでした。

親友と互いに通じ合ってきた感覚を失っていくような日々を経て、焦りと孤独に襲われていた岩野さん。そんな自分を救ってくれたのが、花火だったといいます。

「人生を象徴するような一つ一つの花火に、まさに彼が生き終えたばかりの命と、自分自身のこれからの人生を感じました。僕の悲しみを昇華し、生きる力に変えてくれたのが、花火でした。花火が、生きる意味を教えてくれたのです」

花火師の岩野成さん
花火師の岩野成さん 出典: 本人提供

地元の花火大会が消えてしまうかも

そもそも花火大会は、市役所などの主催者が、企業協賛を募ったり、有料席のチケットを販売したりすることで財源を確保し、打ち上げは花火会社に委託しています。

しかしウイルスの影響によって、従来のような集客や企業協賛、チケット収入などが望めなくなりました。そのため今後、花火大会を存続できなくなることもあると、岩野さんは危惧しています。

「花火大会は一年間に全国1千カ所ほどで開催されていますが、そのうち有名なのは1割程度。残りの9割にあたる、地域に根ざした小規模・中規模の花火大会の存続が厳しくなるケースは十分有り得ます」

また花火業界は、花火大会の多い夏に売上が集中しているのが特徴。来年の夏まで目立った売り上げは期待できず、中には廃業や事業縮小を検討している企業もあるそうです。

「廃業や事業規模の縮小は、花火職人の流出にも繋がります。もしウイルスの猛威が収まり、花火大会を開催できるようになっても、職人を花火業界に呼び戻せるとは限りません。花火文化継承の観点では、かなり瀬戸際に立たされていると感じています」

岩野さんによれば、全国で行われる花火大会は、年間で約7200万人を動員。巨大な経済効果が見込める一方、開催地域の経済に対する影響力は、ほぼ検証されてきませんでした。

背景には、業界内で前例踏襲型の運営がよしとされ、事業性を調査する必要がなかったとの事情があります。

「これから先は、『伝統』の名の下に守られてきた前例主義を見直さなければなりません。今後は、状況に応じて開催の可否を具体的に検討していくことになりますが、花火大会の開催意義が経済的な価値の点で不透明な現状は問題だと考えています」

ウイルスの流行により、大会が長期間開催できなければ、いずれローカルな花火文化が途絶えてしまうかもしれない――。そんな未来を避けるため、岩野さんたちは外部の機関と連携し、花火業界全体の経済効果の検証を開始。花火が地元の発展と不可分であることを証明しようとしています。

「今後は、自分たちの町に花火があることの価値を、より強く発信していかなければいけないと思っています」

大規模な花火大会として名高い「大曲の花火」(秋田県大仙市)。 2020年夏の開催は中止となった
大規模な花火大会として名高い「大曲の花火」(秋田県大仙市)。 2020年夏の開催は中止となった 出典: 丸玉屋提供

時代が変わっても譲れない「文化の芯」

花火文化が存続の危機に立たされていると言える今、丸玉屋は新たな取り組みを始めています。

例えば、花火の種類や打ち上げまでの過程、花火の歴史を物語形式で解説するプラネタリウム番組「ハナビリウム」。実際には保安上の理由から難しい、花火を真下から見る構図の実写映像を交え、先人が花火に込めた悪疫退散、鎮魂、慰霊などの思いを伝えます。

「これまで花火会場では、花火の歴史や、関係者たちが込めた願いを伝える術(すべ)がありませんでした。だからこそ、プラネタリウムなどでメッセージ性も一体として、100年後の時代まで文化を継承していきたいのです」

新たな花火の楽しみ方を提案しながらも、花火文化を継承していくため、岩野さんが特に意識していることがあるといいます。それが「文化の芯」です。

「先人たちが命をかけて紡いだ花火の文化は尊いものです。この文化を継承し、高めていくためには、いつの時代においても、人々を魅了する花火であることが求められます。文化を守る意識が重要と思われがちですが、それ以上に変化を求めなければなりません」

「ただし、歴史的に受け継いできた『文化の芯』は譲ってはいけない。様々なテクノロジーの進化により、花火に類似する表現が現れています。そんな状況下でも『生火(なまび)』にこだわり続けることが、一つの『文化の芯』だと思っています」

ここでいう「生火」は、映像で見るものではなく、他の人と同じ空間・時間をともにして見る「火」としての花火を指します。岩野さんは、まさに文化の芯である生火へのこだわりは捨てない、と語ります。

「今は生火としての花火大会が可能になったときを見据えて、花火が持つ平和的な物語を伝える転換点と捉えて、プラネタリウムなどに力を入れています」

プラネタリウム番組「ハナビリウム」投影時の様子
プラネタリウム番組「ハナビリウム」投影時の様子 出典: 丸玉屋提供

「花火大会は、生きる力を届けてくれるもの」

「生火」としての花火大会にこだわり、文化を継承するためにも、今後はウイルス対策による安心・安全な環境整備を進めていくと話す岩野さん。一方で、課題もあります。

「コロナウイルス対策のためには、有料・無料エリアともにお客さんの密度をコントロールする必要があります。コストの増加と同時に、チケット販売数の減少などによる、更なる収益減は免れません」

そこで日本花火推進協力会では、花火大会存続のための支援金を、今年7月から募り始めました。会員企業と一丸となり、花火業界を守りたい考えです。集まったお金は、事業者向けの助成金や、花火会場の環境整備費用などとして活用される予定といいます。

「今は花火の魅力を高めるための仕掛けを考え、地域経済に作用することを証明し、花火の世界の“基盤”を未来に繋げるために力を尽くします。それができたならば、ゆくゆくは私たちを支えてくれた社会に、文化と経済の両面で恩返しができると信じています」

そして、伝統文化を受け継ぐ当事者として、次のような思いを語りました。

「花火の魅力の一つは、多くの人々の心を一度に揺さぶり、感動を届ける力があることです。江戸時代から続く日本花火の歴史を受け継ぎ、100年先を見据えて、未来を想像し花火を創造すること。これが今の私たちの使命だと思っています」

【関連リンク】日本花火推進協力会の募金ページ(Yahoo!ネット募金)
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