話題
丸山桂里奈さん、本並健治さん「師弟」が開いた女子サッカーの未来
芝の練習グラウンド探しから始めた監督業、駐車場を使うチームも……
話題
芝の練習グラウンド探しから始めた監督業、駐車場を使うチームも……
9月5日、ともにサッカー元日本代表である本並健治さん(56)と丸山桂里奈さん(37)の結婚が発表されました。なでしこリーグ・スペランツァFC大阪高槻では、本並さんが監督、丸山さんが選手でした。当時、2人を取材していた私には、丸山さんが本並さんについて語っていた忘れられない言葉があります。2人の吉報から、スポーツにおける指導者と選手の「心地いい関係」。そして、男子サッカーに比べると、厳しい環境にある女子サッカーの未来について考えます。
丸山桂里奈さん
まるやま・かりな 1983年生まれ、東京都出身。 2011年ワールドカップドイツ大会で、準々決勝のドイツ戦に途中出場して決勝ゴールを決めるなど、日本の初優勝に貢献。日本代表では通算79試合に出場し、14得点を挙げた。なでしこリーグのスペランツァ大阪高槻では12年からプレーし、16年シーズンで引退。
本並健治さん
ほんなみ・けんじ 1964年、大阪府生まれ。大商大を卒業後、87年から松下電器(現ガ大阪)、97年からヴ川崎(現東京ヴ)でプレー。日本代表GKとして3試合に出場し、2002年に引退。京産大、大阪・東海大仰星高のコーチを経て、12年8月から大阪高槻で指導し、16年12月に退任。現在は千葉県で高校の監督を務める。
2015年3月、当時、スポーツ部でサッカー担当だった私は、本並監督にインタビューをしています。
スペランツァ大阪高槻は、なでしこリーグ2部から1部に返り咲いたばかり。本並監督は、1部で戦っていくため、チームを基礎からたたき上げようと熱いを思いを語っていました。
本並監督が心配していたのが、女子サッカーを取り巻く環境です。2012年に監督になった時、チームは、中学や高校のグラウンドで練習していました。本並監督は、選手が練習に集中できるように、知り合いに頼んで、芝生の練習場を探してくるなど、環境を整えるところから始めたと教えてくれました。
チームの練習は厳しかったと思います。本並監督は、男子サッカーの新しい練習方法を女子にも取り入れ、限界まで走りながらプレーさせていました。
ただ、感情を表に出すのではなく、選手一人一人に目配りをしていて、選手との対話に力を入れていたのが印象的でした。普段からの丁寧なコミュニケーションがあったからか、選手たちも監督を信頼しているように見えました。
ピッチから降りると、気さくな方でした。本並監督の趣味は車。当時、「今まで40台くらい乗ってきたね」と話していました。ただ、練習には小さなコンパクトカーに乗ってきていて庶民的な一面も見せていました。
丸山選手には、2015年6月、なでしこリーグ後半戦に向けた記事で取材をしています。他の選手と同じように、本並監督も全幅の信頼を置いていました。
丸山選手は前年の2014年10月に膝の怪我をしていましたが、リハビリに励んで2015年2月、チームの中心選手として復活しました。その年のワールドカップの代表は逃しましたが、「今度は力を100%リーグ戦に注ぎたいです」とチームの主力として練習に励んでいました。
丸山さんの取材で覚えているのは、本並監督と同じく、高校を卒業したての若手の選手にも気さくに声をかけている姿です。
2016年2月、丸山さんが、任期を1年延長した本並監督への思いを語ってくれました。
そして、丸山さんは2016年10月の試合で現役を引退、本並監督さんも同じ年の12月に監督を退任しました。
2人の取材を思い返して考えるのは、女子サッカー選手の地位向上の必要性です。
女子サッカーの地位向上向けてまず必要なのは、結果を出すことで、そこには、2人も強くこだわっていました。
男子選手に比べると、女子選手はグループとして行動する傾向があります。そんな中で、信頼でき引っ張ってくれる監督に「ついて行きたい」という雰囲気があれば、結束力が生まれます。その時、必要なのは強いリーダーシップと、コミュニケーションです。
本並さんは、選手皆と食事を囲むなどコミュニケーションを大切にしていました。そこから、選手との絆も生まれていきました。さらに、本並さんは、練習環境を整え、男子と同じ最先端の練習を取り入れるなど、女子サッカーの地位向上に尽力していました。
本並さんが高槻の監督に就任した2012年当時、女子サッカーの練習環境や集客はかなり悪く、男子と比べてかなり差がありました。
丸山さんが出場した2011年W杯で優勝したことをきっかけに、知名度が上がり少しずつ環境は改善されてきました。目玉選手の丸山さんや澤穂希さんが活躍していた時期は、選手を応援するためサポーターも集まり注目されました。
それでも、まだまだ課題は多いです。
W杯優勝メンバーが多く引退すると、2019年W杯では3大会ぶりにベスト8を逃すなど苦戦、報道も減ってしまいました。練習環境も、多くのチームが芝でできるようにはなりましたが、まだ男子との格差は歴然です。
今年の8月に、日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属の日本女子代表GK山下杏也加選手が、リーグ公式サイトのブログでこう訴えました。
現在は、女子選手はサッカーで食べて行ける選手は一握り。多くの選手は日中に仕事をしています。
来年2021年は日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が誕生します。女性の社会進出への後押しを背景に、再び世界一を目指しています。丸山さんがテレビで活躍し、本並さんとの結婚報道もありました。女子サッカーの注目度も上がることで女子選手の地位向上につながることを願っています。
1/5枚