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ネットの話題

「お湯でコロナ予防」広めた“犯人”は? 優越・正義・不安のコンボ

「時間が経過するとシェアしたいという『衝動』は少し収まる」

Specteeの村上建治郎さん=同社提供
Specteeの村上建治郎さん=同社提供

目次

明らかに間違っている情報なのに、なぜ、ネット上で投稿やシェアを繰り返してしまうのか……。有用な情報を広めているという「やっかいな正義感」、スマホユーザー層の広がり。9月1日は防災の日。その親指で情報をシェアする前にするべきことは何か、SNS上の情報を調査、分析する会社「Spectee(スペクティ)」の代表に聞きました。

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深く考えず「衝動的」に

「Spectee」は、AIを使って収集・解析したSNS上の情報を報道機関や官公庁・地方自治体、民間企業など350社以上にシェアするサービスを展開しています。同社代表、村上建治郎さんは、誤情報を拡散する心理としては3つの要素があると語り、さらにその行為は「衝動的に行われることが多い」といいます。
 
        ◇
――災害など人々が混乱状態にあるとき、誤情報が拡散されることがままあります。熊本地震では「動物園からライオンが逃げた」という誤情報、コロナ禍においては、「コロナウイルスは熱に弱く、お湯を飲めば予防になる」といったツイートなども拡散しました。人が誤情報を拡散するとき、どのような気持ちになっているのでしょうか?

情報の種類によって様々な心理状態があると思いますが、特にSNSでは、「不安感」「優越感」「正義感」の3つの心理的要因が強いと思います。


――それぞれお願いします。

まず不安感ですが、情報を拡散することで、不安を共有したい、もしくは誰かと共有して安心したいという気持ちです。

次に優越感。
災害に限らずSNSにおける情報拡散のもっとも強い欲求は「いいね」を集めたり、リツイートされること、つまり注目されることです。
その情報を拡散したら注目が集まると思うと、人は衝動的にリツイートします。「ライオンが逃げた」などのセンセーショナルな情報ほど、反射的にリツイートしたくなりますし、その騒ぎに便乗したくなります。

そして最後に正義感です。「この情報はみんなに教えてあげたほういい」と直感的に思ったとき、善意の気持ちで拡散しようとします。
北海道胆振東部地震の時に、「6時間後に断水する」などの誤情報が出回りました。これらを拡散させる人たちの多くは、恐らく、「すぐにみんなに教えてあげた方が良い」と「善意の気持ち」で、その情報を拡散させたのだと思います。「どこどこで人が取り残されている」という類いの情報も同じでしょう。

――このいずれかが、誤情報を拡散してしまうときの心理にあるという感じでしょうか。

いいえ、3つの感情はどれか1つの感情で動くのはなく「不安感」+「正義感」のように複雑に絡まって、拡散させてしまうのだと思います。
ただ、いずれにしても、深く考えたり、真偽を確認したりということはせず、「衝動的」に行われることが多いです。

「いずれにしても、深く考えたり、真偽を確認したりということはせず、『衝動的』に行われることが多い」と村上代表
「いずれにしても、深く考えたり、真偽を確認したりということはせず、『衝動的』に行われることが多い」と村上代表 出典:pixta

救助関係者、SNSからも情報収集

Specteeでは今年5月、消防署員や自治体の災害対策課の職員などおよそ1000人を対象に、「災害発生時の情報収集」に関する調査をインターネット上で実施しました。(自治体の災害対応にSNS情報は有用?8割以上「有用性を感じる」と回答【独自調査】
 

それによると、災害発生時の情報収集方法は「関係省庁から」(56.7%)に次ぐ2番目に「SNSなどインターネットから」(53.9%)が上がりました。災害時、被災者の救助などに関わる職業の人たちもSNSから情報を得ていることがわかります。

また、「災害時におけるSNS情報に有用性を感じるか」という質問に対しては、「非常に感じる」(31.3%)と「ある程度感じる」(52.2%)と回答した人を合わせると、およそ8割がS NS情報の有用性について肯定的なイメージを持っているということがわかりました。集まった声の中には「誰がどこで助けを求めているのかわかった事例がある」や「完全に正しいとは限らないが、他ではつかめない情報もある」というものもあったそう。

一方で、「個人としてSNSなどネット上の誤った情報で困った経験はありますか」との質問には、約半数が「はい」と回答しています。

例えば、「リツイートが沢山なされている投稿を自分も信じそうになった」「あとで嘘とわかったが、コロナウイルスの対策法がもっともらしかった」「避難所が既にいっぱいだというツイートをみて、それを信じてしまったが、実際はまだ余裕があり、入ることができた」などの声がありました。

災害発生時の情報入手方法について聞いた結果
災害発生時の情報入手方法について聞いた結果 出典:自治体の災害対応にSNS情報は有用?8割以上「有用性を感じる」と回答【独自調査】

一つの情報に集中しがちなスマホ

――誤情報拡散に関して、SNS時代ならではの懸念点はありますか。

SNSでは1人が発信した情報が指数関数的に広がっていきます。
例えばすべてのユーザーに2人ずつフォロワーがいたとすると、1人が発信すると、2人に広がり、その2人が発信すると、4人に広がります。つまり、1→2→4→8→16と乗数的に広がります。実際は100人、1000人とフォロワーがいますので、ものすごいスピードで広がります。

――リアルタイムで、スピード感をもって広がっていくことは、SNSならではですね。

また、SNSの主なデバイスはスマホです。
ユーザーはスマホの中だけで情報を知ろうとします。
新聞だと、新聞を広げて見ることで、多くの情報を目にすることができますが、スマホだと1つの情報だけに集中しがちです。
また、SNSは自分の好みの情報を発信する人をフォローする傾向にあるため、自分が好きな情報・欲しい情報だけが流れてきます。
そういったことが、俯瞰的に多くの情報源に触れることによる真偽確認の機会を奪ってしまいがちになります。

Specteeの村上建治郎さん
Specteeの村上建治郎さん

シェアする前、「一瞬」冷静になって

――デバイスがスマホであることによって、「一つの情報に集中しがち」との指摘、我が身を振り返っても、確かにそうかもしれません。

誤った情報やデマの拡散はSNSを通じて行われることがほとんどです。
基本的にスマホの中だけで情報を入手した場合、得た情報を親指でポチッとするだけでシェアできてしまいます。
新聞やテレビ、本などの他の媒体にふれる機会は少ないですし、スマホの小さな画面の中では、複数の画面やアプリを立ち上げて、複数の媒体を確認して、真偽を確かめるというのは困難です。
そのため、誤った情報やデマを拡散してしまうのはスマホが中心になっている人たちが多いと思われます。
ただ、付け加えておきたいのはそれらの行為を行う可能性があるのは必ずしも若い世代に限るものではないということです。今は中高年世代もかなりスマホ中心の生活になってきています。

――冒頭でもおっしゃっていましたが、災害時、「有益な情報をシェアしたい」という「正義感」も誤情報やデマの拡散を手伝ってしまうことがあります。善意からくる行為だからこそ、気持ちのコントロールが難しいかも知れません。自制心をどう働かせるべきでしょうか。

基本的には、自分で真偽を確認できないものはシェアしないというのが一番良いです。SNSは「衝動的」にシェアする傾向が強いため、一旦少し時間をおいてみる。時間が経過するとシェアしたいという「衝動」は少し収まると思います。

その中で情報の有用性を考え、かつ自分で真偽の確認が取れたものは改めて発信すれば良いと思います。特に災害時はその一瞬冷静になるということが必要だと思います。

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