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お金と仕事

10万円の給付金で何買った?お金かかっても自分だけの「仕事部屋」

外出自粛で気づいた「大切な必要経費」

編集や執筆業に携わる矢作ちはるさん、新型コロナウイルスで気づいたのは「新しい働き方」だったという=矢作さん提供
編集や執筆業に携わる矢作ちはるさん、新型コロナウイルスで気づいたのは「新しい働き方」だったという=矢作さん提供

目次

新型コロナウイルスの拡大感染を受けて生まれた「特別定額給付金」。1人あたり一律10万円という給付は、受け取る人の経済状況だけでなく、その人の価値観も浮かび上がります。在宅ワーク、学校のオンライン授業など、新しい生活に向き合わなくてはいけなくなった中、世間の人たちは一体どんなものに給付金を使うのでしょうか? 「石の事典」の著者である矢作ちはるさんは、今回の特別定額給付金は仕事場として借りたシェアハウスの家賃にあてました。コロナ渦で急速に変わった働き方改革の中で見つけた、自分らしい仕事の仕方についてうかがいました。(ライター・安倍季実子)

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矢作ちはる(やはぎ・ちはる)
大手広告会社、出版社の企画・編集職を経て、2016年に独立。書籍の企画&執筆、情報誌やWebメディアの編集を中心に、編集&執筆業を幅広くこなす。雷鳥社から発売した初著書「石の辞典」は、発売から1年で4刷23,000部を突破。現在も“部屋に飾っておきたくなる美しい本”を作るために、得意分野であるネイチャー・サイエンス領域で企画・執筆を行う。
 

会社員時代から苦手だったデスクワーク

「今年の春までは、打ち合わせや取材で月の半分くらいは都心に出ていたのですが、上の子が小学校に通いはじめることもあって、住んでいる多摩地区からあまり離れなくてもすむように、年明けから地域密着型の仕事に変えました。今は自著の執筆と書籍の編集をやりながらも、多摩の地域ブランディングに関わる仕事をこなしています」

現在、場所と時間が固定されない働き方をしている矢作さん。以前からオフィスに通う生活には違和感を持っていたという。

「私は、デスクワークがとにかく苦手で…。一人で黙々と仕事をするのは好きなのですが、働く環境が固定されることが嫌いなんです。出版関連の仕事は締め切りがあるものの、どうやって完成させるかは担当者の裁量に任されているので、ある意味自由です。実際、都心に勤めていた頃から、会社近くのカフェなどでノマド的に仕事をすることが多かったですね。ここ5年ほどは、場所を固定しないノマドでの仕事だったのですが、だんだんと書籍の仕事が増えてきてからは、パソコンと資料を持ち込んでカフェで仕事をすることが難しくなってきました。書籍を丸々1冊書くとなると、参考書籍が10冊以上になります。ノマドでの仕事にも限界を感じ始めて、1年ほど前からリラックスして執筆できる仕事部屋を探していました」

仕事部屋は、『多摩地区』『予算感』『自分の趣味にあうかどうか』の3つのポイントで探した。

「オーナーがオールドアメリカン好きで、建物もそうですが、内装もとっても個性的でオシャレなんです。本当は、見つけてすぐに内見をしたかったのですが、当時は空き室がなかったので断念しました。4月を前にして、本格的に仕事部屋を探しはじめたタイミングで空き室が出たので、すぐに契約しました。半年や1年などの長期契約ではなく、毎月更新制なのも決め手になりました。なので、私は特別定額給付金を仕事部屋の家賃にあてました」

矢作さんが借りているシェアハウス=矢作さん提供
矢作さんが借りているシェアハウス=矢作さん提供

苦しんでいるのは自分だけじゃなかった

「実は、仕事部屋として使っているのは、シェアハウスの1室なんです。1~2万円で借りられるシェアオフィスではないので、毎月1ルームのアパート並みの家賃がかかりますが、自粛期間中に集中して執筆をしたい私にとっては必要経費でした」

家賃を「必要経費」と言い切るには、自粛中の経験が大きく関係していた。

「うちには、6歳と3歳の男の子がいるのですが、3月に入ってコロナで学校が休みになってから、思い切って2か月半の自宅学習に切り替えました。教育施設はどれも人の出入りが多い場所です。自分たちが気を付けていても、いつコロナにかかるかわかりません。それに、知らない間に無症状感染者になっている可能性もあります。人にうつされることも怖いですが、人にうつしてしまうことも同じくらい怖かったので、自粛期間中は『自分は無症状感染者だ』と仮定した行動を意識しました」

「でも、家族4人で不要不急の外出を避けた生活を続けていくのは大変でした。夫の仕事もリモートワークに切り替わり、順番に子どもの面倒をみながら仕事をしていたのですが、いざ子どもをみながら仕事をしようとすると、全然集中できません。同じ空間にいると子どもが頻繁に話しかけてくるのと下の子はトイレに一人でいけないので、文章を書くのも編集作業をするのも中断ばかり。目標の3割こなせればいい方で、お昼やおやつを作って食べさせたりしていると、あっという間に夕方です。そして、今度は夕飯の準備……。なんとか深夜から明け方にかけてスケジュールに間に合わせるような日々でした」

仕事と家事と子育てに追い詰められる矢作さん。でも、苦しんでいるのは家族も一緒だった。

「4月から裁量性を取り入れた地域密着型の仕事に関われるようになったので、仕事はたくさんあるけれど、仕事ができる環境とメンタルではないという板挟みに……。ストレスで発狂しそうな毎日でしたが、ある日、私よりも子どもたちの方が辛い思いをしていることに気づいたんです」

「それまで毎日外で友達と遊んでいたのに、ある日を境に一切の外出が禁止になって、遊びに行けないし、友達にも会えない。家ではパパとママは仕事をしていて、邪魔をすると怒られる。唯一の遊び相手は兄弟だけで、気を許しているからこそすぐにケンカになる。急に強い吃音が出始めた次男を見て、相当ストレスを受けていることがわかりました。そして、このままじゃいけないと思い、生活スタイルを変えることにしました」

「ある日、私よりも子どもたちの方が辛い思いをしていることに気づいたんです」と語る矢作さん=矢作さん提供
「ある日、私よりも子どもたちの方が辛い思いをしていることに気づいたんです」と語る矢作さん=矢作さん提供

お金をかけても優先したい働き方

「思い切って午前中は一切仕事をせずに、子どもたちと遊ぶ時間にしました。近くにある緑地や小川に出掛けて2 時間ぐらいたっぷり歩かせると、夜はぐっすり寝てくれるので、私たちの負担も減ります。それに、私にとってもいいリフレッシュになりました。コロナで気軽に遊びに行くこともできないので、土日も仕事日と割り切って、平日だけでなく土日も稼働する生活スタイルに変更しました。そうすれば、1日にやるべき仕事量が減るので、少し心に余裕が出てきます。仕事部屋で仕事をするとプチ旅行気分が味わえるので、『これは仕事ではなく遊びなのだ!』と勘違いできるというのも、メンタル上とてもよかったです(笑)。仕事がそこまで立て込んでいない日は、子どもたちもたまに連れていきます。部屋で絵を描いたり、共用スペースでアニメをみたり、ディスプレイとして飾ってあるおもちゃで楽んだりと、自由に過ごしていますね」

編集作業は自宅か地元の出版社のオフィス、執筆作業は仕事部屋と分けることで、ストレスも軽減した。

「今、借りている部屋は、木製の家具で統一された落ち着いた空間で、とてもリラックスできます。一面が収納棚になっていて、余計なものが目に入らないように、作業スペースには物を置かないようにしています。〆切前などで仕事が深夜になった場合は、デスクの後ろのベッドで仮眠もとれるので便利です」

個人的に集めた鉱物コレクションをインテリアに=矢作さん提供
個人的に集めた鉱物コレクションをインテリアに=矢作さん提供

「波はありますが、今のところは週2日ほど仕事部屋にこもって執筆をして、あとは自宅で作業をしています。よく小説家の方は、自宅とは別に執筆部屋としてアパートを借りたり、ホテルや旅館にこもったりして原稿を書くと聞きますが、私も仕事部屋を構えたことで、その気持ちがわかったような気がします。私が書くのは主に実用書ですが、その本の世界に入って文章を書くので、生活感のある自宅では気分が切り替わらず、あまり原稿が進みません。また、一人の世界に没頭できるほど原稿が進むので、この仕事をするかぎりは、集中できる一人の空間・時間をいかに上手に確保できるのかが鍵だということにも気づきました」

もちろん、世の中には仕事部屋を外に構えられる人ばかりではない。一方で、矢作さんの言葉からは、仕事一辺倒では、逆に仕事自体に悪影響が出てしまうという発想の転換がある。お金はかかるけれど、仕事の質や、やりがいを重視する選択肢があってもいい。それを矢作さんは「ボーダレス」と呼ぶ。

「コロナの影響でリモートワークに切り替わったのはいいものの、自宅では集中して仕事ができず、カフェへ行ったり、ビジネスホテルのリモートワークプランを利用したりする人が増えていると聞きます。いろいろな面でボーダーレス化が進む今、どこで仕事をするのかも個人の自由です。シェアハウスをオフィスと割り切って借りるのも、新しい働き方のひとつだと思います」

深夜作業後に仮眠をとって、早朝に自宅へ帰ることも=矢作さん提供
深夜作業後に仮眠をとって、早朝に自宅へ帰ることも=矢作さん提供

在宅ワークには賛成、気分転換ができる仕事場も必要

総合人材サービスのパーソルグループのパーソルファシリティマネジメント株式会社が実施した、「今後のワークスタイルの在り方」への意識調査では、在宅ワークを継続したいと思う人は、「週1回以上」が9割以上いた一方で、条件付きで「自社オフィスは今後も必要」という答えも9割以上いた。

新型コロナウイルス拡大感染の影響を受けて、働く場所を自由に選べるようになりつつある中でも、生活空間とは別にあるオフィスの重要性は以前、高いことがうかがえる。

しかし、自宅近くのターミナル駅に郊外型オフィスができた場合は、7割以上が「利用したい」と回答。通勤ストレスからの解放とオフィスで得られるパフォーマンスの両方をかなえられる場所として期待している様子がうかがえる。

新型コロナウイルスによって揺さぶられた働き方の常識。今年は、「新しいワークプレイス探し元年」になるのかもしれない。

【関連リンク】パーソルファシリティマネジメント、在宅ワーク経験者対象 今後のワークスタイルに関する意識調査 結果発表

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