連載
#50 #やさしい日本語
「仕事やめるなら90万円」外国人を縛る違法な罰金 卒業証明書まで…
「罰金を取られても仕方がない。でも、払うお金がない」と悩んでいましたが
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#50 #やさしい日本語
「罰金を取られても仕方がない。でも、払うお金がない」と悩んでいましたが
岩橋誠 NPO法人POSSE
共同編集記者
【機械翻訳用】ふりがな なし
◆「仕事やめるなら90万円」外国人を縛る違法な罰金 卒業証明書まで…
こんにちは。POSSEの岩橋誠です。今回は、「会社を辞めるなら、罰金を払いなさい」と言われた外国人からの相談です。新しい仕事を探したいのに、「会社が辞めさせてくれない」という相談がPOSSEにたくさん寄せられています。どうすればいいでしょうか。一緒に考えていきましょう。
■「辞めるなら90万円を払ってください」
【中国出身、女性、王さん(仮名)、20歳代】
私は子どものときから日本のドラマが好きでした。だから、中国の大学では、日本語を勉強しました。そして、中国の日系企業で働きました。
私は、日本で働きたいと思っていたので、インターネットで新しい仕事を探しました。そして、日本の温泉やホテルで通訳をする仕事を見つけました。派遣会社の社員になって、いろいろなホテルに働きに行く仕事です。中国で面接を受けて、採用されました。
私は日本に来るための飛行機代やビザの費用など50万円くらいを会社に払いました。そして、2018年12月に日本に来て、石川県や群馬県のホテルで働きました。
でも、日本に来ると、おかしいことばかりでした。まず、日本に来た時に、会社は私に「3年間は絶対に働かないといけません。もし途中で会社を辞めたら、会社は90万円をあなたに請求します」と言いました。怖いと思いました。
また、会社は、わたしの「大学卒業証明書」「大学学位証明書」「日本語能力証明書」を会社に預けなさいと言いました。会社は、「あなたが3年間働いた後で、あなたの卒業証明書を返します」と言いました。もし、会社に証明書を預けないと、私が働くことはできないと言うので、預けました。
ホテルでは朝早くから夜遅くまで働きました。でも給料は毎月17万円でした。会社は残業代を払いませんでした。
長い時間働いて、給料も安いので、私はこの仕事を辞めたいです。でも、会社が「3年間働かないで、途中で辞めると罰金がある」と言うので、辞めることができません。私はどうすればいいでしょうか。
■「辞めたら罰金」は違法です
この会社は、王さんに安いお金で、ずっと働いてほしいと考えているようですね。だから会社は3年間、王さんが絶対に働くようにする方法を考えました。「途中で辞めたら罰金」と言いました。また会社は王さんの卒業証明書を預って、辞めることができないようにしました。
でも、日本の法律では、会社は「辞めたら、罰金●●円を払いなさい」と決めることは、してはいけません。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。 (労働基準法 第16条)
最初から罰金を決めることはできません。もし会社が王さんに「罰金を払いなさい」と言っても、王さんは罰金を払わなくてよいです。
もし王さんがこの会社を辞めたいときは、「辞めます」と言えば、辞めることができます。会社の許可は必要ありません。
■卒業証明書を預かるのはおかしいです
そして、会社が王さんの卒業証明書を預かることも、おかしいことです。前に、パスポートを会社が預かって困っている人を紹介しました。
今回の件も同じです。王さんは、新しい仕事を見つけるために卒業証明書が必要です。
会社は王さんが新しい仕事を見つけると困るので、卒業証明書を預ります。 で
も、卒業証明書は王さんのものです。会社のものではありません。 王さんが会社に「返してほしい」と言ったら、会社は王さんに卒業証明書を返さなければ、いけません。
■すぐに相談してください
王さんは「おかしい」と思ったので、友だちからPOSSEのことを聞いて、POSSEにメールしました。
POSSEは王さんに、「罰金はおかしいです」と伝えました。また、卒業証明書は返してと言いましょう、と伝えました。
王さんはPOSSEの紹介した労働組合「総合サポートユニオン」に入りました。そして、会社に卒業証明書を返すように求めています。
■「辞めたくても辞められない」外国人労働者
以前の記事で、外国人労働者のパスポートを取り上げて転職を妨害する会社について紹介しました。今回のケースは、パスポートの代わりに「大学卒業証明書」を奪うこと、そして「罰金」をちらつかせることで、離職を阻むというものです。
「辞めたら罰金」と外国人労働者を脅す会社は珍しくありません。契約書に書き込まれている場合もあれば、口頭で「3年以内に辞めたら90万円を請求する」と告げる会社もあります。
この場合の会社側の意図は明確で、外国人労働者から自由を奪い、低賃金で劣悪な労働条件のもとで働かせるために「罰金」という手法が用いられています。
実は、「罰金」については、日本人でも、学生アルバイトなどに対して用いられるケースがあります。学生の相談を受け付けているブラックバイトユニオン(http://blackarbeit-union.com/index.html)にはそのような相談が毎日のように寄せられています。立場が弱い人を狙って「罰金払え」と脅し、半ば強制的に働かせる企業はなくなりません。
日本の法律に詳しくない外国人労働者では、なおさら、「契約は絶対に守らなければいけない」と考え、契約期間内に退職した場合に罰金を支払うことはやむを得ないと思い込んでいることが多々あります。王さんも私たちが「会社がしていることは違法です」と告げるまでは、「罰金を取られても仕方がない。でも、払うお金がない」と悩んでいました。
パスポートや卒業証明書を奪ったり罰金を設定したりして、労働者の自由を奪う行為が、特に外国人の働く職場で蔓延しています。罰金は労働基準法で禁止されてはいるものの、法律を無視して設定する企業は至るところに存在します。外国人との共生を考えるうえでは、同じ社会を一緒に生きている日本人も外国人が働く職場環境にもっと注目していく必要があるのではないでしょうか。
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