連載
#47 #やさしい日本語
「パスポート返したら、逃げるでしょ?」外国人が見た日本企業の闇
「Help me」というメッセージが届きました
【機械翻訳用】ふりがな なし
◆「パスポート返したら、逃げるから」転職もできない、外国人が見た日本の闇
こんにちは。POSSEの岩橋誠です。今回は、会社がパスポートを預かっている人の相談です。パスポートは外国人にはとても大切なものです。でも、あなたが辞めないように、会社がパスポートを持つことも多いようです。今日はそのような相談者です。
■パスポートを返してほしいです
【相談】フィリピン出身、女性、ブレンダさん(仮名、30歳代)
私はフィリピンの大学で、観光を勉強しました。私はフィリピンで事務の仕事をしていました。でも、家族が日本に住んでいたので、日本で働こうと思いました。
私は東京の日本語学校に2年間通いました。そして、日本語学校を卒業しました。卒業したあとの仕事を探していました。その時に、友だちが横浜にある行政書士事務所を教えてくれました。 行政書士事務所には、私はアルバイトとして入社しました。
私の仕事は通訳と翻訳でした。会社は私のビザを留学ビザから就労ビザに変えるといいました。私はパスポートを会社に渡しました。そのときに、私は「パスポートの管理に関する契約書」にサインしました。日本語で、あまり分かりませんでしたが、会社を信頼していましたので、サインしました。ビザの手続きが終わったときに、会社は私のパスポートを私に返してくれると思いました。
働いて2ヶ月して、私は就労ビザをもらいました。ビザの手続きは終わりました。でも会社は私のパスポートを、私に返してくれません。私が「パスポートを返してください」というと、会社は「会社が預かります」といいます。会社は私に「パスポートをあなたに返すと、あなたは会社を辞めて、逃げてしまうから」と言いました。
そこで、私はサインした契約書を見ました。そこには「パスポートの管理方法はすべて会社が決定する」や、「パスポートは退職後も会社が管理する」と書かれていました。私はすごく怖くなりました。 パスポートは私のものです。このままでは、フィリピンに帰ることができません。仕事を変えることもできません。どうすればいいですか。
■パスポートはあなたのものです
まず、パスポートはブレンダさんのものです。会社のものではありません。ブレンダさんが会社に「返してほしい」と言ったら、会社はブレンダさんにパスポートを返さないといけません。 日本には、ブレンダさんと同じように、会社にパスポートを取られて、困っている外国人がたくさんいます。
国は、会社が働く人のパスポートや在留カードなどを保管しないでくださいと言っています。(厚生労働省:外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針)
また、もし、ブレンダさんが「技能実習生」であれば、会社がブレンダさんのパスポートを預かることは法律違反になります。(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 第48条第1項)
でも、「技能実習生」ではない人については、法律がありません。
■会社を辞めたとき
ブレンダさんが会社を辞めたときは、会社は7日以内にブレンダさんのものを全部、ブレンダさんに返さないといけません。これは、労働基準法という法律で決まっています(労働基準法第23条)。
■誰かに相談してください
会社がパスポートを返してくれないときは、すぐに誰かに相談してください。 POSSEでも24時間メールで相談できます。お金はかかりません。 ブレンダさんは、”Help Me” というメッセージをフェイスブックでPOSSEに送りました。POSSEは、ブレンダさんに労働組合(ユニオン)に入ることを勧めました。
労働組合は、働く人たちが集まって、働く環境を良くするための団体です。例えば、給料を上げることを、会社に求めることができます。また、「外国人差別をやめて」や、「パスポートを返して」と会社に求めることもできます。 ブレンダさんは労働組合と一緒に、会社に行きました。でも、会社はパスポートを返しませんでした。労働組合と話し合うことも拒否しました。
そこで、ブレンダさんは、いまパスポートを返してもらうために、裁判をしています。裁判にはお金がかかるので、クラウドファンディングで集めています。
■「強制労働」が蔓延する日本
「まさか日本でこんなことが」と思われる方も少なくないと思いますが、この事例は、ブレンダさんの名前を仮名にしている以外は、全て事実をもとに書いています。ブレンダさんは、昨年(2019年)7月中旬以降、この会社には出勤していませんが、ブレンダさんのパスポートは、1年経った今でも、会社が保管しています。
そこで、ブレンダさんがパスポートを取り返すために、POSSEは寄付やクラウドファンディングを通じて裁判費用を募りました。そして、ブレンダさんは今年1月、パスポートの返還や慰謝料を求めて、行政書士事務所を訴えました。
しかし、これまであまり問題化されていなかっただけで、そもそも、外国人労働者のパスポートを会社が保管することは、「強制労働」につながる深刻な事態だと世界的には考えられていました。 例えば、国際労働機関(ILO)は、強制労働を「ある者が処罰の脅威の下に強要され、かつ、右の者が自ら任意に申し出たものではない一切の労務」と規定した上で、「旅券や身分証明書を預かることは移民労働者に対し強制の要素を生じるさせるおそれがあります」と書いています。
実際、労働者のパスポートや身分証明書を会社が「預かる」ことで、様々な弊害が生じます。日本国籍保持者が日本国内で働く時にパスポートは不要ですが、外国人労働者の場合、転職先にパスポートを提示しなければいけません。パスポートがなければ転職することができず、そのため、今の職場が低賃金でハラスメントが蔓延する劣悪なところだったとしても、「我慢」して働き続けることを強制されてしまいます。
しかしながら、日本では、会社が外国人労働者のパスポートなど身分証明書を預かることを禁止すらされていません。預かる行為が違法ではないため、国が介入することが困難です。つまり、ブレンダさんはまさに自分自身で取り返すしかないのです。
ただ、外国人自身が1人で裁判をすることは非常に困難です。言葉の壁だけでなく、実際に裁判費用を負担するだけの経済力がなければいけません。また、「誰かに言ったら国に返す」などの会社から脅しをされることもあります。そのような状況を変えるために、人権侵害の被害に遭っている外国人を、NPOや労働組合をはじめ社会全体で支援していくことが求められています。
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