IT・科学
伊藤潤二さんの「グロテスクなアマビエ」きっかけはしょこたんママ
「海の妖怪とは知らなかったので、足を木の根っこのように描いてしまいました」
新型コロナウイルスで注目されるようになった半人半魚の妖怪「アマビエ」は、ネット上で「アマビエチャレンジ」として様々なアレンジが施されたイラストが投稿されるなど、国民的なキャラクターになりつつあります。ゆるキャラ風の見た目が特徴の「アマビエ」ですが、ホラー漫画家の伊藤潤二さんが投稿した「アマビエ」は、ガチの妖怪です。「富江」シリーズなどで日本中を震えさせてきた伊藤さん。毒々しい「アマビエ」を描くに至った背景には、意外なエピソードが隠されていました。
「最初はアマビエが何なのかすら知らず、SNS上でアマビエの絵を目にして、どうやら疫病に効くありがたい存在なのだと知りました」と話す伊藤さん。「いろんな作家さんが独自のアマビエを描いているのを見ていましたが、自分も描こうとは思っていませんでした」と振り返ります。
そんな伊藤さんの背中をおしたのは、普段から仲良くしていたタレントの中川翔子さんのお母さんの中川桂子さんのLINEでした。
「ある日、LINEで、『伊藤先生のアマビエが見たいです』とリクエストされたので、描くことにしました(笑)」
早く収束しますように。 pic.twitter.com/JcgPHkK2jd
— 伊藤潤二 (@junjiitofficial) May 1, 2020
そんな言葉とともにツイッターにアップされた画像は、瞬く間にシェアされ、3万6千リツイート、10万3千のいいね(2020年8月4日現在)がついています。
「今までにない量のリツイートがなされ、フォロワーさんも一気に増えました。アマビエの人気のすごさを思い知りました」
参加してみて、あらためて「アマビエ」の存在の大きさを知ったという伊藤さん。
「新型コロナが早く終息することを祈る皆さんの気持ちが一つになったアマビエチャレンジは、人の心の温かみを感じさせてくれていいものだなあと思います」と語ります。
伊藤さんの描いた「アマビエ」は、長い髪の毛が体を覆いリアルなウロコと根っこのような無数の足があります。一言でいうと「ガチな妖怪です」
ツイッターなどで流行した「アマビエチャレンジ」では、「ゆるキャラ」のような見た目をさらにデフォルメしたイラストが人気の中、異色な存在感を放っています。
自身の「アマビエ」について伊藤さんは「実際にいたらこんな感じではないのかなと想像しながら描きました」と解説します。
「アマビエが人気ということは、一般的にはゆるキャラのような愛嬌(あいきょう)が受けるのだと思いますが、私はへそ曲がりなので、逆に愛嬌のないものを描こうと思いました」
伊藤さんがこだわったのは、あくまで生々しさです。
「クチバシを鋭くしたり、皮膚感をグロテスクにしたりしました。これを描いた時は海の妖怪とは知らなかったので、足を木の根っこのように描いてしまいました」
現在、ネットには、怪奇スポット巡りなど、ホラーのジャンルが人気になっていることについて「動画サイトでは怪談語りや、怪奇スポットめぐりを扱っている方が多いですね。一般の方も発信できる動画サイトは、隠れた穴場や、見過ごされがちな現象も発掘しやすいのかもしれません」と伊藤さん。
「地上波テレビと違って、まだ規制が緩いのだと思いますが、テレビではとても流せない残酷な映像や、怖すぎる映像を見ることができるので、それでイヤーな気分になったり、ゾッとしてしまうのはインターネットならではでしょうね」
新型コロナウイルスによって自宅で過ごす日人が多い、この夏。おすすめの「心底怖いホラー漫画」として挙げてくれたのが『億万ぼっち』です。
「『億万ぼっち』は、人同士が接触することでお互い縫い合わされた死体となって発見されるという事件が全国規模で発生し、人同士が接触を恐れて、各自部屋に閉じこもってしまうという話です。新型コロナでソーシャルディスタンスが推奨される現在にちょっと似ていますね」
また、「ぞっとできる話」として、おすすめなのが『脱走兵のいる家』。
「太平洋戦争中に軍隊から脱走した兵士が、友人宅の土蔵に何年もかくまわれるという話で、私の漫画の中では、ぞっとできる話だと思います」
ツイッターでは海外のフォロワーからの反応は多い伊藤さん。活動の幅は年々広がっており、最近では、最近では、動画サービスにも出演しています。
「アマゾンプライムビデオの『Channel恐怖』に毎回ホラー漫画家がゲストで登場する番組があって、それに私も出演しました。ほかにもいろんなホラーコンテンツが観られるチャンネルなので、おすすめですよ」
ネットでホラーが楽しめる時代とはいえ、夏は、「現地」に足を踏み入れたいものです。漫画家になる前は、歯科技工士として働いていた伊藤さん。当時、訪れた「ホラースポット」は今も忘れられないと言います。
「同僚と夜中に車で行った、旧伊勢神トンネル(愛知県豊田市)は怖かったですね。トンネルが車のライトに浮かび上がってからは、入り口に近寄ることも、車から降りることもできず、這う這うの体(ほうほうのてい)で逃げ帰ってきました」
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