IT・科学
動画編集でよみがえった「フィルム現像」の記憶「意外にできる」
「万人受けなんか狙わなくていい」ライターの気づき
最近はスマホで気軽に撮影できるようになった動画ですが、編集となると今もハードルの高いイメージがあります。家で過ごす時間が増える中、気軽に動画編集にチャレンジするにはどんなソフトや機材が必要なのでしょうか? ほんのちょっとの工夫で「プロっぽく」見せられるテクニックとは? 専門家に聞いてみました。(ライター・青山ゆずこ)
話を聞いたのは、Adobeの田中玲子さんです。
筆者が動画編集に持っていたイメージは、「プロや知識がある人しかできなさそう」「素人には絶対ムリ」「なんか大がかりで高そうな機材がないとできないんだろうな」などなど。
そんな不安に田中さんは「難しそうと思われがちですが、今はスマホだけで編集ができちゃう時代です」と、ズバッと答えてくれました。
なるほど、動画の編集をかじったことがあるわけでもないのに、いつの間にか勝手に苦手意識を持っていたような気がします。
不安が和らいだところで、次に悩むのが機材です。カメラのスペック、動画ソフトはどうすればいいのでしょうか?
実は、スマホやタブレットを持っている人なら「何も買わなくてもいい」場合がほとんどです。
まず、カメラ。
最近のスマホやタブレットの性能の進化はすばらしく、手にしている画面をテレビに表示させる「画面ミラーリング」をしても、十分きれいに見られるほどの画素数があります。
なので、基本、動画編集のためにカメラをわざわざ買う必要ないことがほとんどです。
じゃあ、ソフトは?
数がありすぎる……。動画編集のプロは多くの機能を駆使して作品を作り上げますが、素人の私は機能が多すぎると使い切れないだけでなく、「あ~なんかもう面倒くさい!」と編集自体に嫌気が差してしまうかも。そんなことを考えて余計に選べなくなっていたら、動画編集アプリのワークショップがあると聞いて、試しに参加してみました。
完全オンラインで行われるため、私はパソコンに2千円のウェブカメラを接続して受講し、かたわらのiPadに今回のワークショップに必要な動画の編集アプリ「Adobe Premiere Rush」をダウンロードしました。
編集の順序は人それぞれ違いますが、私ゆずこは、まず初めに動画の不要な部分をカット。そこに音やテロップ、静止画などを挿入していきます。一つ一つの作業は単純で、その数を増やせば増やすほど凝った動画に仕上がっていくという寸法です。
BGMを、ある場面で一気に切って無音にすると緊張感が演出できたり、喋っている言葉をテロップにするだけでなく、テロップをツッコみとして使ったりなど、何を伝えたいかによって効果的な方法がいろいろあるようです。
ワークショップでは、BGMのボリュームを下げて自分でナレーションを入れる“アフレコ”も紹介していました。
およそ1時間弱。ワークショップが終わるころには基本的な動画編集ができるようになっていました。あまりに簡単すぎて、「あれ? もしかして私、動画編集のセンスがあるのでは? こりゃあさっそくYouTubeデビューか。動画作りまくって大儲け……」と一瞬、夢を見てしまったほどです(我に返った今も、ちょっと本気で狙っています)。
そんなこんなで、動画編集の面白さを知った私は、ある動画を作ってみました。
素材は、保護した猫の赤ちゃんを撮影したものです。我が家にやってきた時は不安そうに震えていて、無事にうちの子になってくれるかなあ……とハラハラドキドキでした。
それが2日後には、元から住んでいる先輩猫のベッドをどーん!と占領して、わが物顔で寝るという大物っぷりを発揮!
動画では、初めて我が家に来た時にどれだけ不安そうだったのか、その様子を見てもらった方が言葉で説明するよりもギャップが面白い(はず)。
そして出来上がった動画のテーマは、ズバリ「ギャップが激しい赤ちゃん猫」。
動画編集ド素人の一発目の作品なので恥ずかしいのですが……。途中で簡単に描いた手書きのイラストを差し込んで、動画の見せ方に変化が出るよう狙ってみました。
自信作ができたら、たくさんの人に見てもらいたくなります。自分でYouTubeのアカウントを作るのもいいですが、最近では、動画作品のコンテストも頻繁に開かれています。ちゃちゃっと検索したところ、7月3日時点で受付中の賞金の大きなものでは、富山市などが主催する「富山映像大賞 2020」なんてものがありました。グランプリは賞金なんと300万円!
読み物は活字を目で追いますし、イラストなどの絵もそれが何を意味しているか感じ取ろうとします。誤解を恐れずに言えば、これらは「情報を自分から受け取りに行く」という感じ。
でも動画は、身構えなくても「情報が自然に入ってくる」受け身です。BGMならぬBGV(バックグラウンドビデオ)なんてものもあるぐらい。それだけすんなりと情報を伝えられるものだと思います。
見る人によっては感情移入もしてくれます。たとえば寝たきりのばーちゃんが出てきたら「うちのばーちゃん何してるかな」「連絡してみようかな」という気になるのではないでしょうか。文章よりイラストより情報量が多く、一瞬で伝わる。どんなにうまい文章でもかなわないものがあります。
「いやいや、そうは言ってもねぇ。インスタのストーリーとかtiktokに慣れている人なら簡単かもしれないけど……」って聞こえてきましたよ。サイキックゆずこなんで。ええ。
何はともあれ、一度やってみることをオススメします。私は今回、恐る恐る動画編集をやってみて昔を思い出しました。
フィルムカメラからデジタルカメラに移行する時代で、両方を持って取材に出ていました。フィルム写真は紙に焼かないと仕上がりが分からないし現像は大変だし、プロにお願いするものでした。当然、自分で焼く(現像する)なんて想像もしていませんでした。
ところがあるきっかけで暗室に入ることがあって、試しに焼いてみたらドハマりしましたこれ。興奮しました。意外にできるんです。
動画編集も、いらない部分をカットした時点で嬉しくなりました。できるじゃん!て。たったそれだけで自信につながりました。
躊躇しているのはもったいないです! 先ほども書きましたが、たとえば「ありがとう」のひと言を伝えるなら断然、動画です。ライター云々じゃないんです。手書きも暖かいけれど、それを撮って音楽を載せればさらに伝わるはず。言葉を伝える現代の方法だと思います。
完璧な編集なんてプロでも不可能(?)なんですから、無理にテレビのまねをしようとしたり、万人受けを狙おうとしなくていいと思います。
乱暴な言葉遣いや、奇をてらっていきなり爆音を入れると人を傷つける可能性があるので、そういうのは控えておいて……。田中さんも言っていましたが、誰に何を伝えたいか、その「想い」で十分な動機と編集方針になります。うまく作ろうとせず、拙くても気持ちがこもった物のほうが伝わります。料理も「おいしくなぁれ」って念じるのが最高の調味料って言うじゃないですか。それと同じですたぶん。
動画が出来上がったら、何かに投稿したり応募する前に、試しに誰かに見てもらうのがいいのではないでしょうか。
コロナ禍で人物の撮影はハードルが高いかもしれませんが、それが全てではありません。これを機会に親や、じーちゃんばーちゃんがオンラインを始めてくれたのだとしたら、それはかなりラッキーです。オンラインは対面では言えないようなことが言えたり、話し方も変わったりします。新しい空気が生まれることもあるし、なんとも絶妙な距離感を保てます。これぞ新たなソーシャルディスタンス。そして何より、やりとりを保存しておけば動画の素材になります。
どこにも行けないなら部屋で動画編集したらいいじゃない!