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コロナ自粛で自然保護に目覚める?公園の「癒やし効果」研究者の期待

公園との関わりが生むかもしれない「革命的変化」とは?

爽やかな緑の息吹を感じさせてくれる、公園。新型コロナウイルス流行後、この場所が「自然保護の拠点」になるかもしれない、と期待する研究者がいます(画像はイメージ)
爽やかな緑の息吹を感じさせてくれる、公園。新型コロナウイルス流行後、この場所が「自然保護の拠点」になるかもしれない、と期待する研究者がいます(画像はイメージ) 出典: PIXTA

目次

新型コロナウイルスによって遠出や旅行が難しくなる中、息抜きの場所として見直されているのが都市公園です。「この動きが『自然なんて守らなくてもいい』という意識を、変えていく可能性もある」。緑に囲まれることで得られる、癒やし効果について研究する専門家は、そんな未来像を思い描いています。感染症がもたらすかもしれない、意外な効果について聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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「強制的に」自然に親しむ状況が生まれた

「遠方の自然を楽しめないために、近場の公園に行くことで、体験を代替しているという人はいるかもしれません」。ウイルス禍後の社会状況について、そう語るのは、東京大大学院農学生命科学研究科の曽我昌史准教授(32)です。

曽我さんは、人間と自然の関係性について研究する「保全生態学」を専攻。急速な都市化などが原因で、日常的に自然と触れ合う機会が減る「経験の喪失」や、それに伴う社会の環境保全意識の衰退である「基準推移症候群」に関心を注いできました。

これら2つの事柄は、環境保全の意識と密接に関わっているといいます。現在の日本では、いずれも深く進行しているそうです。

東京の夜景。数え切れないほどのネオンの明かりが、ビルの森を照らし出す
東京の夜景。数え切れないほどのネオンの明かりが、ビルの森を照らし出す 出典: PIXTA

一方、ウイルスの出現を機に、運動や気晴らしのため、公園に足を運ぶ人が増加しました。このことが、一連の問題に対処する上でプラスに働く可能性がある、と曽我さんは考えています。

「都市化が進むと、実際に自然と触れ合う機会が減り、その価値はますます理解しづらいものになる。すると『自然なんて守らなくていいか』という考えに陥りやすくなってしまいます」

「ウイルスの流行に伴って、娯楽施設が閉鎖され、人々の生活様式は変化しました。その結果、近隣の公園などに行き、身近な自然に親しむ場面が増えています。その経験が『自然っていいな』というポジティブな意識を呼び起こし、『経験の喪失』の負のスパイラルを、逆転させるきっかけになるかもしれないのです」

東京大大学院農学生命科学研究科の曽我昌史准教授。自身も、よく近隣の公園で過ごすという(本人提供)
東京大大学院農学生命科学研究科の曽我昌史准教授。自身も、よく近隣の公園で過ごすという(本人提供)

緑に囲まれて得る「癒やし」の正体

ところで、私たちと自然とのつながりを考えるとき、しばしば語られるのが「癒やし」という言葉です。曽我さんによると、実際に緑に囲まれた人の心身には好影響が及びうると、科学的に明らかになりつつあるといいます。

「自然に触れたときに得られる健康効果は、大きく四つに分けられます。一つは、公園での散策やジョギングなどの運動に伴う、血圧の低下や肥満の解消といった身体的健康の改善です。二つ目は心の健康で、ストレスや不安な気持ちの減少、前向きな気持ちの増加などがあります。一般的に言われる癒しの効果とは、このことです」

「三つ目は『社会的健康』です。公園には、地域や家族のメンバー同士が仲良くコミュニケーションを取ることができる場所、という側面があります。つまり、自然が良好な人間関係を媒介する装置として機能しているんです。四つ目として、認知機能を向上させる可能性もわかってきています」

自然は良好な人間関係を媒介するという(画像はイメージ)
自然は良好な人間関係を媒介するという(画像はイメージ) 出典: PIXTA

孤独感が現象、心身とも健康に

これらの現象には、脳の働きが関わっているとの説もありますが、詳細なメカニズムはまだ十分に解明されていません。他方、「緑に触れると健康になる」という事実は、曽我さん自身も研究によって確認したといいます。

その一例が4年前、東京都の市民農園利用者と非利用者、計332人に対し行ったアンケート調査です*註1

利用者と非利用者の間で、心や社会的健康状態の違いを調べたところ、利用者は精神的な健康状態がよい(うつや不安症の症状が少ない)だけではなく、地域コミュニティに対して強い連帯感を持っていると明らかになりました。

こうした健康状態の違いは、年齢や性別、収入などの個人属性を踏まえても、なお確認されました。また昨年、市民農園の運営事業などを行う企業「アグリメディア」(東京都新宿区)と行った共同調査でも、同様の健康効果があることがわかったといいます*註2
アンケート調査の結果を示した図。農園を利用している人の方が、利用していない人よりも、精神的な健康状態がよいことがわかる
アンケート調査の結果を示した図。農園を利用している人の方が、利用していない人よりも、精神的な健康状態がよいことがわかる 出典: 曽我昌史さん提供

また新型コロナウイルスの拡大により、自宅で生活をする人が増えた今年5月、都内で大規模なアンケートを実施。都市公園を頻繁に利用している人は、うつ・不安症の症状や孤立感が少ないだけではなく、ポジティブな気持ちが高いと判明しました(結果は未発表)。

曽我さんは、利用者同士の交流を通じ、一人一人の孤独感が減ったことも見逃せないと指摘します。

「緑豊かな場所で怒っていたり、他の訪問者を邪険に扱ったりするような人は、あまりいません。いわば自然を介すことで、その場にいる人々が余裕を持ち、幸せに過ごせる空間が生まれている。そう言えるのではないでしょうか」

*註1:Health Benefits of Urban Allotment Gardening: Improved Physical and Psychological Well-Being and Social Integration:MDPI Open Access Journals(英語)

*註2:【東京大学×シェア畑 共同調査】市民農園の利用が健康によい影響を及ぼすことが分かりました/シェア畑利用者と非利用者を比べた場合、精神面の健康レベルに2.3倍の違いがあることが判明:アグリメディアウェブサイト

 

土に触れたり、緑に囲まれたりすると、心に余裕が生まれる(画像はイメージ)
土に触れたり、緑に囲まれたりすると、心に余裕が生まれる(画像はイメージ) 出典: PIXTA

公園が、自然への愛着を深める拠点に?

ウイルスが広まって以降、娯楽の選択肢が失われ、相対的に都市公園の存在感が高まりました。結果として、これまで見てきたような、自然の効用に注目が集まるというシナリオも考えられそうです。

ただ、単に運動などのために足を運ぶだけで、周辺の自然を意識しない人も多いかもしれません。こうした事情を踏まえ、曽我さんは「本当に人々の自然に対する興味や価値認識が高まったか、まだ判断するには早い」とした上で、次のように語りました。

「実際に公園へ行き、緑に触れることで、その価値に気付く。そして継続的な自然体験の動機付けとなる……との展開は、十分あり得るように思われます」

しかし、注意すべき点も存在します。公園の利用者が、地面に生えている植物を踏み荒らすことで、成長が阻害されるといった恐れが否定できません。このため、人間の行動がネガティブな方向に作用しないよう、生態系への配慮が必要になると言えるでしょう。

とはいえ長期的に見れば、健康になる人が増えたり、自然への愛着心が育まれたりと、よい効果が見込めるのではないかーー。曽我さんは、そう考えています。

「ウイルス流行前のような生活に、すぐ戻れるわけではありません。人間と自然の関わり合い方が、大きく変化しているというのは、間違いないでしょう。これからどういった推移をたどるのか、私も興味があります。引き続き、調べてみたいですね」

公園に芽吹く身近な自然が、人々の環境への意識を変えるかもしれない(画像はイメージ)
公園に芽吹く身近な自然が、人々の環境への意識を変えるかもしれない(画像はイメージ) 出典: PIXTA

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