マンガ
「もうセーラームーンやめる」今ならわかる、母が見せた怒りの理由
あなたはいつ、あの頃の「好き」を手放しましたか

漫画「母とセーラームーンと私」
当時6歳のさざなみさんは、漫画のようなセーラームーンたちが描きたいと、模写に明け暮れていました。それを見たさざなみさんの母は時々、人物の関節や服の形の不自然な部分などを説明してくれたり、ポーズのモデルをしてくれたり……。一緒に絵を描くことはなくとも、さざなみさんの感性を育ててくれていました。
そんな母に見守られながら、さざなみさんはセーラームーンとともに成長していきました。友だちができた思い出、絵を褒められた思い出、泣いた思い出さえも、そこにはセーラームーンがありました。
「私も変わらなくちゃいけないのかな…」。そんな気持ちになった習い事の帰り道、母が運転する車の中でさざなみさんはつぶやきました。
「もう セーラームーンやめる」
「そんな風に言わんといて!」母が怒った理由
一度口に出すと、せき止めていた不安や戸惑いがあふれ出るように、セーラームーンへの「悪口」は止まりませんでした。すると……。
「セーラームーンのことそんな風に言わんといて!」
聞いたこともない声で母が怒鳴ったのです。さざなみさんは驚き、「ごめんなさい」と謝りました。しかしこのとき、さざなみさんは母が怒った理由を理解できていませんでした。
少しだけ母の気持ちがわかった気がしたのは、さざなみさんが親になってからでした。さざなみさんが見つめる気には、何かに夢中になっている娘。漫画はこうしめくくられています。
時間を忘れてのめり込む その情熱がただ誇らしく 愛おしい
あの一瞬、私をたしなめた時に 母が庇ってくれていたのは、
セーラームーンじゃなく、
セーラームーンを好きだった「私」なのだ
「忘れていたこの気持ち」反響集まる
さざなみさんの漫画をきっかけに、幼い頃夢中になったものを「卒業」した時のことを振り返る人も多いようです。「忘れていたこの気持ち」「私もからかわれて卒業してしまった」などのリプライが寄せられ、「いいね」も7万件以上集まっています。
🌙母とセーラームーンと私💫#コミックエッセイ #育児漫画 #エッセイ漫画 pic.twitter.com/SCtfMWkIfC
— さざなみ (@3MshXcteuuT241U) May 16, 2020
出会いは、小学校に上がる頃に始まったテレビ放送。
「キャラクターの可愛さも魅力ですが、主人公が中学二年生で年齢が割と高いこと、ストーリーが壮大であること、怖いほど本格的な戦闘シーン、運命的な恋愛要素など、憧れる理由はたくさんありました」
家族がニュースを見るため、土曜夜の本放送が見れず、夕方の再放送で追いかけた思い出。この頃は、周りの女の子たちのほとんどが放送を見ていたそうです。
作中にも登場する、スカートの構造のアドバイスをはじめ、人間の骨格や惑星の大きさなど、さざなみさんが悩んでいるタイミングで適切な助言をくれたといいます。
「イラスト風に描くにしても、きちんと本物の構造を理解して描くことが大切だと、早い時期に母から教えてもらいました。資料を借りるために毎週のように図書館に連れて行ってくれました」
ずっと記憶に残っている母の「悲しそうな声」
「一番堪えたのは、同学年のお友だちが私に『なかよし』(雑誌)の付録ををどっさりとくれた時です。セーラームーンのカラー表紙の切り抜きや、特別なイラストの入った付録。その子の家に行くたびに見せてもらっていた宝物でした。もういらないから、と言って渡された時、嬉しいはずなのにどうしてこんなに悲しくなるのか自分でもわかりませんでした」
周囲の変化に戸惑い、置いていかれるような焦燥感で芽生える「変わらなくちゃいけないのかな」という気持ちは、誰しも経験したことがあるのではないでしょうか。気付くと、さざなみさんは自分が傷ついた言葉を、セーラームーンに向けて口にしていました。
「悲しそうな声だな、と思ったのを覚えています」
あのときの感覚が蘇る…子育ては「人生のツアー」
「娘の熱意の対象が、私の本来の興味の的から大きく外れていたとしても、娘を生き生きと楽しませてくれることに感謝を捧げたいと思うし、支持してやりたいと、自然に思ったのです」
「プリキュア」などの絵を真似して描き始めた娘に自分が重なり、思い出したのはあの出来事でした。
「車の中で窓越しに見ていた雨粒や、母の悲痛な怒鳴り声、車内のお通夜のような雰囲気。当時の母の感情を、今ならなんとなく想像できるな……と思って描きました」
「もしも娘が好きだったものをやめると宣言したら…」
「もしも娘が好きだったものをやめると宣言したら、身を切られるように辛く感じると想像できます。その気持ちをそのまま伝えて、私自身の体験についても話してみたいと思います。素直に聞いてもらえるような親子関係を築いていたいです」
「30代くらいの方でしょうか、『セーラームーン世代』の方からも、漫画の中の親子どちらの気持ちも分かると言っていただけたことも嬉しかったです。好きなことはずっと好きでいていい、という言葉が力強く、そこに『いいね!』が沢山集まっていることにも励まされ、明るい気持ちになれました」