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矢部「公開説教」の本気、30年前の「ダメ出し」岡村にぶつけ返す

「お前、性格変えろ!」19歳の時に言われた強烈な一言

ナインティナインの矢部浩之と岡村隆史
ナインティナインの矢部浩之と岡村隆史 出典: 朝日新聞

目次

相方である矢部浩之(48)による「公開説教」に発展したナインティナイン岡村隆史(49)の不適切発言は、これまでのタレントによる謝罪にはない展開を見せた。30年前、芸能界になじめず岡村から「性格変えろ!」と言われた矢部が、今度は、岡村に同じ言葉をぶつけることに。コンビ継続のため言わざるを得なかった矢部の厳しい言葉から、ファンや関係者との「閉ざされた世界」が成り立たなくなった時代のお笑いについて考える。(ライター・鈴木旭)

許されるものではなかった発言

新型コロナウイルスによって仕事がなくなり経済的に苦しむ人がいる中、「コロナが明けたら可愛い人が風俗嬢やります」などと発言した岡村の行動は許されるものではなかった。

4月23日に放送された『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で、リスナーから「コロナの影響で今後しばらくは風俗に行けないし、女の子とエッチなこともできないと思うので、思い切ってダッチワイフを買ってしまおうかと今真剣に悩んでます」という相談が届いた。

これに岡村は「いつか雨は上がんねんから。今は辛抱よ、これは」と笑い交じりに励ました後、「コロナが収束したら絶対面白いことあるんですよ」「短期間ですけれども、美人さんがお嬢やります」「短時間でお金をやっぱり稼がないと苦しいですから」「3カ月の間、集中的にかわいい子がそういうところでパッと働きます。で、パッと辞めます」などと続けた。

岡村の発言は「女性差別」「性的搾取」にあたるとしてネットニュースなどに取り上げられ、批判が集中。所属事務所の吉本興業がホームページ上に岡村本人の謝罪文を発表する騒動にまで発展した。

翌週30日に同番組で岡村は謝罪。事態を重く見た相方の矢部浩之が途中から登場し、岡村に「公開説教」することになった。

吉本興業がホームページ上に発表した謝罪文
吉本興業がホームページ上に発表した謝罪文 出典:https://www.yoshimoto.co.jp/corp/news/media/media200429.html

辛辣な指摘の裏にあるリスペクト

矢部の岡村に対する指摘は、なかなかに辛辣だった。岡村の失言に対する説教という枠を超えて、「岡村の根本的な性格」に対して苦言を呈するというものだ。

身内に甘えていて、矢部や番組スタッフに「ありがとう」「ごめん」を一度も言ったことがない。食事会などに誘われたら直接断らず、マネジャーに「仕事やったことにしといて」と頼んで逃げる。

歳を取って偉くなり、こうした“ズレ”を誰も指摘できなくなった。同業者やリスナーには岡村の風俗キャラが定着しているだろうが、知らない人が聞けば「女性軽視」「男尊女卑」と思われることに気づけていない。根っこの部分で致命的におかしいのは岡村だが、注意できなかったリスナーやスタッフ、作家も悪い。

2010年に体調不良で5カ月休業したが、復帰してから一度も矢部に謝ってもいない。そんななか、周囲の人間はさらに岡村に優しくなった。「かわいそうさんは炎上しない」という幅が広がった。ただ、世の中にはもっと大変な人もいる。岡村は、年を取って偉くなり、お金を持って、いい家に住んで、好きな車も買える。それは一般的に見て、かわいそうな立場ではない。

50歳近くにもなって、大人の交際をしたことがない。誰かに押されないとアプローチさえできない。矢部が結婚生活の秘訣(ひけつ)を聞かれて「ありがとうと、ごめんなさいです」と答えると、岡村は「白旗あげたんか」と反応した。「女性を敵として見てんねんな」と、根本的な女性コンプレックスを感じた。

矢部自身、結婚したことで、さらに女性をリスペクトするようになった。景色や価値観を変えるきっかけとして、これを機に岡村も結婚(間違いを指摘してくれるパートナーとの交際)を考えてみてはどうか――。

岡村の“ズレ”は天然であり、意図的なものではないと一定の理解を示しつつ、相方に対する芸人としてのリスペクトを踏まえながら、矢部は辛辣な言葉を浴びせ続けた。偉ぶるわけでもなく、声を荒らげるわけでもない。しかし、その淡々とした語り口には説得力があった。

矢部浩之=2019年3月17日午後、東京都港区のテレビ朝日、飯塚晋一撮影
矢部浩之=2019年3月17日午後、東京都港区のテレビ朝日、飯塚晋一撮影 出典: 朝日新聞

「性格変えろ!」根底に岡村への感謝

矢部は岡村を誘ってお笑いの世界に入った。だからこそ「なにかあったらオレがいく」という考えがあった。そこには、岡村への感謝の意味も含まれていたようだ。その理由について、矢部が同番組で語った内容は次の通りだ。

幼少期から矢部は二つ上の兄に助けられ、自分が努力して人の輪に入っていくことがなかった。岡村と仲良くなったのも、同じサッカー部に兄がいたからだ。それは岡村を誘って、お笑いの世界に入った後も続いた。

率先して先輩の懐に飛び込んでいく岡村。そんな相方を尻目に、矢部はなにもできなかった。岡村のように面白くもなく、人にこびるようなタイプでもない……。ぬるま湯から抜け出せずにいた。見かねた岡村から「もっと先輩にしゃべりにいけ」と言われても、矢部はどうしていいか分からなかった。

19歳のある日、そんな矢部に岡村は「お前、性格変えろ!」と言い放った。強烈な一言だった。「初めて社会に出てもまれた」と感じた。ただ、間違いなく岡村の言葉は正論だと思った。ここから矢部は、真剣にお笑いの世界と向き合うようになった。

コンビを結成して30年。ある時から岡村に“ズレ”を感じ、矢部は別々の楽屋にするなど距離をとってきた。相方を嫌いになるのが怖かった。

今度はそんな矢部が、岡村に「性格変えろ!」と心の叫びをぶつけた。複雑な思いの詰まった矢部の指摘に、岡村は「うん……」「そやな……」となんとか言葉を絞り出すのみだった。

1994年のナインティナインの2人
1994年のナインティナインの2人 出典: 朝日新聞

スマホで失われた深夜ラジオの特殊性

深夜ラジオは“密室芸”に近いものがあり、下ネタや過激な発言に走りやすい。閉じられた空間の中で、ラジオ・パーソナリティーは、ファンを喜ばそうとしゃべり続ける。リスナーは、そんな芸能人を身近に感じ、はがきやメールを送って番組を盛り上げようとする。この特殊な関係性が、ラジオ文化をつくってきた。

ただ、それは世界観を共有できる、ラジオならではのコミュニティー内での話だった。スマホが普及した昨今、地上波だけでなく「radiko」などのアプリで、時間や場所に関係なくラジオ番組を聞けるようになった。必然的に、今まで聞いていなかった人間が深夜ラジオを耳にする機会も増えたことになる。

ネットを通じて、リスナーの書き起こしページやテキストで情報を知るユーザーも少なくない。これに呼応するように、発言の切り貼りで過激に仕立てるネットニュースも後を絶たないのが現実だ。

一方で、お笑いライブをネットで有料配信し、秘匿性を持とうとする動きも出ている。芸人とお笑いファンの一体感を大切にするため、一定のハードルを設けようという試みだ。SNSが一般化し、誰もがメディアである時代だからこそ生まれた策と言えるだろう。

2010年に試験配信が始まった「radiko」=2010年5月17日
2010年に試験配信が始まった「radiko」=2010年5月17日 出典: 朝日新聞

ネット時代に敏感だった松本人志

こうした流れを敏感に察知していた芸人の1人が、ダウンタウンの松本人志だ。『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)がスタートして間もない2015年に松本は、ダウンタウンを「お笑いの専門店」、バラエティー番組の司会者として成功した俳優・坂上忍を「コンビニ」だと語っている。

つまり、この時期に松本は、切れ味の鋭いコメントで大衆から支持された坂上と共演することで、今の時代に受け入れられる自身のスタンスを探っていたように思う。『爆笑 大日本アカン警察』(フジテレビ系・2011年4月~2013年9月)が終了し、かつてのダウンタウンらしい“攻め”の番組は消滅したと言っていい。「後輩に恐れられる“やんちゃ”なダウンタウン」は、時代に合わなくなっていた。

2014年4月からスタートした『水曜日のダウンタウン』(TBS系)では、さまざまな“ニッチな説”を検証する中で生まれた過激な企画、意地の悪いVTRやテロップに対して、主に松本がツッコミのポジションを担っている。番組の意図をくみつつ、視聴者の声を代弁する“バランサー”として笑いをとるようになった。翌年にはじまった『ダウンタウンなう』は、俳優とレギュラー番組を持つという、それまでのダウンタウンでは考えられない試みだった。

こうした姿勢は、深夜から朝に放送時間が移った『ワイドナショー』(フジテレビ系)、『クレイジージャーニー』(TBS系列・2015年4月~2019年9月終了)など、お笑いがメインではない番組でも引き継がれている。自身のスタンスの一部をコンビニ化(大衆向けに変化)させ、時代のニーズに合ったパフォーマンスを見せようという意識が働いていた。

一方で、2016年からは、Amazonプライム・ビデオで「HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル」を会員に向けて配信。

密室の中、複数の芸人が笑わせ合うサバイバル企画で、松本は別室のモニタールームで笑ったかどうかのジャッジを務めている。「どんな手段でも笑わせたら勝ち」というルール上、そこには裸芸や下ネタも当たり前のように飛び出す。松本ならではのお笑いに特化したコンテンツだ。視聴するためには有料会員になる必要があり、炎上する可能性は限りなくゼロに近い。この点を見ても、テレビとネットで、自身の特性を使い分けていたことがうかがえる。

少なくとも岡村は、こうした視野を持っていなかっただろう。とくに復帰後の深夜ラジオでは、時代にそぐわない発言が目立っていた。従来通りの関係性を疑うことなくトークを繰り広げ、リスナーもそれをとがめることなく支持していた。その延長に、今回の問題があるように思う。

志村けん復活させた岡村だからこそ……

これまでも悪ノリが過ぎて謝罪に至ったケースはあり、テレビやラジオでは珍しいことではない。しかし、従来はそれを当事者が謝罪するのみだった。対象の見えない相手に謝るという行為に、リスナーや視聴者は少なからず違和感を覚えたことだろう。

とくにリスナーとの信頼関係だけでは成立しなくなった深夜ラジオにおいて、当事者が番組で謝罪するだけでは、なにも変わらない恐れがある。ファンの擁護で多数を占めるだろうことは容易に想像がつくからだ。

そこを考えると、今回の「矢部が岡村を叱り、反省させる」という謝罪の仕方は実に生々しいものがあった。また、矢部の口から「ナインティナインなんて大したことないやん」という言葉が出てきたのには覚悟を感じた。30年間というキャリアを投げ捨て、恥部をさらしてでもコンビを継続したいという思いがひしひしと伝わってきた。

番組の大半を「コンビの溝を埋める時間」に費やしたことは、ファンにとっても、騒動をきっかけに放送を聞いた新規リスナーにとっても、意味深いものだったように思う。結果的にではあるが、深夜ラジオでしか生まれようのない“特殊な空間”がそこに感じられたからだ。

一方で、2人の放送を聞いたというメイプル超合金・カズレーザーは『サンデージャポン』(TBS系)の中で、「周り(リスナー以外)に対して謝罪なりなんなり、もっとアピールすべきなのに、最終的な落としどころがコンビの話になったっていうのがどうかな……」と首をかしげていたが、もっともな意見だと思う。今後、批判の声に対して、どう改善を示し、向き合っていくのかについては、岡村の姿勢が問われる。

今回の「公開説教」が多くの人に伝わったことを糧として、岡村がネット時代に対応した新しいラジオのスタイルをつかんでくれると信じている。

テレビで志村けんを復活させ、ラジオで低迷期のさまぁ~ず・三村マサカズ(当時はバカルディ)を支えたのは、ほかでもない岡村隆史だ。今度は岡村自身が変わることで、ナインティナインの未来を導いて欲しい。

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