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「オフィス解約します」コロナで決断 100%リモートワークの会社
「移転をやめて、オフィスを解約する意思決定をしました」。新型コロナウイルスの感染拡大をうけて、このような決断を下したIT企業があります。どの企業も在宅でのリモートワーク推進が急務となっている中、この企業は新型コロナが流行する前から、メンバーの7割以上がリモートワークを実践。3月からはさらにリモートワークを拡大し、今ではメンバー全員がリモートワークを続けているといいます。超先進的な取り組みを続ける企業に話を聞きました。
東京都港区に本社があるIT企業「株式会社overflow」。2017年6月に創業、エンジニア・デザイナーの副業・転職を支援するマッチングサービス「Offers」の運営のほか、企業が自社の商品に関連する話題やニュースを集めたウェブサイト(オウンドメディア)にまつわるコンテンツ作成やコンサルティング業務を手掛けています。
CEOの鈴木裕斗さんによると、約270人のメンバーが同社の事業に携わってきましたが、7割以上が完全にリモートで仕事をする「フルリモートワーカー」でした。実際、社内の90%以上のメンバーが実際に顔を合わせたことがないそうです。これは、メンバーの6割以上が副業やフリーランス(2020年2月時点)で、時間にとらわれない働き方であるリモートワークを推進してきた結果です。
そんな中で起こった新型コロナの感染拡大。3月中旬からは鈴木さんや正社員を含め、稼働中の100人以上のメンバー全員がリモートワークに移行しました。最初のころは「通信環境が不安定」「作業する椅子や机に難あり」という声もありましたが、会社がポケットwifiを支給したり、椅子や机の購入に対して補助金を出したりした結果、目立った不具合は起きていないそうです。
また、港区白金台にあるオフィスの移転を検討中でしたが、オフィスそのものを持つことをやめることにしました。移転については80以上の提案を受け、20以上の内見を終え、中目黒のオフィスに「あとは判子を押すだけ」の状況でしたが、白紙に戻しました。
現在のオフィスは7月で契約が切れますが、「今年の夏になっても新型コロナの影響は大きく、リモートワークの状況は続くと思う」と継続をする予定はありません。パソコンや通信環境、ビデオ通話・チャットツールによってどこでも作業ができ、紙の資料も電子化されている時代に「仕事をする環境として、必ずしもオフィスの方が機能性がいいとは限らない」と考えるといいます。
ただ、プロジェクトのスタート時など、直接顔を合わせた方がいい時もあり、その時はレンタルスペースなどの活用を考えているそうです。
厚生労働省が今年4月12~13日にLINEで実施した調査によると、オフィスワークが中心の人(約628万人)にテレワークの実施状況を尋ねると、全国平均は26.83%でした。また、2017年の国土交通省の調査によると、会社や官公庁に勤めている人のうち、「普段仕事をする場所とは違う場所で仕事をしたことがある」と回答したのは14.7%でした。
それに対して、overflowでは現在、100%のメンバーがフルリモートワーカーです。どのようにしてリモートワークを推進しているのでしょうか。情報のセキュリティーについては、グーグルの提供するクラウドサービス「G Suite」などを利用しているといいますが、ソフト面について重要な点について、鈴木さんに聞きました。
(1)ドキュメント文化
社内の全ての経験値はすべて文書にしてクラウド上に残しており、いつでもどこからでも参照可能です。マニュアルや顧客からの過去の要望、各チームが現在取り組んでいる課題など、文書化されている内容は様々。「会議に出られない」と思っても、会議の内容も後から参照できるため、リモートワークに適しています。
(2)テキストコミュニケーション
メンバー同士の会話は、チャットツールを使った文字によるコミュケーションになります。対面の会話とは受け取られ方が違ったり、合意が難しかったりしますが、対策をすれば意思決定や情報の流通は早くなります。
(3)情報に誰でもアクセス可能
会社のほぼ全ての情報をメンバーは誰でも知ることができます。経営方針や事業計画の変更、会社のキャッシュフローも可視化されており、メンバーに説明するコストが減ります。経営層や上司だけが知っている情報はほとんどありません。
(4)効率化の徹底
例えば、チャットツールのコマンド1つで、フリーランスや副業のメンバーは会社に給料を請求できます。また、メンバーの生産性はコンテンツを作るのに要した時間などから自動計算しており、給与に反映される仕組みになっています。
鈴木さんは創業時、「事業が市場に受け入れるまでは正社員は雇わない」と考えていました。市場に受け入れられる事業が固まるまでには、異なる素養や専門性を持つメンバーが流動的に必要となるため、固定した正社員を持つことがリスクだったからです。実際に、これまで検討していた事業には「仮想通貨」や「ドローン」に関するものもあり、今とは大きく異なります。なので、流動性の高い副業・フリーランスを創業時から活用しており、その結果、リモートワークがベースの会社に成長しました。
新型コロナの影響で、各社はリモートワークを進めています。このことは、副業の活躍によって実現する「デジタル化した社会」への第一歩だと鈴木さんは考えています。
日本は今後、労働人口が減るため、生産性を上げなければGDPは下がります。生産性を上げるためには、ITを活用してオペレーションシステムを効率化する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が重要となります。そのためには「優秀なエンジニアが自分の得意分野で、複数の会社に首を突っ込む必要がある」と鈴木さんは話します。
新型コロナの影響で、各社ではチャット・ビデオ会議ツールの導入、紙の電子化などが進みました。鈴木さんによると、これらは「DXの初歩中の初歩」でありながらも、「導入が進むには数年かかると思っていましたが、新型コロナの影響ですごく早く進んでいる」と話します。新型コロナと長く付き合っていく必要が出てきた「withコロナ」の時代にとって、「デジタル化のメリットを各社が身をもって理解するはず。日本中のデジタルリテラシーを上げる第一歩になると思います」と話しています。
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