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新型コロナで「取り箸」運動、中国で拡散「今こそ文明的な食事を」

取り箸推奨キャンペーンのポスター
取り箸推奨キャンペーンのポスター 出典: 中国版ツイッター微博

目次

新型コロナウイルスの影響で、中国人の行動が大きく変わりました。これまでマスクをする習慣がなかったのが、今では当たり前のようにつけています。そして、もう一つ、中国社会に大きな変化をもたらしつつあるのは、「取り箸と取りスプーン」(中国語:公筷公勺)です。自分の箸で大皿料理を直接、取り分けるいわゆる「直箸(じかばし)」文化から、レストランなどでは取り箸、取りスプーンの使用が推奨されるようになっています。

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春節を祝う「万家宴」の参加者が、長い取り箸で料理を取っていた=2014年1月25日、武漢、湖北省
春節を祝う「万家宴」の参加者が、長い取り箸で料理を取っていた=2014年1月25日、武漢、湖北省 出典:ロイター

国家ぐるみの取り箸キャンペーン

4月10日、『人民日報』が微博アカウントを通して、「転送 呼びかけ!取り箸とスプーンを使うことが新慣習にしよう」というタイトルで投稿しました。

投稿には次の文が続きました。

「#あなたは取り箸を使ってもいいと思いますか。われわれと文明的な食事との距離を作っているのは、おそらく一膳の取り箸です。#取り箸があったほうが安心。取り箸と取りスプーンを使うことは、自らの健康のためだけでなく、他人の健康にも役立つ。取り箸と取りスプーンを食事の『定番』にさせることは、今からやりましょう!」

この投稿は、3600を超える転送と、13000件以上の「いいね」が集まりました。

ここには二つのハッシュタグ付きのフレーズがあり、それぞれ4千万と2500万ビューを超え、話題になりました。

#あなた取り箸を使ってもいいですか
#取り箸あったほうが安心

また中国のCCTV(中国中央テレビ局)でも「使用公筷、筷筷有爱」という公共広告が流されています。

「取り箸あったほうが安心」ポスター
「取り箸あったほうが安心」ポスター 出典:中国版ツイッター微博、人民日報のオフィシャルアカウント

ネットでは好意的「安全のために、取り箸を」

コロナウイルスによって生まれた「取り箸」運動は、ネット上で好意的に受け止められているようです。

『人民日報』の呼びかけに対して、以下のような反応が見られました。

「衛生的な習慣を生活の隅々まで浸透させたほうがよい」
「自分の箸であらゆるおかずを乱暴に触る人がイヤだ」
「本当の習慣になってほしいね。」
「支持します!安全のために、取り箸を使ったほうがよい」
「早く実行したほうがよい。高級の洋食レストランはそうですが、なぜか『わざとらしい』と思われますね」
「安心の意味は、自分のためだけでなく、他人の健康を保護することですね」

一方、反響の中には、別の見方を示す声もありました。

「呼びかけ自体はいいですが、取り箸で食べるのも、どこか魂が足りないような気もします」
「取り箸も心理的な暗示にすぎません。一緒に食事して話すなら、飛沫はきっと飛ぶよ」
「取り箸でも飛沫を防げません。食事する際に、話してはいけません」
「わたしは実験しました。取り箸と自分のお箸をよく間違えてしまうので、慣れるまで時間がかかりそうです」
「1年間続けられるかどうかが大事ですね。SARSの時も提唱されたが、結局みんな忘れてしまったね」

食事をしていた、漢の時代の服を着た現代の新郎・新婦=2012年5月1日、西安、中国
食事をしていた、漢の時代の服を着た現代の新郎・新婦=2012年5月1日、西安、中国 出典:ロイター

千年前の変化、「分食」から「合食」へ

実は、中国はかつて取り箸を使う「分食制」でした。

分食の歴史は「周王朝の礼儀」(周礼)にさかのぼります。

『礼記・礼器』には、天子の豆(古代の食器)は26、諸公は16、諸侯は12、上大夫8、下大夫6と規定されています。つまり、中国古代の分食は、身分と密接していたのです。

五代十国(907-979)の時代に描かれた南唐王朝の絵「韓熙載夜宴図」(顧閎中)からも、当時は分食制が主流であったことが確認できます。

「韓熙載夜宴図」(絵:顧閎中)
「韓熙載夜宴図」(絵:顧閎中)

しかし、唐王朝(618-907)から五代十国の時代まで低い「机」ではなく、高いテーブルも「胡人」から伝来し、宋の時代(960-1279)から、食卓を囲んで一緒に食事する「合食」が主流になっていきました。

合食にはいくつかのメリットがありました。

まず、食器が少なくてすみます。分食だとそれぞれの取り皿が必要になりますが、合食は多人数でも食器はそれほど増えません。

次に、食材の効率がよくなります。好き嫌いであまってしまう料理を上手くカバーできます。

もう一つは、にぎやかになること。中国人の気質に合うのか、合食の方が親しみやすいと感じられてきました。

ご馳走を囲んで春節を祝う村民たち=2016年2月11日、浙江省台州市 
ご馳走を囲んで春節を祝う村民たち=2016年2月11日、浙江省台州市  出典:ロイター

一気に上がった「本気度」

宋時代から1千年はある合食は一つのマナーと考えられるようになっていました。一緒に食事する際、お客や大事な人に「夹菜」(自分の箸でおかずをあげること)が礼儀だとされてきたのです。

「夹菜」には、人間関係の距離が縮まり、親しみやすさが生まれる効果もありますが、若い世代の中ではコロナウイルス前から嫌がる人も増えていました。

「他人のだえきが気になる」
「『夹菜』されたら、食べるか食べないのか、それは問題だ」
「取り箸のほうが安心。衛生的だ」
「『夹菜』は一番悩ましいのだ。拒否したら向こうが不満になる。しかし食べるのは本当に飲み込めない…ケンカになったこともあるわ」

実は2003年SARS(中国語「非典」)の時も、分食や取り箸をすすめる動きがありましたが、流行した場所と時間が限られていたので、長くは続きませんでした。

しかし、今回の新型コロナウイルスは、影響の範囲と時間がSARSよりも深刻なため、取り箸への「本気度」も一気に上がったと考えられます。

すぐに分食に取って代わることはないかもしれませんが、新型コロナウイルスが、中国の食事マナーにも影響を与えていることは間違いないようです。

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