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新型コロナ、中国の火鍋チェーンも大打撃 EC・出前…「店外」に注力
新型コロナウイルス感染拡大の「震源地」となった中国・武漢市で支援にあたった四川省医療チームに、地元の火鍋協会が無料で火鍋を食べられる「英雄カード」を配ったことが中国のSNSで大きな話題になりました。その火鍋業界も、大きな打撃を受けています。有名な火鍋チェーンの店舗休業による損失は、一カ月で64億円に。出前の工夫やライブ中継などを通して、経営を立て直そうとしています。
四川省は火鍋の激戦区。「麻・辣・鮮・香」(マー・ラー・シェン・シャン=ピリピリ、辛い、おいしい、香り)といった美味しさの要素が備わっている専門店が多いです。
その激戦区を勝ち抜いたのは「小龍坎」火鍋です。2014年に開業した小龍坎は、四川省の中心都市・成都だけでなく、現在は世界で300以上の都市をカバーし、900以上の店舗を持っています。中国でも有名な火鍋チェーン店に成長し、2019年には「小龍坎ホールディングス」が設立。傘下にいくつかのブランドも誕生し、発展の勢いが止まりません。
一方、新型コロナの影響で、2020年1月26日から、直営店が全て閉店になり、加盟店も含めると閉店率は2月10日の時点で94%に達しました。店舗の家賃や人件費を計算しなくても、グループの売上損失は毎月4億元(約64億円)にのぼります。
これは小龍坎だけの事情ではありません。2月、3月は、火鍋業界、ひいては飲食業全体にとって厳しい時期でした。
そんな中で、小龍坎の救いとなったのは、ECサイトです。
ECサイトの利用は、3年前に始まりました。アリババのECサイトでは、初日に100万元(約1600万円)の売り上げを記録し、2019年は年間で1億元(約16億円)の売り上げがありました。
コロナ後も、アリババの「聚划算」アプリにおいて 2月17日の0時からの10分間だけで、「自動加熱火鍋」を1万箱販売しました。売り上げも20分間で20万元(約320万円)を超えました。
ECサイトが好調なのは、「ライブ中継」を通じてファンを獲得していることも大きいです。過去には、KOL(インフルエンサー)を起用したこともありますが、模索を重ね独自のスタイルを現在は確立しています。商品の紹介はもちろん重要ですが、世界観にも力を入れていて、例えば、クリスマス期間中は鹿のぬいぐるみをかぶったり、バレンタインデーには「ラブソング」を歌ったりして、親しみやすい空気を作っていました。
今年は新型コロナウイルスの影響で、人々が家に閉じこもっているので、商品紹介のライブ中継の時間を短縮させ、雑談会をすることもしばしばあります。中継中には、簡単な料理を教えることもあり、短時間でも収益が確保できたようです。
アリババのほか、房天下app、快手appなどのECサイトでも「火鍋を食べる」ライブ中継が行われ、多くの視聴者を集め、商品の売り上げにつなげています。
ECサイトで保存がきく商品を販売する一方、小龍坎は「出前」にも力を入れました。こちらもアプリの技術が支えています。
中国トップの出前アプリ「餓了馬」や「美団」に出店し、配達にあたっては二重包装や作った人、配達した人の健康状態を記した安心カード、無接触などの措置を実施。出前を受け取る側への配慮を徹底しています。こうした対策によって市民も気軽に出前を頼めるようになり、顧客体験の向上につながっているようです。
出前商品の種類も増えました。すでに調理がされた「小龍坎火鍋菜」や「定番出前火鍋」といったものから、火鍋のベース、調味料の単品も出前できます。食材に接するシェフやスタッフは、全員防護服、ゴーグル、マスクを着用。店舗で働く職員も、1時間ごとに体温を測定し、2時間ごとに全身消毒する、2時間ごとにマスクを替えるなどの措置を取っています。
ECでも出前でも、商品の基本理念は、「足不出戸、多快好省」(=外には出ず、料理は量が多く、手早く料理できる、質が良い、値段も安い)だそうです。
3月6日からは、中国国内の店舗が再開しました。再開に際して、いくつかのルールが設定されました。
まずは消毒です。「消毒専員」(消毒の専門スタッフ)というポストが設置され、定時的に店舗の徹底的な消毒を行います。
客の体調も徹底的に管理。事前に健康情報を登録し、QRコードで安全と認定された人しか入店できません。入店時には体温測定をします。そして入店後に、食事前の両手の消毒液の使用や、食事後のテーブルや椅子の消毒なども規定されています。
さらに特殊な時期のサービスもあります。ルールは以下の通りです。
(1) テーブルは隣り合わず、一つ飛ばしで座らせること。
(2) 一つのテーブルには4人以上はNG
(3) 個室は停止
(4) 列を作ることも基本はNG
「小龍坎」の広報・邵茜さんによると、初日は9店舗が再開し、待ち望んだ人たちが間隔を1メートル以上空ける「北欧式」隊列を作りました。11日に四川と重慶の16店舗がすべて再開しました。
現在はレストランの人数制限も撤廃されました。しかし客はウイルス前の25%ほどしかいないそうです。
新型コロナ後、小龍坎は「まずは生存を求め、その後発展を図り、さらに社会的責任を果たす」という目標を立てました。今回の四川省医療チームの「英雄カード」の協賛企業に入り、湖北省・武漢市に支援物資も多数送っています。小龍坎は日本にも支店があり、緊急事態宣言に合わせ、臨時休業に入りました。日本でも火鍋の出前ができる日が来るかもしれません。
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