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「翔んで埼玉県出身」消えた理由 空自基地トップ紹介、本人知らず?
話題の最中に驚きの連絡 「『翔んで』を消しました」
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話題の最中に驚きの連絡 「『翔んで』を消しました」
「翔んで埼玉県出身」。人気の映画タイトルになぞらえ、埼玉県にある航空自衛隊基地のトップを紹介していた空自のホームページがツイッターで話題となりました。目を凝らさないと気付かないほど薄く書かれた「翔んで」に、映画や自衛隊のファンが盛り上がりました。しかし、事態は一変。「翔んで」の文字が突然消えてしまったのです。一体どうして? そのてんまつです。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
「翔んで埼玉県出身」騒ぎに私が気づいたのは、3月31日の夜です。航空自衛隊入間基地がHPで、トップにあたる司令をそう紹介しているというツイートでした。
入間基地は埼玉県の狭山市と入間市にまたがり、面積320ヘクタール。宮城県から兵庫県まで広く防空を担う中部航空方面隊の司令部があり、所在部隊の人数は約4200と空自基地で最多です。
そのHPを見に行くと、本当でした。3月26日に着任した津曲明一(つまがりあきひと)新司令の「基地司令挨拶」のページに「埼玉県出身」とあって、そのすぐ左にうっすらと、「翔んで」の文字がありました。
これは本人の思いを聞くしかないと思いました。翌4月1日午前に、空自の広報全般を扱う防衛省航空幕僚監部の広報室(空幕広報)に相談。入間基地に連絡してもらいました。
ところが、午後1時過ぎに入間基地から空幕広報経由で届いた返事が芳しくありません。「翔んで」のことは司令はよく知らず、部下がしたことなので、などなど……。
あれ?と思いつつ、それならそういうお話が聞ければいいのでと電話で押し返すと、午後2時過ぎに驚きの回答が来ました。「『翔んで』を消しました」。入間基地のHPを見ると、消えています。
新司令に「埼玉愛」について聞けないものかという当初の考えはとりあえず置いて、「HPで自ら話題を作っておいて、どうして消すんですか?」という問い合わせに切り替えました。
ちょうどエイプリルフールの4月1日。煙に巻かれたような気分でいると、午後5時ごろ空幕広報から連絡がありました。入間基地に確認したという経緯は、次の通りでした。
入間基地司令の交代にともない、基地HPの基地司令挨拶を更新しました。https://t.co/OO2NkhTcAT
— 航空自衛隊入間基地(Official) (@jasdf_iruma) 2020年3月31日
ただそのツイッターでの反応を見ると、「スクランブル対応厳格化が先」といった「本来の仕事しろ」的な厳しいものもありますが、概ね好評でした。「翔んでるわ…空自だけに」「埼玉解放戦線もここまで浸透したか」など、自衛隊ファンとあの映画のファンの両方に刺さった感じです。だから結果オーライで掲載を続ける手もあったと思います。
空幕広報もそうした反応を知っており、入間基地に対し、HPから消してしまった「翔んで」の再掲を促していました。でも、入間基地は応じませんでした。
出張中の新司令に代わって空幕広報とやり取りした入間基地の副司令は、「新型コロナウイルス対応で自衛隊が災害派遣の最中に、その表現は不適切なので再掲できない」と断りました。
そして、「新司令が埼玉愛を持っていることは確かです。今回のことは入間基地にとって悪い評判になるかもしれないが、挽回してくれるでしょう」と話したそうです。
HPの「基地司令挨拶」の最後には、「小学4年生まで(入間市立)豊岡小に通学していた 津曲明一」とあります。入間で勤務も重ねた新司令の「埼玉愛」がにじんでいるようにも思えます。
しかし、入間基地が説明したという上記の経緯がその通りだとすると、美談として締めくくるにはあまりにお粗末です。
HPでのトップ紹介という、基地の顔ともいえる場でのこうした混乱について、国民の理解を重んじる自衛隊は脇を締めるべきでしょう。何より新司令自身の「埼玉愛」の発信にマイナスです。
「挽回」に私も期待しつつ、それにはまず今回の経緯の検証を望みます。そして、部下が工夫を凝らして引き立てるHPでの文章ではなく、新司令が実際に自分の口で何をどう語るかからではないでしょうか。
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