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新型コロナ対策、運転席と客席を徹底「隔離」 タクシー会社の思い
新型コロナウイルスの影響で、観光業界や飲食業界など、経済の様々な方面が大きな打撃を受けています。東京五輪の延期も決まり、今後の先行きが見えないなか、不安な日々を送るのはタクシー業界も同じです。東京を拠点にしている日の丸交通は今月、運転席と後部座席を大きく仕切るビニールカーテンを導入しました。これまでも、マスク着用の義務化や車内の消毒を徹底していましたが、ついにドライバーと乗客を徹底「隔離」。感染対策に込めた思いを富田和孝社長に聞きました。
日の丸交通が導入したのは「客室仕切りカバー(セパレーターカーテン)」。名前の通り、ドライバーが座る前方と乗客が座る後方を区分けするものです。
富田社長によると、カーテンを導入しているのは主に「JPN TAXI」という車種です。「JPN TAXI」のエアコンは車両の後部にあるため、「カーテンを付けても、お客さんに影響が出ません」(富田社長)。カーテンのサイズは、横163cm、縦110cmです。
カーテンを導入したのは、乗客とドライバーの「お互いのため」と富田社長。高齢者の利用も多いことから、カーテンによる物理的な「隔離」は感染リスク対策だけでなく、利用者の安心にもつながるとみています。また、ドライバーにとっても、不特定多数の乗客との接触機会を減らすことができます。「見栄えは少し悪くなりますが、感染対策を最優先しました」。富田社長はこう語ります。
富田社長によると、都内では2月中旬、タクシードライバーが新型コロナに感染したことにより、タクシーを敬遠する傾向が一気に広まりました。
国内でウイルス感染が確認されて以降、日の丸交通では、「出社時の検温」「営業所出入室時の手洗いと消毒の義務」「マスク着用義務」「車内の換気」「乗客が降車後の車内消毒液散布」など、考えられる安全対策を講じてきました。
それでも、1600人いるドライバーの売り上げは、国内感染が始まる前と比べて3~4割減。富田社長は「満員電車など、乗客が密集する交通機関より、1人から数人までしか乗れないタクシーの方が不特定者から感染するリスクは低いと考えています。ただ、1度『危ない』と思われてしまったイメージはなかなか消えません」と胸の内を明かします。
乗客とドライバーの両者にとって、物理的にも、心理的にも安心できる環境を…。富田社長は、タクシーのシートカバーで取引のあったフクシンの金沢剛純社長に相談しました。
2月末に、富田社長から要望を受けた金沢社長は早速カーテンの開発に取りかかりました。
「タクシー用なので、視線を妨げるものを使ってはいけない。透明な素材をまず考えました」
「また利用者には、車いすの方もいます。仕切りカバーは取り外せないといけないと思いました。厚くて堅いものを避け、薄くて柔らかい、それでいて丈夫なものを選びました」
結果的にビニール製のセパレーターカーテンが作られました。2月29日に「注文」を受け、3月6日に製品が完成。「100%完璧ではありませんが、合格点に届いたと思います」と金沢社長は語ります。
透明で取り外しもできるカーテンですが、気になる点があります。支払いはどうするのでしょうか。
金沢社長によると、カーテンは一枚のビニールですが、中央には支払う場面を想定した穴が空いています。普段はカバーをかけ、空気の流れを遮断していますが、支払う際だけカバーを開けます。現金払いもトレーに置くことで、ドライバーと乗客の直接な接触を避けることができるとしています。
スイカなどのICカードやQRコードのキャッシュレス決済の場合は、カバー越しの決済が可能です。「今後はキャッシュレスのほうがもっと普及するのではないか」と金沢社長は予想します。
都内の江東区(猿江)、足立区、江戸川区(TokyoBay)、世田谷区に拠点がある日の丸交通。現時点で、約600台あるJPN TAXIのうち7割分の資材調達を終えました。残りは遅くとも、4月中旬には装備する計画です。カーテン1枚の単価は7000円程度とのことですが、「安全安心には変えられない」。感染対策と安全確保を最優先する富田社長は、力を強めます。
セパレーターカーテンは、人類共通の敵「ウイルス」をシャットアウトするための、物理的に人と人を隔離させるものではあります。しかし、そこに込められた製造者・考案者の思いは、人と人の心をつなげる重要な存在…。取材をしながら、そう実感しました。
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