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アイドルファン集結、災害ボランティアで見せた「想像以上の働き」
キャンプ場に集まった50人は、作業着からアイドルのTシャツを着た人まで様々だった。台風被害にあったキャンプ場のボランティア、には見えない集団。アイドルファンにボランティアをしてもらう取り組み。そこには、コミュニティの力を生かした新たなボランティアの可能性があった。(FUKKO DESIGN・木村充慶)
2月22日、相模原の道志川沿いのキャンプ場に50人を超える一風変わった集団が現れた。
アイドルグループ「アップアップガールズ (2)」メンバー8人とファンやアウトドア好きの人たち。午前11時集合にも関わらず2時間以上前に集まる人も。みな顔なじみのようで、グループになって仲良く談笑している。
目的は台風被害にあったキャンプ場の支援ボランティアだ。ライブとは違い作業服やアウトドアウェアを身にまとった人がいる一方、「普段通り」アイドルのTシャツをきている人も。
作業を前に、キャンプ場のオーナー野呂正人さんが被災した現場を案内した。
神奈川県相模原市にある野呂ロッジ(神奈川県相模原市緑区青野原931)は、10月12日、台風19号によって目の前を流れる道志川が増水。キャンプサイトの大部分が流されたり、宿泊施設の多くが壊れるなど甚大な被害を受けた。今もキャンプサイトの一部が復旧しただけで、キャンプ場の完全再開ができないという。
大きく削られたキャンプサイトや濁流に飲まれた車などを見て、みな険しい表情に。被災した日の状況、復旧が進まない現実に、参加者の顔つきが変わってくる。
その後、始まったボランティア作業の発表では、打って変わって明るい雰囲気に。
「土砂をひたすら持ち運ぶまじめなボランティアするのではありません。楽しいキャンプ場だから、土砂を使って今までにない体験をつくる楽しいボランティアにしたい」
説明をする木原龍太郎さんは、大学の探検部出身で、ケービング(洞窟探検)におけるレスキュー資格も持つアウトドアのプロフェッショナル。アイドルファンの人たちに、土砂を使った自作サウナや、流木を使ったモニュメント、石焼料理、電気を使わないアンプラグドライブの構想を一つ一つ解説していった。
「土砂や流木を楽しく運び、汗をかく。熱いごはんを食べて、汗をかく。アイドルの熱いライブを楽しんで、汗をかく。真冬におもいっきり汗をかく『大発汗』がコンセプトです」
最後に木原さんは、「今日1日は、あふれている土砂は土砂と呼ばない。宝と呼ぶ!」と強く宣言。参加者からは「おお~~!!」という声。すでに、ライブのような一体感が生まれていた。
その後、チームに分かれて、作業が始まった。サウナやかまどを作るため、広いキャンプ場からほどよい大きさの石を集めることに。人数が多いこともあり、あっという間に完成した。
サウナ用の水を用意するチームは、給水バックを持ち、30分かけて滝へ。秘境に入り込んだような雰囲気を味わいつつ、しぶきで服がビシャビシャになるハプニングも味わった。
アイドルのアプガ(2)チームは手分けして鍋と焼肉の準備に。ステージ上では笑顔のメンバーが、大自然の中、ワイルドな料理に挑んだ。
被災地にとって、全国的な知名度のあるタレントが関わってくれることは、どんなに小さな取り組みでも貴重だ。
今回、大事にしたのは一過性のイベントにしないこと。
被災地が立ち直るには時間がかかる。手助けするボランティアだって、長く付き合える関係を築けた方がいいはず。
通常のボランティアは、どんな人が来るかわからない形で始まる。善意で成り立つ以上、当たり前のことだし、そこから思ってもいない人の縁が生まれることもある。
ただ、もっとボランティアの顔が見えるやり方もあるんじゃないか。そう思い、アイドルとファンという組み合わせを被災地に持ってきた。
ファンの力は想像以上だった。もともとつながりのある人たちが、一つの目的のために集まったのだから、自然と「こうしたらもっとよくなるのでは」と考えながら一丸となって作業をしてくれた。
アート作りでは、途中で雨が降りはじめ他の作業ができなくなる中で、自分たちでできることを考えはじめた。もともと暫定的に置く小さなアートを作る予定だったが、積極的にアイディアを出し、アプガ(2)ファンなら来たくなる、キャンプ場入口に置く大きなオブジェを作りあげた。10名以上の人たちがノコギリやトンカチなどを使う共同作業だった。
災害の発生直後は、泥のかき出しなど、ボランティアに手伝ってもらう作業はある程度、決まってくる。しかし、被災地の正念場は、むしろ、その後、とも言える。今までとは違う環境の中で、生活のための仕事など「なりわい」を取り戻さなければならない。
ファンが見せてくれた自主性は、「なりわい支援」の段階でこそ重要だと痛感した。
今回、50人のファンが集まってくれたが、「なりわい支援」が1日で終わるわけではない。
そこで、当日の体験をSNSで発信してもらうことにした。「面白いことをやっている」という情報を共通のハッシュタグ「#野呂ロッジ大発汗」をつけて拡散する。キャンプ場の復旧を楽しく伝えることこそが、大きな支援になると考えた。
当日は、手作りのサウナが失敗したり、大雨が降ってライブができるなくなったり、失敗もあった。そんな出来事も、ファンというつながりをベースにすれば、楽しい思い出となって、広まっていく。
実際、SNS上では、アイドル本人とファン同士がコメントし合い、さらに、ファンではなかった人もその輪に加わるなど盛り上がりを見せた。
キャンプ場のオーナーの野呂さんも「行政の支援が思うように受けられず、途方に暮れていた。今回アプガ(2)をはじめ、多くのボランティアがきてくれて盛り上げてくれた。本格的な復旧に向けて弾みがついた」と手応えを感じていたようだ。
今回の経験を元に、これからも、新しい支援の形を探していきたい。
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