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コロナウイルス、児童養護施設のSOS 外出させられない事情
コロナウイルスの感染拡大に伴い、子どもたちの休校が続いています。そんな中、気になったのは親の病気や虐待などで、親による養育が難しい子どもたちを支える児童養護施設です。一斉休校は、数十人の学齢期の子どもを24時間見続ける施設にどう影響しているのでしょうか。埼玉県深谷市の児童養護施設「さんあい」の施設長、高瀬一使徒(かずしと)さんに聞きました。
児童養護施設の現状について気になったのは、さんあいがブログで発信した「子ども用のマスクありませんか?」を目にしたのがきっかけです。このブログを見た知人からの提供申し出などもあり、マスク不足は解消し、「当面は大丈夫そう」とのことでしたが、それ以外にも、24時間体制で多くの子どもを養育する施設ならではの困りごとがあるそうです。
高瀬さんが施設長を務める「さんあい」では、3歳から18歳までの36人が生活をしています。そのうち、28人が休校の対象です。
「卒業を控えていた子どもたちは友達と過ごす時間がなくなってしまったので、手放しで休みを喜ぶこともできない複雑な心境のようです」
一方、それ以外の子どもたちは比較的休みを喜んでいるようです。
高瀬さんがいま対応に苦慮しているのは、どのレベルの外出を禁止すべきなのかの判断です。
「家庭での養育の場合は、各家庭で外出をどうするかの判断ができます。ですが、ここで生活する子どもたちは、それぞれの家庭的背景から、児童相談所を通してお預かりしている、ある意味『公人』となります。判断が慎重にならざるを得ません」
現在は、基本的には外出を禁止していて、子どもたちは施設内の庭や運動場で遊んでいる状況です。
ただ、普段の休みであれば、子どもたちは好きなDVDを借りに出かけたり、古本屋さんに本を買いに行ったりしています。それができなくなってしまっているため、「この状況が長期になれば、子どもたちのストレスがたまってしまう」と心配しています。そのため、今後もし状況が長引く場合は、「リスクの少ない外出」を許可したいと考えているそうです。
一方、施設で働く職員たちにも影響は及んでいます。
さんあいで働く職員は33人。中には自身の子どもも休校の対象になっている職員もいます。
職員の3月の勤務表は先月中には確定していたため、現在、シフトを変えて対応しているそうです。
「普段であれば、子どもたちが学校に行っている平日の日中は、勤務職員を少なく配置しています。でも、休校になったことで休日と同じような配置に変えています」
「職員の自己犠牲の精神で休みを取り消したり変更したりして対応している状態です」
そんな中、マスクの提供を呼びかけた際、支援の申し出があったことは一筋の希望の光でした。
「マスクの転売や買い占め、トイレットペーパーの買いだめなど、人間不信になるようなニュースが多い中、施設の状況を理解し心配して支援してくださる方々がいることを知り、うれしく思いました」
高瀬さんが現在困っているのは「先が見えない」ということです。
「子どもたちのストレス緩和と感染リスクのバランスを考える際の指針が示されていない」と感じています。
「不要不急の外出は不可とする、という指針だけでは持ちこたえられません」
マスクが足りないという呼びかけは、休校の影響を受けている子どもたちが家庭だけでなく児童養護施設にもいると気付く大事なきっかけになったと思います。
同時に、子どもを「公人」として扱わざるを得ないという施設長の言葉からは、いまのような非常事態において、施設にいる子どもたちを守る仕組みが途上であることも感じました。
みんながたいへんな状況だからこそ、普段、目を向けられる機会が少ない存在の人たちを気遣う気持ちを持ちたい。「さんあい」が発したメッセージは、想像力の大切さを気づかせてくれました。
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