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中国のコロナウイルス、自宅隔離で生まれた「インターネットミーム」
新型コロナウイルスの感染拡大によって、中国では自宅から出られない人たちがネット上で盛んに交流をしています。「病院建設の中継をみんなで見る」「闘病中の赤ちゃんを応援する」。特定のムーブメントに不特定多数の人が自然と参加する「インターネットミーム」とも言える現象を追いました。
1月下旬、武漢市では新型コロナウイルス感染者が爆発的に増え、重症患者を収容できる隔離病院の建設が急きょ、始まりました。
2003年のSARSの経験を活かし、当時に建てられた隔離病院「小湯山」(シォウタンサン)病院から名前をとった「火神山」(ホウスンサン)病院は、1月25日から建設を開始し、2月2日に完成しました。
日本でも話題になった急ピッチの建設現場は、中国中央テレビ局のCCTVがネットでもライブ中継をしました。
当時はちょうど旧正月休み中で、外出ができなくなった人たちが中継画面に熱中。いつしか、ネットで現場監督のようなコメントをし合い「クラウド監督」と呼ばれる現象になりました。
工事現場の映像は働く車しか動かなく、テレビ番組のように解説があるわけではないので、「クラウド監督」たちは、建設現場にあらゆるものに、ニックネームをつけました。
たとえば、コンクリートミキサー車は「嘔泥醬」(オーニージャン=お兄ちゃん)。
フォークリフトは、中国語で「叉車」なので、ニックネームは「叉醬」(ツアージャン=叉ちゃん)に。
青いショベルカーは「藍忘機(ランワンジー)=小説の主人公の名前」から、その後「小藍」(ショオラン=藍ちゃん)に変わりました。
黄色いショベルカーは「小黄」(ショオホワン=黄ちゃん)。さらにサイズの小さいほうは「小小黄」(ショオショオホワン=小さい黄ちゃん)。
お気に入りの「働く車」を応援する投票ページまでできました。「働く車」以外にも、現場で建てられた白い建物には「白居易」(バイジウイー)と名付けられました。文字通りに「白くて住みやすい部屋」の意味ですが、実は唐王朝中期の詩人、白楽天のことも指します。
中継画面の手前でいつも視線を遮っていた3本の木は、想像で「桂花樹=キンモクセイ」と見なされ、3本の「桂」から「呉三桂」(ウーサングエ)と名付けられました。呉三桂も実在した人物で、明王朝末期・清王朝初期の武将で、三藩の乱を引き起こしたことで有名です。
最終的に「クラウド監督」たちは、自分たちを「咸豊帝」(シエンフンディ)と呼ぶようになりました。「咸豊」(シエンフン)は清王朝第9代の皇帝の元号ですが、「閑瘋」(シエンフン=おかしくなるほど暇すぎる)と同じ読みというオチになっています。
動画中継には、一時、5千万人以上の「閑瘋帝」が視聴していました。
病院が完成すると「クラウド監督」(「閑瘋帝」)たちには新たな身分が与えられました。それは「クラウド保母」です。
2月11日、武漢市華中科学技術大学同済病院の新生児治療室で、新型コロナウイルスに感染した両親から隔離された生後間もない赤ちゃんがニュースになりました。
赤ちゃんの名前は石榴(シーリュー)くん。旧正月の「十日目」の午前6時に生まれたため、「十六」(シーリュー)の語呂合わせで、果物の石榴(シーリュー)と名付けられたそうです。「クラウド保母」たちも「石榴」に「福」と「団結」の意味があるので、赤ちゃんに多くのエールを送りました。
赤ちゃんの様子もCCTVがネットで中継をしたため、多くのネットユーザーが「クラウド保母」として見守りました。そして、赤ちゃんの小さな変化についても、多くのコメントがつきました。
「泣いたね、おなかが空いたかな」
「ミルクの時間だ」
「看護師もやさしいね」
「いい子だ、かわいいね」
「眠りに落ちたようで、どんな夢を見ているかな…」
「ずっと片側に寝ちゃダメよ。頭が偏っちゃうよ」
「われわれはクラウド保母だよ」
「石榴くん、ガンバレ!」
ライブ中継を見た人は数百万人以上にのぼりました。
ウェブ中継以外でも、不思議なミーム現象は生まれました。
2月10日、地球の引力が原因で、その日に限ってホウキが立てるという「NASAの発表」がSNSで広まりました。半信半疑の人も多い中、SNSでは多くの人々がホウキを立てた写真をアップしました。
中国版ツイッター微博だけでなく、中国版LINEの微信(WeChat)でも、ホウキだけでなく、ペンやクレジットカードなどを立てた写真が投稿されました。
結局、「NASAの発表」は根拠ないイタズラだと専門家の意見が発表されましたが、「どうせ暇だから、やってみよう」という気持ちで盛り上がったようです。律義に「うちはできなかった」と報告した人も相次ぎました。
「クラウド監督」や「クラウド保母」、そして「ホウキ立て」からは、時間を持てあました人々が「孤独」を感じるようになり、誰かとつながりを求める気持ちが伝わってきます。
新型コロナウィルスの深刻さがおさまらない時期だけに、息抜きができるメンタルケアも考えなくてはいけないようです。
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