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牛乳でお腹ゴロゴロ「犯人」捜しの旅に出た ストレス?それとも……
揺れる電車の中で腹痛を堪える日々。浮上した容疑者は牛乳だったけどーー。
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揺れる電車の中で腹痛を堪える日々。浮上した容疑者は牛乳だったけどーー。
通勤時にお腹を壊すと、そんなときに限って前の電車が詰まっていたり、いざお手洗いに入ったら個室が全部埋まっていたり……。そんな経験を何度かしたことのある私ですが、最近、牛乳を飲んだ後にお腹が緩くなる傾向があることに気がつきました。牛乳でお腹が緩くなると聞くことはありますが、その原因はなんなのでしょうか。そして私が牛乳をまた飲める日は来るのでしょうかーー。
牛乳とお腹ゴロゴロの関係について研究をしている、東京女子医科大学東医療センターの医師・長谷川茉莉さんによると、牛乳を飲んでお腹の調子が悪くなる人の中には、牛乳に含まれる「乳糖」が関係する場合と、しない場合があるといいます。
乳糖は、牛乳を含めた哺乳動物のミルク全てに含まれている糖分で、母乳にも含まれます。
乳糖は、小腸で分泌される消化酵素「ラクターゼ」によって分解され、吸収できる状態になります。しかし、ラクターゼの分泌量が少なかったり、分解できる量を超えて牛乳を飲んだりしてしまうと、分解されないままの乳糖が大腸に到達し、下痢などの症状を引き起こします。
これが、乳糖を分解できないせいで症状が出る人の場合です。
一方、乳糖は関係ないけれども、牛乳を飲んでお腹がゴロゴロする場合もあります。その一つに、過敏性腸症候群(IBS)が考えられます。
長谷川さんと共に牛乳とお腹ゴロゴロの関係について研究をしている、新宿区の岡田小児科クリニック院長の岡田和子さんは、「牛乳を飲んだあとのお腹の違和感が軽く、本人の経験から気を付けて生活することで問題なく過ごせている人は、IBS傾向といえると思います」と話します。
「『牛乳でお腹がゴロゴロする』と強く思ってしまっている人は、牛乳を飲むこと自体がストレスになってしまっている場合もあるかもしれません」
実は私、高校生の頃からストレスを感じるとお腹を壊すことが多々あります。
もしかしたら、IBSによるお腹ゴロゴロの可能性も…。
「牛乳を飲んでお腹がゴロゴロする人の中には、乳糖に原因である場合とは別に、心因性の腹部症状の人も、中にはいるだろうというのは昔から言われているんです」と長谷川さん。
「だけど、『牛乳を飲んでお腹がゴロゴロする人=乳糖不耐症』という話がほぼ都市伝説的に広まっている感があります」
「IBS傾向がありつつ、ラクターゼが不足している人もいると思いますが、牛乳を飲んでお腹がゴロゴロすることがイコール乳糖不耐症であるというのは勘違いかもしれません」
乳糖が原因なのか、ストレスによるIBSが原因なのか、それとも複合的なものなのか……。私のお腹ゴロゴロの謎は深まるばかりですが、牛乳をまた飲みたい気持ちには変わりありません。
諦めきれない私は、なんとかして牛乳をまた飲めるすべはないだろうかと、乳業メーカーなどからなる社団法人「Jミルク」に話を聞きに行くことにしました。
Jミルクは乳業発展を目的とする、乳業メーカーなどからなる社団法人です。
部屋に通していただき、最初に聞かれたのは「お飲み物、牛乳とお茶がありますが、いかがされますか」。
さすがJミルクさんです。でもすみません、私牛乳飲むとお腹壊しちゃうんです。多分。
「あ…すみません、お茶で…。ほんとすみません」
疑問に答えていただいたのは、農学博士でマーケティンググループの池上秀二さんです。
過去に乳酸菌の研究などもされてきた方で、名刺には「愛してミルク?」の文字。お腹が痛くならなければ愛したい。
Jミルクでは現在、東京女子医科大学と共に牛乳とお腹ゴロゴロの関係を解明するための研究を進めています。
研究では、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人を対象に、牛乳を飲む量を徐々に増やした場合、どのくらいの人がお腹の違和感がなく牛乳を飲めるようになるかを試験しています。
少量から飲み始めた牛乳を少しずつ増やし、8週間で100~200ミリリットルまで飲めるようになった人で症状が改善した人は、全体の9割にのぼりました。
これはもしかして私にも希望の光が…?
池上さんに、「また飲めるようになるにはどうしたらいいでしょうか」と聞くと、東京女子医科大学との試験結果をもとに、「続けるということが大事だと思います」という答えが返ってきました。
東京女子医科大学との試験で上記のような結果が出た理由は、まだ仮説段階ではありますが2つの可能性が考えられるといいます。
一つ目は、乳糖が関係していた場合。その場合は、腸内の細菌叢(さいきんそう)が変化した可能性があります。
もう一つは、乳糖が関係しない場合。その場合は、「自信がついた」などの心因的な変化が考えられるそうです。
ただ、前者の腸内細菌叢に関しては謎が深いようで、「どの細菌が良い・悪い働きをしているのかわかっていないところも大きいし、人によって、細菌叢が違うので、まだまだわからないことが多い」(長谷川さん)といいます。
「ところで、給食で『よくかんで飲みなさい』と言われたことがあるのですが、それによって消化がよくなることはありますか?」と池上さんに尋ねてみました。
「うーん、乳糖は小腸の酵素によって消化されるので、かんだからといって消化を助けることにはなりませんね」。
ただ、咀嚼が消化管の動きを促すことに繋がるので乳糖というよりは牛乳そのものの消化を助けることにはなるかもしれません。また、「飲み込む前に口の中で温めて飲むという意味なら、冷たい牛乳よりも胃や腸に与える刺激が減るので試してみるのもいい」といいます。
下痢に悩む患者を診ることもあるという、日本うんこ学会会長で医師の石井洋介さんにも話を聞いてみました。
石井さんの経験でも、乳糖不耐症と明確に診断しきれず、下痢が続いている人を診察することが沢山あるのだそう。
「そういう方には、IBSの薬や下痢止めの薬などの対症薬で対応します。会社でトイレに駆け込むことがなくなるなど、日常生活に困りさえしなければ問題なくなることが多いです」
もし、乳糖不耐症と診断された場合の対処を聞きました。
石井さんは「生活に支障をきたすような乳糖不耐症を疑う場合には、まず一度近くの消化器内科医へご相談を」とした上で、「理論上は、ベータガラクトシダーゼ(糖を分解する酵素)を飲めば有効だと思いますが、薬を飲みながらでも飲みたいという方に出会ったことがありません……」とのこと。
「命に関わる病気ではないため、QOLや乳製品への愛の深さと相談しながら、ベストな選択肢を一緒に考えていくことが、僕ら下痢と向き合う医師の仕事ですね」
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