MENU CLOSE

連載

#7 #カミサマに満ちたセカイ

離婚、退職 恋にも溺れ…「占い師」を頼った私が家族と向き合うまで

心の寂しさを埋めたのは、スピリチュアルの言葉

占いを始めとした「スピリチュアル」が、少なくない人の心をとらえています。背景にあるものを探りました。
占いを始めとした「スピリチュアル」が、少なくない人の心をとらえています。背景にあるものを探りました。 出典: (c)Takami Kizu

目次

首都圏在住の女性(52)は、人生のままならなさに打ちのめされてきました。子育てのさなかに経験した離婚。上司の圧力に悩んだ末、職場を離れた過去。「誰かに助けて欲しい」と、恋愛にも溺れました。追い込まれた末に出会ったのは、占い師を名乗る人物です。運勢を見てもらうだけでなく、高額な授業料を支払い、師事した時期も。いわゆる「スピリチュアル」の世界に浸る日々を経て、女性は家族への思いに気付いていきます。彼女のこれまでを振り返ると、自らを超えた存在に頼ろうとする、心の動きが見えてきました。(withnews編集部・神戸郁人)

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」
カミサマに満ちたセカイ

「救い」求める心情を知りたい

待ち合わせ場所に赴くと、既に女性の姿がありました。しゃんと背を伸ばした様が、凛(りん)とした雰囲気を醸し出しています。待たせてしまったことを謝ると「とんでもない! 今日はよろしくお願いしますね」と、柔和な笑顔で応じてくれました。

今回取材を申し込んだのは、何者かに救いを求める心情について、深く知りたいと考えたから。女性の体験には、誰しもが抱える可能性がある生きづらさと付き合うための、ヒントがあるのではないか――。そうした思いから、連絡をとりました。

聞けば会社員として働き、この日は休みを取ったといいます。恐縮しつつ、取材場所の喫茶店へと向かいます。私とは親子ほどの年齢差がありますが、道すがら交わす言葉は、とても丁寧です。語り口も優しく、自然と緊張がほぐれていきます。

店内に入った後、リラックスした雰囲気の中、私は質問を重ねていきました。

取材に応じる女性
取材に応じる女性

夫と離婚、ワンマン社長の圧力に苦悩

スピリチュアルへの傾倒は、女性が歩んできた道のりと、深くつながっています。

学生時代に出会った男性と、19歳で結ばれました。翌年に長女が生まれ、時を置いて次女と三女も出産。生活費を稼ぐため、飲食店のパートタイマーとして身を粉にしましたが、後に夫の女性問題が明るみに。30歳で結婚生活にピリオドを打ちました。

シングルマザーとなってからは、よりよい収入源を得ようと、企業の営業職に転身。正社員採用でしたが、ノルマが厳しく、過酷な労働環境だったといいます。5年ほど働いたと後、別の会社でカスタマーサービス職に就きました。

自社のウェブサイト経由で連絡してきた人に、商品の内容を伝える業務。分かりやすい説明が評判となり、次第に顧客から指名を受けることが増えました。

やりがいを感じる一方、社内では幹部によるパワハラが常態化し、居づらさも覚えていたと女性は打ち明けます。

「設立から間もない会社だったこともあり、社長の影響力がとても強かったんです。気に入られなければ、側近すら排除される状況でした」

女性自身も、会議で意見を無視されるといった仕打ちを受け、社長と顔を合わせることが怖くなるように。ストレスは高まるばかりでした。

カスタマーサービス職として、優秀な業績を残した女性。しかし上司との関係に悩み、心の内では悲鳴をあげていたという(画像はイメージ)
カスタマーサービス職として、優秀な業績を残した女性。しかし上司との関係に悩み、心の内では悲鳴をあげていたという(画像はイメージ) 出典: PIXTA

言い当てられた過去、よりどころとなった占い

そんなとき同僚から、とあるSNSを紹介されます。いわゆるマッチングサービスでした。

当時の女性は、40代に入ったばかり。子どもたちも成長し、かつてほど手が掛からなくなったことで、徐々に自分の時間を持てるようになっていました。

寂しい――。守るべき対象を見失ったからか、この頃女性の心には、そんな感情が渦巻いていました。更に勤務先の社員たちは、パートナーがいる人ばかり。その中で自分だけ浮いている印象もあったそうです。

試しにSNSを使ってみると、すぐに一人の男性と出会います。

「2年ほど付き合い、二度目の結婚に至りました。ただ相手の勤め先が、自宅から車で2時間近くかかる場所にあって。忙しい時期は、家に戻れないことも少なくなかったんです。段々と生活リズムが合わなくなり、心の距離も生まれてしまいました」

しばらくすると、別居生活に。職場では強い精神的負荷を感じ、プライベートも立ちゆきません。そのような状況下で、よりどころとなったのが占いだったのです。

たまたま知人に薦められた、都内のサロンを訪問。占い師を名乗る男性に、夫との関係性について相談します。すると、女性問題などを巡り、一人目の夫との仲がこじれたことを始め、過去を次々言い当てられました。

「娘たちが独立したら、今の旦那の所に行けばいい」。具体的なアドバイスを受け、女性の中で「この人になら悩みを解決に導いてもらえる」という期待が膨らんだそうです。

その後、二人目の夫とも離婚しますが、更に占いへの関心を深める出来事がありました。

追い込まれた末に、女性はマッチングサービスを利用するように(画像はイメージ)
追い込まれた末に、女性はマッチングサービスを利用するように(画像はイメージ) 出典: PIXTA

「この道しかない」募り続けた焦り

女性はある日、「スピリチュアルカウンセラー」という専門職を養成する講座の広告を、ネット上で見かけます。

お客の悩みに耳を傾け、運気がよくなるようアドバイスする仕事。「起業につながれば、職場を離れられるかもしれない」。人と接するのが好きだったこともあり、悪くない選択肢と思えたといいます。

女性は約30万円の授業料を支払い、3カ月ほど通いました。

「私達の人生は”神”に操作されている」。先生役の占い師が語る壮大な世界観。カードを使った占術や、体の痛みを和らげる「ヒーリング」の練習……。半信半疑で受け止めつつも、「この道しかない」と自らに言い聞かせながら取り組んだそうです。

学校のクラスのような雰囲気の中、同じ志を持つ仲間と学ぶ時間は、楽しくもあったといいます。「私は人生の大半を、育児と仕事に費やしてきました。遅れて来た青春と言える時間だったかもしれません」

カリキュラムを終えると、経営の手法を学ぶため、講座をランクアップするようすすめられました。ただ実際には、占いの知識さえ十分身についている感覚がありません。不安が募り、外部の起業家向けセミナーに参加しましたが、満足いく成果は得られませんでした。

胸のざわつきを抑えたくて、再びマッチングサイトを利用し始めました。そばにいてくれる誰かを求め、気が合う男性と逢瀬(おうせ)を重ねたものの、家族になることはなかったのです。

募る寂しさが、女性を占いの深みにはまらせていく(画像はイメージ)
募る寂しさが、女性を占いの深みにはまらせていく(画像はイメージ) 出典: PIXTA

「何とかしてもらおう」と思うことはやめた

現実に打ちひしがれる中、手を差し伸べてくれた人々がいます。娘たちです。

「それぞれ就職したり、出産したりと、新たな人生を歩んでいました。既に自分の生活があるのに、SNSをやめるよう説得するなど、何度も働きかけてくれたんです。私の安易な判断で彼女たちを悲しませたり、ましてや失ったりしたくない。そう思うようになりました」

わが子とのつながりは、女性を恋愛の重力圏から引き離しました。身の丈にあった生活をしようと、別の企業にも再就職。以来、営業担当として、得意先をせわしく飛び回っています。

サロンの講義で学んだ瞑想(めいそう)法や、自然に感謝するといった思考は、気持ちを安定させるのに役立っていると女性は語ります。スピリチュアル的な価値観との出会いには、どのような意義があったのでしょうか?

「恋愛や結婚以外にも、興味を持てるものがある。そう気づくきっかけを与えてもらった気がします」

「そして『誰かに(人生を)何とかしてもらおうと期待するのではなく、きちんと自立しよう』と思い直す機会にもなりました。起業できるだけの能力は身につかなかったけれど、自分を変えてくれたという点で、大切な体験であると感じています」

娘たちのサポートを得て、女性は自分を取り戻すことができた(画像はイメージ)
娘たちのサポートを得て、女性は自分を取り戻すことができた(画像はイメージ) 出典: PIXTA

スピリチュアル=現状肯定ツール

一般に占いは、男性よりも女性の心を強くつかんでいると言われます。背景事情について、宗教社会学が専門の立教大・大正大兼任講師、橋迫瑞穂さんに聞きました。

橋迫瑞穂さん
橋迫瑞穂さん

橋迫さんによると、占いが広がったきっかけの一つとして、『マイバースデイ』という専門誌が挙げられます。1970年代~2000年代に刊行され、タロットカードなどを使った占いの方法や、人気占い師による寄稿を掲載。思春期の少女を中心に、厚い支持を集めました。

中でも好評を博していたのが、恋愛成就のための占い・おまじない特集だといいます。

「学校生活において、恋愛は重要視されるものです。特に地方では、卒業後も地元にとどまり、同級生と結婚するという女性が少なくありません。いわゆる『スクールカースト』が、そのまま『地域社会のカースト』になっているケースもあると思います」

「占いやおまじないは、うまく恋愛し、人間関係を築くための道を示してくれるもの。雑誌には、自ら考えたやり方について情報共有する、読者ページも存在しました。つまりカスタマイズしやすく、生活の中に落とし込むことが容易だったのです。その意味で、少女たちに求められる素地はあった、と言えるのではないでしょうか」

一方で女性の場合、妊娠・出産を機に、人生が大きく変化することもあります。その際に、スピリチュアルな情報が果たす役割があったと、橋迫さんは語ります。

「家庭で育児する時間が増え、社会からの疎外感を覚える。周囲に母親としての生き方を求められ、本来の自分との距離に悩む。そうした環境で、妊娠・出産・育児に関わるスピリチュアルな情報は、現状を肯定するためのツールになる場合があります」

「たとえば占星術などを通じ、ある種の超越的な視点から人生を捉え直す。そのように、いわば『自分のあり方を書き換えてくれるもの』として受容されていった、と考えられるかもしれません」

橋迫さんの著書『占いをまとう少女たち 雑誌「マイバースデイ」とスピリチュアリティ』(青弓社)の書影。占い専門誌が、思春期の少女たちに受け止められていく過程がまとまっている
橋迫さんの著書『占いをまとう少女たち 雑誌「マイバースデイ」とスピリチュアリティ』(青弓社)の書影。占い専門誌が、思春期の少女たちに受け止められていく過程がまとまっている 出典: 青弓社提供

自己の揺らぎと「ワンオペ育児」

女性たちの苦悩は、スピリチュアルの世界に更なる多様性をもたらしました。

子宮を神格化し、エクササイズによる臓器のケアなどを通じて、母親らしさを追求しようとする「子宮系」。医療機関の受診を避けるといった形で、自然に近い状態での出産や育児を望む「自然派」。いずれも近年、ネットなどで盛んに言及されるようになった思想です。

これらに共通するのは「ワンオペ育児」であると、橋迫さんは話します。

「研究のため、スピリチュアルに傾倒する女性たちに話を聞いたり、情報を集めたりしてきました。彼女らの語りから感じたのは、夫に対する期待の希薄さです。母親である自分だけで子どもを育て、家庭を支えねばならない。一連の振る舞いは、そうした意識に裏打ちされていると思います」

「待機児童問題の深刻化など、特に育児を巡る社会状況は、厳しさを増しています。他者の助けを得づらく、アイデンティティが揺らぎやすいという現実がある。だからこそ、女性的な役割意識を再生産するかのような、昨今の潮流が生まれているのではないでしょうか」

実際、「ママサロン」と呼ばれる教室が、各地で広がりを見せているといいます。これは母親たちが自主的に開く、スピリチュアルの勉強会。子育ての合間に参加可能な上、自己肯定感や、社会の一員としての実感を得られるとして、人気なのだそうです。

「ワンオペ育児」に悩んだ末、救いを求めてスピリチュアルに傾倒する人もいる(画像はイメージ)
「ワンオペ育児」に悩んだ末、救いを求めてスピリチュアルに傾倒する人もいる(画像はイメージ) 出典: PIXTA

金銭トラブルも…それでも否定できない理由

しかし橋迫さんは、「決して全肯定できるものではない」との見方を示します。

ママサロンの出席者の中には、「スクーリング」という活動に携わっている人がいます。守護霊を見る力とされる「霊視」など、いわばスピリチュアル的な「技法」について学ぶ講習会です。橋迫さんによれば、ここ10年ほどで広がりました。

数十万円の授業料を支払って参加し、修了後は自ら講師となり、サロンの中でスクーリングを始める--。そのように、多額の金銭をつぎ込む構造が引き継がれる、という側面があるのです。子宮系・自然派に関しても同様の傾向が見られます。

ただ表向きは、女性向けの趣味教室や、代替医療の説明会として開かれることも。そのため事情を知らずに入り、金銭トラブルに遭う人もいるそうです。

こうした動きは、科学的根拠に欠けるといった理由でも、やり玉に挙げられることが少なくありません。橋迫さんは「感性が近い人々同士で集まり、自分にとって都合のよい情報を得ようとしていのは否めない」とした上で、こう話しました。

「今の社会が、必ずしも幸せで生きやすいものでないからこそ、スピリチュアにはまっていく。それは間違いないと考えています。もちろん、依存性などの問題は指摘されるべきでしょう。とはいえ、一面的な批判に終始してしまうと、核心が見えなくなってしまうかもしれません」

「占星術をはじめ、スピリチュアルは、生活を豊かにするためのカルチャーとしても受け入れられてきました。事実、楽しく取り組んでいる人もいます。現代社会において誰かの価値観は、安易に否定できるものではないし、していいことでもない。そのような前提で、問題も含めて捉える必要があるのではないでしょうか」

「スクーリング」は、趣味の集まりなどを装って行われる場合が少なくないという(画像はイメージ)
「スクーリング」は、趣味の集まりなどを装って行われる場合が少なくないという(画像はイメージ) 出典: PIXTA
カミサマに満ちたセカイ

連載 #カミサマに満ちたセカイ

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます