連載
#40 夜廻り猫
ベッドの上で「恋人・学歴……俺には何もない」夜廻り猫が描く努力
子どもの頃から入退院を繰り返している男性が、病院のベッドの上でつぶやきます。「生きてるだけで精いっぱい。俺には何もない」――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「努力」を描きました。
夜の総合病院、心の涙の匂いをかぎつけた猫の遠藤平蔵がベッドそばに寄り添います。
13歳の頃から入退院を繰り返している男性が、ぽつりと言います。
「もう23歳。痛い思いして手術して、やっとの思いで退院して、また再発。生きてるだけで精いっぱい」
友達、恋人、学歴、仕事……人が手に入れてくものが俺には何もない……。そう振り返ります。
遠藤は、ベッドそばに乾かしてある靴下がつくろってあるのに気づきました。
「穴が開いたら縫うんだ 5足1000円だけど、縫うと俺の中じゃ1足1000円ぐらいになる」
そうほほえむ男性に、遠藤は思わず「わかる 新品よりいとしいよな」と答え、
「簡単に手に入るものより価値がある おまいさんだから分かるんだ…」と語りかけます。
照れた男性は「……説教?」とはにかみ、遠藤は「ごめーん」と笑い返すのでした。
作者の深谷さんには、大病をして長期入院し、その後もリハビリに励む友人がいるといいます。
友人とおしゃべりしていたとき、先行きが不安になって「老後、生きていけなさそうなので安楽死したい」と話したことがあるそうです。
その友人は「私の命はたくさんの人に助けてもらったものなので、何があろうと粗末にはしない」と答えました。
深谷さんは、「恥ずかしくなりました。自分自身も、物事の価値も、自分がどれだけ努力したかで全然違うんだろうな……。そう感じた出来事です」。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本6巻(講談社)が11月22日に発売された。12月6日まで東急ハンズ名古屋店にて「夜廻り猫ミニミニショップ」を開催中。
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