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本当に「やさしい」? 台風で外国人に伝わらなかった意外な日本語

台風で警戒を呼び掛けるために書いた「やさしい日本語」のニュース。後日、外国人に聞いてみたら、言葉は理解できるのに、意味が伝わらない、「やさしくない」事実が見えてきました。

東京都が催した外国人向けの防災訓練。がれきの下敷きになった人を助ける方法を学ぶ参加者=2017年1月
東京都が催した外国人向けの防災訓練。がれきの下敷きになった人を助ける方法を学ぶ参加者=2017年1月

目次

10月初旬に、各地で猛威を振るった台風19号。早い段階から気象庁が注意を呼び掛けました。「となりの外国人」というテーマで、日本で暮らす外国人を取材してきたwithnewsでも、日本語にまだ慣れていない外国人が分かりやすい「やさしい日本語」で記事を3本配信しました。SNSでも多くシェアされました。一方で、「本当にこの記事は、外国人にやさしかったのか?」と気になりました。外国人に直接聞いてみたら、言葉以外の問題で、伝わっていないことがたくさんあったことに気づきました。

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「台風」知らなかったら危機感伝わらない

台風への注意を伝える1本目の記事は、一橋大学教授、庵功雄先生に聞いた、「やさしい日本語」の基本に沿って書きました。

・必要な情報だけに絞る
・大切な情報は前に
・1文は短く
・日常的に使う言葉を使う

大事な情報を、わかりやすい日本語にするだけで、普段の記事の何倍も時間がかかりました。

【やさしい日本語で書いてみた】→とてもつよい台風(たいふう)がきます

記事配信後、この記事を日本人の友人にシェアされたというインドネシア人に話が聞けました。研修のため来日してまだ2週間だと言います。「タイフウって何ですか?」「いつ、何が起きるんですか?」と戸惑っています。

私は「台風は、とても強い風が吹きます。雨もたくさんふります」と説明しました。そのインドネシア人は、「そうなんですか……。でも、観光には行けますか?」。危機感がなかなか伝わりません。

調べてみると、北半球と南半球では、熱帯低気圧でも「台風」や「ハリケーン」と呼び方が変わります。赤道下では台風は起きることはほとんどなく、地域によっては、台風を経験したことがない人もいるようです。

以前、日本の災害に直面する外国人の取材をしたとき、「あなたが海外旅行に行ったとき、突然『巨大竜巻が来るから気を付けて』と言われたらどうしますか」?それと同じぐらい不安」と聞いたことがありました。巨大竜巻にどう対処すれば良いか経験がない私は、パニックになるだろうと思いました。

慣れない海外で、慣れない言葉で、こんなニュースがテレビから流れたときの気持ちは……(イラストはイメージ=PIXTA)
慣れない海外で、慣れない言葉で、こんなニュースがテレビから流れたときの気持ちは……(イラストはイメージ=PIXTA)

「強い風」だけでは伝わらないと感じ、それ以降の記事では、同規模とされた直近の大型台風の写真や動画を使い、トラックが横転したり、家が壊れた被害を紹介しました。
「いつ、どこに、台風がくるか」、最新の予報も、やさしい日本語にして、表で整理しました。

【さらに、やさしい日本語で書いてみた】→わたしのまち、台風(たいふう)いつくる?

【もっと、やさしい日本語で書いてみた】→台風(たいふう)で警報(けいほう)がでたら

「少しは『やさしい』ニュースになったかな?」と思っていました。

「食べ物を準備してください」→買ったものは?

台風が過ぎた後、多文化共生センター東京(荒川区)の親子日本語教室で勉強している外国人5人に、記事を読んでもらいました。

みなさん、日本在住歴5年未満です。中国、韓国出身ですが、これほど大きな台風の経験はなかったそうです。
「台風怖かったです」「スマホから警報がなって……」と口々に恐怖を語ってくれました。

5人の情報源は日本語のニュース番組と、英語と日本語のネットニュース、「友達から聞いた話」もありました。でも理解できる情報は少なく、不安が大きかったのは共通していました。

台風に備えて準備していたか、私の書いた「やさしい日本語ニュース」を見せながら聞きました。
今年来日した韓国出身の女性は、「はい、私は食べ物を準備しました。タマゴと牛乳です」。

あれ……? 非常食としてあまり聞かないラインナップ。

「やさしい日本語」だから、言葉は理解できるのに、実は通じていないことがたくさん見つかりました(写真はイメージ=PIXTA)
「やさしい日本語」だから、言葉は理解できるのに、実は通じていないことがたくさん見つかりました(写真はイメージ=PIXTA)

伝わらない原因は略した「前提」だった

私は「台風で停電(電気が止まる)になるかもしれません。すると、冷蔵庫が動きません。タマゴや牛乳は腐ってしまいます。料理もできなくなるかもしれません。缶詰やレトルトが良いと思います」と加えました。

「缶詰? レトルト? なんですか?」と戸惑います。写真を見せると、缶詰は少し分かってもらえました。レトルトは5人とも伝わりませんでした。

中国人の同僚に聞くと、「中国は広いので一概に言えませんが、災害による停電を経験したことがない人は多く、何が起きるか想像しにくいでしょう。ちなみに、中国には常温保存できる牛乳もあります。でも、レトルトや缶詰は日本ほど発達していないです」と説明してくれました。


「食べ物」という言葉を理解できても、何が必要か、どうして必要なのかを伝えなければ、本当に伝わる「やさしい日本語」にはならないと感じました。

日本語に不慣れな外国人に伝える方法を考えながら、自分が普段、いかに自然と「やさしくない日本語」を使っていたかもしれないと気付きました。

外国人の意見でできた本当に「やさしい日本語ニュース」がこちら
家(いえ)にあると安心(あんしん)できるもの
やさしさのポイント


「『食べもの』とは、停電でも食べられるもののこと」
その社会で前提になっていることを言葉にしないのは、どこの国でも起こることです。でも、「やさしい日本語」ではそれも言語化しないと伝わりません。主語を略さない、とか基本の書き方は直せますが、文化的に伝わらないことは、その場面に直面した人に言われないと気づかないものです。伝わらないことがあって、その理由が何なのか、経験値を積み上げていくことが、とても大切だと感じます。避難所での混乱など、災害で起こり得ることは何なのか、災害が起きる前から、別の国の文化を知る人に聞きながら、想定しておくと良いですね。

庵功雄(いおり・いさお)さん:一橋大学国際教育交流センター教授。日本語教育の専門家。主な著書に『やさしい日本語――多文化共生社会へ』(岩波新書)、『<やさしい日本語>と多文化共生』(ココ出版・共編著)など。

 

伝えたい情報を、なるべくシンプルに、誰にでも分かりやすい「やさしい日本語」にして届けます。
本当に「やさしい」のか、日本に暮らす外国出身の人や、専門家にもアドバイスをもらいながら、本当にやさしいニュースを作っていきます。

毎週土曜日に配信予定です。

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