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「長寿ドラマ」作り手の胸の内 20周年「科捜研の女」脚本家に聞く
人気シリーズとなったテレビドラマには、新作を待つファンを大事にしながら、新しい視聴者を取り込まなければならない難しいかじ取りが求められます。今年、20周年を迎えた「科捜研の女」もその一つ。長く脚本を担当する一人である戸田山雅司さんは、「安定した世界観の中で新旧の人材が同居できるのが魅力」と話します。ドラマをテーマにしたリアルイベントの構成も手がけた戸田山さんに、人気シリーズの醍醐(だいご)味について聞きました。
「科捜研の女」にはSeason3の2001年から脚本を担当している戸田山雅司さんは、20年の間に、登場人物には変化が起きていると言います。
「沢口靖子さんが演じる榊マリコは、最初の頃、旧世代の上司と戦っていました。でも今は、『異端児』キャラの渡部秀さん演じる橋口呂太を、『私もこういうところあったよね』と、温かい目で見守っています。視聴者側も、昔は登場人物の娘役に感情移入して楽しんでいた方が、今はお母さん側の視点になっているかもしれない。時の変化も魅力になる長寿シリーズの面白さです」
そんな、長寿シリーズならではの変化は、脚本にも現れているそうです。
「昔は、一人の気持ちの描写で突っ走る話が多かったです。今は、登場人物が傷つくのと同時に『こういう一言で救ってくれる人もいるよね』と別の視点も入れられるようになりました。キャラクターの成長に合わせて、セリフも記号的ではなくなり、過去作でその人が体験した出来事や感情が、今のセリフにも影響を与えているようにしようと思っています」
毎回、様々な脚本家が参加する科捜研では、ベテラン陣と若手が一つのシリーズを作り上げていきます。
「番組当初から関わっている世代は、右肩上がりで未来はよくなるという世の中がまずあり、そこと現実とのギャップにつまずくような描き方になることが多かったです。若い人の場合、現状維持をすること自体が夢になっている感じがします」
「そういった新旧の脚本家の個性を、沢口靖子さんたちによって積み重ねられてきた盤石の空気が包み込んでいて、ちょっとくらいの風が吹いてもぐらぐらしない世界観ができています」
今回、戸田山さんは、「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION」(8月25日まで開催)で企画された謎解きイベント「科捜研の女〜ARマリコと合同捜査in六本木」の構成も担当しました。
イベントの参加者は、マリコさんの音声を聞きながらスマホを使って謎解きを進めます。
「マリコさんに、『こき使われる』体験をしてもらえたらと思って考えました。ドラマのBGMが聞こえてくるだけで、不思議とわくわくする。科捜研メンバーの一員になった気持ちになれる。映像による拡張現実もありますが、音の拡張現実にも可能性があると感じました」
リアルイベントを手がける中で印象的だったのは、現実世界にも科捜研のメンバーがいるかのように楽しむファンの姿でした。
「謎解きイベントは、六本木に出張にきたマリコさんと一緒に、事件に巻き込まれるという設定ですが、参加者のみなさんが自然に受け入れてくれる。逆にドラマのファンが京都に行くと、科捜研のメンバーがそこにいると思って旅行を楽しんでくれる。マリコさんたちは、ドラマがない時期もずっと事件を解決している。20年も続いているおかげで、科捜研の女というドラマそのものが、壮大なARになっていると思いました」
「科捜研の女」スタート時に比べると、テレビの置かれた環境は大きく変わりました。お茶の間に一台という存在が、一部屋に一台、そして今ではテレビを持たない人もいます。
そんな時代の変化の中でも、戸田山さんは、テレビの持つ魅力は変わらないと言います。
「例えば、DNA鑑定のような、ちょっと難しい言葉が出てきた時、子どもが『どういう意味なの?』と聞くことでコミュニケーションが生まれます。親でも兄弟でも、クラスの友だちでも、ドラマをネタに会話ができれば、世代やコミュニティーを超えた体験の共有が生まれる。それこそが、コミュニケーションツールとしてのテレビの魅力だと思います」
最近では、ストリーミングによる視聴も広まっていますが、戸田山さんは、環境の変化は新しい挑戦にもつながると見ています。
「昔、テレビは音で聞くものでした。家事をしながらつけていてもわかるようにしなければならなかった。でも、ストリーミングだったら、巻き戻しが簡単にできます。説明をあえて省いて、視聴者に想像と推理をしてもらった後、見返してもらうという作り方も生まれるかもしれません」
今回は、1年を通じた年間シリーズとなった「科捜研の女」。長寿シリーズならではの展開が生まれているそうです。
「最近、頑固で愛想のないキャラである金田明夫さん演じる藤倉甚一刑事部長が、たまに『デレる』ようになりました。新しい空気を入れながらも、ドラマが守ってきた『被害者が現場に残してくれた思いや声を科学の力で拾い上げる』という骨格は変えない。長寿シリーズならではの見せ方を考えていきたいです」
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