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「既成政党にガチ」参院選異例の擁立れいわ N国・安楽…挑む諸派は
7月4日から始まった参院選。全国を一つの選挙区とみなす比例区で、「既成政党にガチンコでケンカを挑む」と様々な団体が名乗りを上げました。「諸派」とひとくくりにされがちなこれらの団体ですが、どう戦うのか。陣立ての狙いを探ってみました。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
テレビの討論番組などでおなじみの7政党以外に、今回の参院選で比例区(改選数50)に立候補を届け出たのは6団体。都道府県別の選挙区(改選数74)と合わせて候補者の数をみると、この通りです。
この6団体あわせて比例区に25人、選挙区に68人が出馬。おなじみの7政党も含めた全体では、下の表の通り比例区155人、選挙区215人ですので、6団体の候補者はそこそこの割合です。都道府県別の選挙区では各候補が一覧できるポスター掲示場があちこちにあるので、そこで顔を見かけることもあるでしょう。
で、気づかれたかと思いますが、最初の表には「供託金の総額」もあります。供託金とは、売名目的などの無責任な立候補を防ぐために法務局に預けないといけないお金で、一定の得票がないと没収されます。立候補1人あたり比例区で600万円、選挙区で300万円なので、6団体の額はそれぞれこうなるのです。
全国を一つの選挙区とみなす比例区に団体として立候補すれば、政見放送などで全国に主張を訴えられます。「国会議員5人以上か、直近の国政選挙で得票2%以上」という、主要政党なら何とかなる条件をクリアできない場合、比例区に出るには選挙区と合わせて「10人以上」の候補を立てないといけません。
最初の表にあるように、比例区と選挙区の候補者の合計がぴったり10人なのが6団体のうち4つもあるのはそういうことです。おなじみの政党よりも資金的に厳しい中で、なんとか候補者を10人そろえて比例区に立候補し、全国に主張を響かせようというわけです。
6団体の擁立のしかたを比べると、候補者数ではNHKから国民を守る党(N国)が41人とずば抜けており、主要政党と比べても自民党(82人)、立憲民主党(42人)に次ぎます。ただ、上の表をよく見ると、別の意味で目立つ団体があります。れいわ新選組(れいわ)です。
れいわの候補者数を見ると、比例区が9人と6団体の中で最も多く、しかも他の5団体と違って選挙区よりも比例区の方に多く擁立しています。限られた資金で考えると、比例区に出るため選挙区と合わせて10人を擁立する場合、供託金が1人600万円かかる比例区よりその半分で済む選挙区の候補者を増やした方が、供託金の総額は少なくて済むのにです。
比例区1人、選挙区9人とした安楽死制度を考える会の擁立のしかたが最少額となり、れいわの6割以下です。
供託金に使える資金がそれなりにある場合でも、N国のように選挙区の候補を増やすやり方もあります。各選挙区で主要政党の候補に勝つのは難しいかもしれませんが、全国各地の選挙区に広く擁立することで団体の知名度を上げられ、それが比例区での得票増にもつながるというわけです。
でも、れいわは候補者数を比例区に出るために必要な10人に絞りつつ、うち9人を比例区に立てました。どうしてでしょう。
参院選公示の7月4日の夕方、れいわの候補者たちが集まる東京・秋葉原での街頭演説をのぞいてみました。代表の山本太郎さんがあいさつのマイクを握ります。
「入場料(供託金)だけで選挙区300万円、比例区600万円。新規参入お断りなんですよ。一握りの人間たちしかリーチできないのが政治なら、世の中変わっていくはずがないじゃないですか。そこに真っ向勝負を仕掛けたい。かかる費用をどうやって賄うか。多くの方々から絞り出すような1000円、500円、そういうお金をいただきました。その金額、2億2千万円を超えています。本当にありがとうございます」
やはり資金的に厳しかったが、広く寄付を募ってなんとかここまできた。なら、そのお金をどうして供託金がかさむ比例区での擁立を増やす方に向けたのでしょう。
そのわけを、山本さんの司会で次々とマイクを握った比例区の候補者たちが語りました。
原発廃止を唱える元電力会社社員、大手フランチャイズのコンビニ労働の過酷さを語る元店主、二人の子を抱えホームレスになったこともあるシングルマザー……
つまりれいわは、多様な社会問題の現場にいるそれぞれの「当事者」たちを国会に送ろうとつながった運動体と言えるでしょうか。だから比例区にできるだけ多くの候補を出し、それぞれの問題意識を全国に訴えようとします。特定の政策に絞って訴える国会議員を増やそうという、これまで国政選挙で「諸派」と呼ばれてきた団体の多くとは違う感じなのです。
そうしたれいわの姿勢は、比例区での擁立に別な形でも現れました。
参院選の比例区では団体名でもその団体の候補者名でも投票でき、全体がその団体の得票とみなされて議席が比例配分される一方で、各団体の中では候補者名での得票が多い順に当選していきます。さらに今回の参院選から、候補者名での得票数に関係なく、各団体が優先的に当選させる候補を指定できる「特定枠」という制度ができました。
れいわはその特定枠に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病で全身まひとなった男性と、赤ちゃんの頃の事故で重度障害のある女性の二人を届け出たのです。
2013年の参院選で東京選挙区から初当選した山本さんは今回改選の対象で、比例区から出ますが特定枠ではありません。つまり、もしれいわが比例区で2議席を取れば、難病や重度障害を抱えた二人の「当事者」は特定枠で当選できますが、山本さんが国会に戻るには少なくとも3議席目が必要なのです。
最近の参院選比例区で3議席を取った団体といえば、2010年の共産党です。得票は356万票、得票率は6・1%。今回の改選数が当時の48より2多いことや、投票率も考えに入れないといけませんが、全国に多くの党員がいる組織政党ではない団体にとってはかなりハードルの高い数字です。
ちなみに朝日新聞が7月4,5の両日に行った参院選の情勢調査によると、れいわは比例区で議席を得る可能性がありますが、推計の上限は2議席です。
街頭演説で「既成政党にガチンコでケンカを挑む」とくり返し聴衆を沸かせた山本さんですが、締めでは「背水の陣」を強調しました。
「300万票を積まないと私があがれない、それ以上を積まないとみんながあがれない。あなたのコントロールの効くアイコンたちをどうか永田町に送り込んでください」
「既成政党」対「諸派」の戦いの行方やいかに。れいわの奇策は「諸派」の新たなモデルになるのか……。投開票は7月21日です。
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