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「香港」を回転すると……デモきっかけに誕生のアンビグラムが話題
刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐり、政府と市民側の対立が続く香港。その影響か、中国のSNS上では「香港加油(頑張れ)」が検索できなくなっています。そんな中、台湾人のデザイナーが公開したアンビグラムが注目を集めています。一見すると「香港」に見える文字ですが、反時計回りに90度回転すると……。作品への思いを聞くと、ある日本人作家への特別な思いがありました。
アンビグラムと言えば、文字を180度回転させたり、鏡に映したりするデザインが多いですが、今回は、反時計回りに90度回転すると「香港」の文字が「加油(頑張れ)」に変わります。珍しさとそのデザインのうまさ、とくにその意味合いへの共感が多く、フリーランスライターのふるまいよしこさんが「#こういう中国大好き」とともにツイートすると、1万件を超えるリツイートと、1万6千件を超える「いいね」が集まりました。
このアンビグラムを考案したのは、台湾人のデザイナーの馬賽(マサイ)さんです。
広告関連の仕事に就く馬賽さんは、挿絵や撮影、デザイン全般を得意としています。アンビグラムのきっかけは、友人への思いだそうです。
「香港には友人が多くいます。6月9日、友人たちや香港市民が彼らの信念のために、デモに出ました。そうした彼らに、何とかエールを送りたいと思いました」
気持ちは、デザインにつながりました。「単純で直接的な形で香港の友人を元気づけたかった」。アンビグラムのよさについて、「二つの意味が同時に含まれるデザインで、人々に驚きと喜び、さらに思考をもたらす」と馬賽さん。デザイン自体もすぐに思いつき、「香港加油」の作品が出来上がったそうです。
作品を発表したのは、馬さん自身のFacebookでした。「最初はとても単純な思いで、まずは友人たちに、自分の気持ちを伝えたかった」
そしてデモ活動が拡大するにつれ、デザインの写真がSNSで転送されるようになり、デザインを使わせてほしいという連絡がたくさん来るようになりました。馬賽さんは「使うのも、シェアするのも、ご自由にどうぞ」と一つ一つ丁寧に返事をしているそうです。
香港市民はそれらをタトゥー、服装、名札など色々な形で具現化しました。また、馬賽さんのところにも写真など、フィードバックがたくさん届きました。
「多くの反響が寄せられ、思いが通じたかと思うと、心が震えました。中でもタトゥーは、体の一部になり、一生伴うものです。本当に想像もしませんでした」
「20年以上、デザインやクリエイティブの仕事をして、賞も多く取りましたが、初めてデザインの影響力や勇気づける力を感じました」と語る馬賽さん。「デザインを通して人々に安らぎと慰めを与えられているとすれば、私にとっても感動的です」。
馬賽さんは日本への思いも語りました。「日本は深く愛している国です。30回以上日本に訪れたことがあるので、ふるさとのように親近感を持っています」。中でも、尊敬しているアンビグラム作家の野村一晟さんへは特別な思いを抱いています。
「野村さんがデザインした『努力』と『才能』が世界を驚かせ、アンビグラムが多くの人に知れ渡った。また、かつて作品を通して台湾ガンバレという意思を伝えてくれた。私がこうした作品を作れたのも野村さんの影響が大きい。彼にまず、感謝したい」
「香港ガンバレ」と同時に、「台湾ガンバレ」のデザインもしたという馬賽さん。香港の事情を見て、地元の台湾にも目を向けたのです。
「香港には香港の課題がありますが、台湾も自分の課題を持っているので、この二つの地域、一緒に頑張ってほしいと思います。そして、最善の解決方法を見つけていければいいと思います」
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