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「空飛ぶクルマ」本気で目指す 米注目のスタートアップ率いる日本人
乗用車から翼が広がり、プロペラが回って、宙へ浮き上がるーー。そんな「空飛ぶクルマ」の実用化を2025年までに目指すスタートアップ企業があります。開発中の車体模型を6月、初公開すると聞いて訪ねると、現れたのは1人の日本人女性でした。
「中東のシリコンバレー」と呼ばれ、数々のスタートアップ企業がしのぎを削るイスラエルの都市テルアビブ。6月11日、自動運転など「モビリティ(移動)」分野のスタートアップ企業を集めた世界最大規模のイベント「ECOMOTION」が開かれました。
130社ものスタートアップ企業がブースを並べるなか、異彩を放っていたのが、会場の一角に展示された「空飛ぶクルマ」の模型です。
銀色の車体から、左右に広がる長い翼。ボンネットに埋め込まれた多くのプロペラ――。マンガの中から出てきたような「空飛ぶクルマ」の周りには、人が絶えません。
写真を撮っていると、「日本の方ですか?」と女性の声が。「創業者&CEO(最高経営責任者)」と書かれた名刺を差し出してくれたのは、日本人の女性でした。
カプリンスキー真紀さん、42歳。イスラエル人の夫・ガイさん(45)とともに、「空飛ぶクルマ」を目指し、スタートアップ企業「NFT」を2018年に米国シリコンバレーで創業しました。
創業から2年目、これまでは秘密で開発を続けてきましたが、ついにデザインが完成し、特許申請も終了。この日のイベントで、車体の初公開に踏み切りました。
その名は「ASKA」。日本語の「飛鳥」が由来です。
銀色の車体は、全長6メートルでSUV車ほどの大きさです。翼を広げると幅12メートル。14のプロペラがボンネットや車体後部などに装備されています。
陸上を走るときは、翼は折りたたまれて車体の上に。離陸するときは翼を広げ、プロペラでの力でヘリコプターのように垂直に浮上します。空中で車体後部のプロペラを横向きに変えると、飛行機のように前方に進みます。
時速150キロのスピードで、航続距離は最大350キロ。行き先を指定すれば、完全自動操縦で目的地まで飛んでいきます。
真紀さんは愛知県生まれ。英国の大学を卒業後、イスラエルの大学院に進み、スタートアップの文化と出会いました。
防衛技術関連の会社をガイさんと起業して成功したのを皮切りに、2社目はIoT(モノのインターネット)分野の会社を2011年に日本で設立。苦労の末、18年に米国の「GEデジタル」に4000万ドル(約45億円)で買収されるまでに成長させました。
そして、3社目の挑戦となったのが、「空飛ぶクルマ」を手がける現在の会社「NFT」。イスラエル、日本、米国と舞台を変えつつ、休む間もなく挑戦を続けています。
真紀さんが「空飛ぶクルマ」に目をつけたのには、わけがあります。
まず、日本でも米国でもひどい渋滞が問題になっていたこと。しかし、上を見上げれば広い空間が広がっていました。加えて、バッテリーの技術が進歩し、自動操縦システムの開発も一気に進んでいる時期でもありました。
何十年も前から人々が夢見てきた「空飛ぶクルマ」ですが、いよいよ実現できる環境が整ってきた。そう判断した真紀さん夫妻は、迷わず行動に移したのです。
いま、空を飛ぶ交通手段はアツい分野のひとつです。米ウーバーテクノロジーズによる空飛ぶタクシー「ウーバー・エア」をはじめ、トヨタなど大手も開発に乗り出しています。
そんななか、小規模なスタートアップ企業としてどう立ち向かうのか。
「ASKA」の特長は、「飛ぶだけでなく、走れる」こと。他社の多くが「飛行専用」路線を進むなか、「ドア・ツー・ドアの通勤で使えることが大事」と、乗り換えなしで道路も走れることにこだわりました。
大きめのSUVサイズの車だからこそ、従来の駐車場でもOK。発着のための大型ターミナルなどは不要で、20メートル四方のスペースがあれば飛び立つことも可能だといいます。
実用化できた場合には、購入だけでなく「ライドシェア」によって多くの人が気軽に利用できる仕組みを目指しています。富裕層の移動手段になるのではなく、「毎月数万円」のような現在のカーリース並みの相場での提供を実現することを重視しているといいます。
また、小規模ながら技術陣も自慢のひとつ。イスラエルでの人脈を生かし、イスラエル軍で無人飛行機や自動運転の開発に携わった経験のある技術者たちが、開発チームを支えています。
会社としての専門分野は「自律飛行」のシステム面。今後は、できることなら日本の自動車産業とも組んで、実用化、そしてその後の大量生産に向けて進んでいきたいと考えているそうです。
来年早々には、デモ機での飛行実験を予定しているという「空飛ぶクルマ」。3人の子どもの母でもある真紀さんは、社員たちにいつもこう声をかけているそうです。
「私と子ども3人が乗りたいと思えるものをつくってね」
親子で気軽に空を飛ぶ――。そんな時代が本当に近づいています。
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