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<金正男暗殺を追う>「Wi-Fiある?」犯行直後、ネット配信したもの
金正男(キム・ジョンナム)氏に毒を塗ったとされるベトナム人のドアン・ティ・フォンさん(31)は、事件後も現場近くにとどまっていた。巨大な「ぬいぐるみ」を持ち歩いたり、自撮り映像をネット配信したり。人目をひくことを、むしろ楽しんでいるようだった。国際社会を騒然とさせた事件、取材を続ける中で「その後」の様子が明らかになった。(朝日新聞国際報道部記者・乗京真知、鈴木暁子)
2017年2月13日の事件後、タクシーで宿泊先のホテルに帰ったフォンは、すぐに荷造りをしてホテルを変えた。荷造りと言っても、逃亡しようとしたわけではなく、インターネットの接続がいいホテルに移るためだったと、フォンは後に警察に語っている。
その証言を裏付ける映像もある。フォンが移ったホテルの防犯カメラの映像によると、フォンは空港にいたときと同じ服装のままホテルにやってきた。Wi-Fiがあるかどうかや宿泊料金を確かめて、チェックインした。
手にはキャリーバッグに入りきらないほど大きい、灰色のテディベアを抱えていて、従業員を驚かせた。焦ったり急いだりしている様子は見られなかった。
フォンは事件翌日の2月14日午後、ベトナムの親類と携帯電話でチャットしていた。親類によると、フォンは「ベトナムに帰ったら買いたい服がある」ので、その前金5万ドン(約250円)分の送金を手伝ってほしいと話していたという。
また、ホテルのロビーや客室では、自撮り撮影をしていた。警察によると、フォンの携帯電話には、テディベアに顔を寄せながら、胸元が大きく開いた青色のドレスでポーズを決める画像が残っていた。自撮りした動画をリアルタイムでインターネットに配信する「ライブストリーミング」を楽しんでいた形跡もあったという。
いつか芸能界入りする夢を膨らませていたフォンは、自分の姿を少しでも多くの人に届けるための演出に、夢中になっていた。
一方、フォンは「(事件当日の)13日のいたずら撮影の出演料が未払い」だったこともあり、カメラマン役のミスターYと連絡が取れなくなったことを気にしていた。
ミスターYからは「空港での撮影は13日から15日まで続ける」「撮影で忙しくて電話に出られない」と聞かされていた。フォンはその言葉を信じた。13日は電話することを控え、14日は電話がつながらなくても「忙しいのだろう」と考えたという。
ただ、撮影最後日とされた15日になっても、ミスターYからの応答はなかった。出演料を受け取るため、ミスターYを捜しに行くことにした。
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【ミスターYの足取り】マレーシア警察によると、ミスターYはフォンが空港で正男氏に液体を塗るのを見届けた直後、他の北朝鮮工作員とともに、飛行機で出国していた。クアラルンプールから空路でインドネシア、ウラジオストクなどを経由して、事件から4日後には北朝鮮の平壌に帰国したという。警察は国際刑事警察機構(インターポール)を通じてミスターYらを国際手配したが、北朝鮮当局は身柄の引き渡しに応じていない。
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