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<金正男暗殺を追う>「黄色い液体」グリグリ、最後にかけた言葉
金正男(キム・ジョンナム)氏に毒を塗ったとされるベトナム人のドアン・ティ・フォンさん(31)は、事件直前に北朝鮮の男「ミスターY」から謎の液体を渡された。ベタベタとした、黄色い液体で、異臭を放っていた。それを素手で扱ったフォンさんは生き延びたが、顔に塗られた正男氏は息絶えた。国際社会を騒然とさせた事件、取材を続ける中で「その時」の様子が明らかになった。(朝日新聞国際報道部記者・乗京真知)
2017年2月13日朝のクアラルンプール国際空港。フォンの供述調書によると、「いたずら番組」のいたずら役として雇われていたフォンは、カメラマン役のミスターYとともに、いたずら相手の俳優が現れるのを、出発ホールで待っていた。
20分ほど待つと、俳優が現れた。大柄で髪が薄く、黒いバッグを持ってジャケットを羽織っていた。大股でゆっくり、自動チェックイン機に近づいてきた。俳優とは、自宅のあるマカオに帰ろうとしていた、正男氏のことだった。
フォンとミスターYは「いたずら」の最終準備に取りかかった。ミスターYはオイル状の液体が入った容器を持ち出し、フォンの手に垂らした。
液体はベタベタした触感で、黄色みがかっていた。しばらく手を眺めていると、ミスターYから「手を見るな」「(正男氏の)動きに集中しろ」と注意されたという。
いよいよ正男氏が自動チェックイン機の前に来たとき、フォンは正男氏の背後に回り込んで、飛びかかった。両手を伸ばし、正男氏の顔に液体を塗りつけた。
その時の様子について、フォンは供述調書の中で「まず彼の両目をさわった後、手のひらを顔面にこすりつけました。彼は驚いて振り返ったので、顔面全体に(液体を)塗ることはできませんでした」と振り返っている。
正男氏の顔をさわった後、フォンは「ごめんなさい」と言ってから、足早に現場から立ち去った。裾が汚れないよう、ベタついた両手を万歳するように上げながら歩いた。着ていたのは、お気に入りの長袖シャツだった。
フォンはエスカレーターを使って、下の階のトイレに向かった。セッケンで数分かけて手を洗ったが、ぬめり気と臭いが、なかなか取れなかったという。
液体が有毒だと知っていたのではないか。そう疑う捜査当局に対し、フォンの弁護人は「有毒だと知っていたら、素手で扱うわけがない」と反論している。
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【空港のトイレ】出発ホールで正男氏の顔に液体を塗ったフォンが、同じ階の最寄りのトイレに行かず、あえて階下のトイレを選んだのは、事前にミスターYから、指示を受けていたからだった。フォンの供述によると、事件前にミスターYは「手洗いのためにトイレに行くのであれば、俳優(正男氏)のそばのトイレは使うな。いたずら役といたずら相手が同じトイレに向かっていくのは不自然に写る」と指示していたという。
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