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ホッピー、「古くて新しい飲み物」で再注目 実は東京のご当地飲料
ホッピー。その名を聞いて、「東京の下町の大衆酒場に欠かせない、オジサンの飲み物」と思う人も多いのではないでしょうか。ところが、今や若者や女性が飲む姿も珍しくなく、オシャレなバーで提供されることもあります。出荷の8割超が首都圏をしめ、まさに東京のご当地飲料と言えるホッピー。昔ながらのイメージを大切にしつつ、新たな価値をプラスする魅力を探りました。
昼のみの聖地、東京・浅草の「ホッピー通り」。まだ日が明るいにもかかわらず、通りの両脇にずらりと並ぶ居酒屋は客でいっぱい。店内を見渡すと、若者や外国人の客が目立ちます。ホッピー片手に乾杯していた25歳の女性は「見た目はビール。でも、味はすっきりしていて飲みやすい」と言います。
実は、ホッピーそのものは酒ではありません。アルコール度数は0.8%。法律上は清涼飲料水です。ただ通常は、焼酎にホッピーを注いで飲みます。焼酎をホッピーで割った飲み物もホッピーと呼ばれるため、「酒」とも言えます。
秘密結社が使うような独自な用語があるのも面白いところ。「ナカ」「ソト」。初めて聞いた人はまったく意味がわかりません。おかわりしたい時、客が店員に伝える言葉です。「ナカ」は焼酎、「ソト」はホッピーを指します。
「自分流の飲み方を楽しめるのが、ホッピーの魅力です」。ホッピーの製造・販売を手がける「ホッピービバレッジ」(東京都港区)の石渡美奈社長(51)は言います。同社は、焼酎とホッピーを1対5で割ることが勧めていますが、飲む人が好みや体調に合わせて、思い思いの比率で割って楽しむことができます。梅酒やジンといった別の酒と割ってもおいしいです。
石渡社長は「ホッピーはキャラクター性が強く、初めて飲んだ時のことを覚えていてくれる人が多い」と語ります。確かに、僕も初めて飲んだ場面を覚えています。
地方出身の僕はホッピーの存在自体、社会人になるまで、まったく知りませんでした。東京勤務となり、会社の先輩が飲んでいるのを見て、「なんだ、その不思議な飲みものは?」と思って、注文しました。
ホッピーの造り方はビールと同様、麦芽とホップでできた麦汁に酵母を加え、発酵させます。麦汁濃度、酵母、発酵時間は秘伝のノウハウです。カナダ産の二条大麦など原料にもこだわっています。出荷の8割超が首都圏をしめ、まさに東京のご当地飲料と言えます。
その歴史をたどると、戦後の復興の中で生まれ、人々に親しまれてきたことがわかります。世に出たのは、戦後まもない1948年。闇市で粗悪な酒が出回っているころでした。石渡社長の祖父が東京で開発し、販売を始めました。
「本物のホップを使ったノンビア」という意味を込め、「ホッピー」に。安く早く酔える、ビールの代用品として人気となり、敗戦後の東京の人々の心を潤しました。
ところが、石渡社長が入社した97年、ホッピーの売上はチューハイにおされ低迷していました。発泡酒も登場し、ビールの代用品としての価格優位性も揺らいでいました。
石渡社長が2003年に副社長に就任すると、「低カロリー・低糖質・プリン体ゼロ」とアピール。また昭和レトロブームの中で、若者に「古くて新しい飲み物」としても注目されました。
人気は復活。かつてビールの代用品だったホッピーは、代わりのきかないオンリーワンの飲み物として独自のポジションを確立します。同社の売上高は16年度に40億円を初めて超えました。石渡社長は「昔ながらのファンを大切にしつつ、ホッピーを知らない人にも魅力を伝えたい」と言います。
石渡社長に「お勧めのホッピーが飲めるお店は?」と尋ねると、東京・銀座のバー「嘉茂(かも)」の名があがりました。
氷が入ったジョッキを出す店が多い中で、嘉茂ではホッピー、焼酎、ジョッキの三つを冷やした「三冷(さんれい)」にこだわります。専用の冷凍庫でジョッキをキンキンに冷やし、キンミヤ焼酎を凍らせてシャーベット状にした「シャリキン」を注ぎ、プレミアムホッピーをまるごと1本流し込みます。十分に冷たいので氷は必要なく、味が薄まる心配がありません。
「ホッピーは、どんな料理にもあいます」とマスター。多い日には100杯以上の注文が入るそうで、ホッピーを使ったカクテルも提供しています。
冷え冷えのホッピーを、ごくり。まさに至福の一杯です。
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