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2019年05月31日

「普通の人」の人生聞いてみた 女優あきらめ見つけた「普通の人役」


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「普通の人」役のエキストラに居場所を見つけたという須田美貴さん=山本哲也撮影

「普通の人」役のエキストラに居場所を見つけたという須田美貴さん=山本哲也撮影

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かつてテレビや映画に出るような有名人に憧れていた人も、多くは「普通」に働き家族と暮らしている。女優志望で芸能事務所に入るも、厳しい現実を目の当たりにした女性は、「普通の人」役のエキストラという居場所を見つけた。「いくら頑張っても自分ではどうしようもないこと」に向き合う中で見つけた自分の道。今は本業の社労士として、たくさんの「普通の人」の悩みに答える日々を送っている。(ノンフィクションライター・菅野久美子)

【動画】「普通の人の人生聞いてみた」須田美貴さんインタビュー=山本哲也撮影

新聞の広告欄にあった「タレント募集!」に電話

「とにかくテレビに出るような有名人になりたかった。親や教師を見返したかった。でも、私が一番ハマったのは実は、『普通の人』だったんですよ」

現在社労士として働く、須田美貴さん(44歳)は、京都に生まれ。動物が好きで小学校は飼育委員になった。獣医学部を受けたが、受験に失敗。初めての挫折を経験した。仕方なく一浪して、東京理科大の生物工学科に進学した。いわばリケジョの走りだ。

昔から、優等生だった。スポーツは嫌いで、図書室で本を読んでいるのが好きなインドアな性格。親や教師からその性格を心配された。だから、有名になれば、きっと見返せると思った。

有名になるのはテレビに出るしかない。ずっとそう思っていた。大学2年の時に、新聞の広告欄にあった『タレント募集!』に電話した。

「とにかくテレビに出るような有名人になりたかった」=山本哲也撮影

「とにかくテレビに出るような有名人になりたかった」=山本哲也撮影

「女優さん、同じ生き物とは思えないほど、全く違った」

所属したタレント事務所では、声優講座のレッスンやウォーキングの練習に明け暮れた。しかし、CMのオーディションを受けてもことごとく落ちるし、通行人などのエキストラの仕事しかこない。

タレント事務所に入って一か月が経つと、テレビに出ている俳優や女優は、全く別の生き物だと、はたと気がついた。

「エキストラとして撮影現場で女優さんを至近距離で見ていると、顔もちっちゃいしスタイルも、同じ生き物とは思えないほど、全く違ったんです。それで、私は女優にはなれないんだなと感じた。今思うと、もっと早く気づけって感じですね。それでドラマの主役とか、有名になりたいという気持ちは徐々に萎んだのですが、何か私の出番ってないかなと思うようになったんです」

エキストラの仕事を引き受けるようになって、映像作品の見方が変わった。主役ではなく、風景としての人の役の演技が気になるようになったのだ。

もらえる報酬は一回3000円~5000円で交通費程度。拘束時間は、30分もあれば、8時間に及ぶものもあり、様々だ。

CMのオーディションには落ち、通行人などのエキストラの仕事しかこなかった=山本哲也撮影

CMのオーディションには落ち、通行人などのエキストラの仕事しかこなかった=山本哲也撮影

死体といっても、主役級ではなく脇役の死体

須田さんは、映画やテレビドラマの通行人役や、死体役などを積極的に引き受けた。死体といっても、エキストラが演じるのは主役級ではなく、脇役の死体だ。

「私が演じるのは、大量殺人鬼が殺した、その他大勢の一人です。『そこに死んでる人たちがいる!』って俳優に指を指されて、横たわる死体の一つ(笑)。死体の演技っていっても、血のりをべっとりと全身につけられて、息を止めて寝ているだけです。主役級の死体は色々と手厚いですけど、エキストラの死体なんて本当にひどいもので、血のりを洋服につけられてもクリーニング代も出ない。自分で顔の血のりを拭き取って、そのシーンの撮影が終わると、『あっちに駅あるから帰って』とADに冷たく言われるんです」

「自分で顔の血のりを拭き取って、そのシーンの撮影が終わると、『あっちに駅あるから帰って』とADに冷たく言われるんです」=山本哲也撮影

「自分で顔の血のりを拭き取って、そのシーンの撮影が終わると、『あっちに駅あるから帰って』とADに冷たく言われるんです」=山本哲也撮影

自分の立ち位置がわかったら面白くなった

エキストラの仕事をこなすうちに、ルックスも普通だし、自分は、「普通の人」というカテゴリなんだと認識するようになった。

「現場で私が求められているのは、その他大勢の背景とか、普通の人の枠なんだなと思うようになったんです」

そのうち、テレビのバラエティ専門の事務所から「普通の人」の枠で、声がかかるようになる。一か月同じ食べ物を食べ続ける被験者や、肩こりを直す最新の体操に、一般人として参加するのだ。

有名なお笑い芸人と一緒に一般人として畑仕事をして、バラエティ番組にも出演を果たした。

「一応、事前にプロデューサーの面接があるんですが、『家庭菜園やってますか?』と聞かれたから『やってまーす。でも全然育ちませーん』と適当に答えたら、一発で合格しました。他の面接に来ていた子はレースクイーンとか、いわゆる業界で成り上がりたい子だったからだと思う。私が通ったのは、すごく普通っぽかったからなんでしょうね。自分の立ち位置が分かるようになったら、エキストラも面白くなってきたんです。ドラマの背景で、声を出さないで、楽しそう盛り上がってるカップル役っているじゃないですか。あれの演技って意外に難しいんですよ。エキストラだけで生活している人もいて、そういう人たちは、目立たない演技をする職人なんです。すごいなと思うようなりました」

「声を出さないで、楽しそう盛り上がってるカップル役っているじゃないですか。あれの演技って意外に難しいんですよ」=山本哲也撮影

「声を出さないで、楽しそう盛り上がってるカップル役っているじゃないですか。あれの演技って意外に難しいんですよ」=山本哲也撮影

騎手になりたくて

思えばいつも体形や容姿という「いくら頑張っても自分ではどうしようもないこと」で人生を挫折することが度々あった。

大学時代は動物好きが高じて、乗馬に没頭した。地方大会で優勝したことから、騎手になりたいという夢を抱いて大学卒業後、大分の中津競馬場を訪ねた。騎手になるには、45キロまで落とさなくてはダメだと言われた。ただでさえ背が高く、骨格がガッチリした体形なので、限界がある。

「45キロって、私の小学校時代の体重だったんです。どんなに努力しても45キロになるのは無理だった。骨と皮みたいにガリガリにならなきゃいけない。どう考えても騎手体型ではなかった。泣く泣く諦めました」

挫折感は大きかった。大学卒業後は、学生時代からバイトで続けていた予備校に塾講師として正社員で就職。この間も仕事の合間にエキストラもこなした。

しかし、押し寄せる少子化の波に危機感を覚え、仕事と並行して資格学校に通い、社労士の資格を32歳の時に、取得。34歳の時に独立した。

大学時代の夢は「旗手」だったという ※画像はイメージです

大学時代の夢は「旗手」だったという ※画像はイメージです

出典:https://pixta.jp/

0歳児保育と世間の軋轢

34歳のときに、仕事で知り合った男性と結婚し、男児を出産。出産ギリギリまで育休は取らずに、働き続けた。働くのが何よりの生きがいだった。そのため産後、家にいたらノイローゼになって発狂しそうになった。

「これまでずっと働き続けてたから、専業主婦とか家にいたことが一度もないんです。それで、産休で二週間休んだら、何をしたらいいのかわからなくなって、猛烈な鬱状態になった。働かないと鬱になって死んでしまうタイプなんだと思いました。ようやく外に出れると思うと、ホッとしたんです」

慌てて保健師に相談すると、あなたの場合は、すぐに職場復帰したほうが良いとアドバイスを受けた。そこで息子を認証保育園に生後2か月で預けて職場復帰を果たす。

0歳児の息子を保育園に預けて、職場を往復する毎日が続いた。ある日、いつものように息子を抱っこして会社から帰る道すがら、電車の中で年配の女性に声を掛けられた。

『あら?2人でお出かけ?』
『いや、保育園の帰りです』
『かわいそうね、こんなちっちゃなうちから電車に乗せるなんて』

蔑んだ目で見られた。悔しかった。

「その時は面倒くさいなと思って何も言わなかったけど、同じ思いをしているお母さんは多いんだろうなと思いました。自分がやった子育てが一番で、正しいと思ってるんでしょうね。子どもを抱っこして電車に乗ると、おせっかいなことを言うおばちゃんって結構いて、傷つく女性も多いと思います」

出産ギリギリまで育休は取らずに、働き続けた。働くのが何よりの生きがいだった ※画像はイメージです

出産ギリギリまで育休は取らずに、働き続けた。働くのが何よりの生きがいだった ※画像はイメージです

出典:https://pixta.jp/

女性たちの力になれないかと、yahoo知恵袋で答える日々

生後2か月から保育園に預けてかわいそう、一人っ子でかわいそう……。ことあるごとに周囲から投げかけられる言葉に、ストレスを抱えた。ネットを見ると、自分と同じ悩みを持つ働く女性たちの声が溢れていた。そこで、女性たちの力になれないかと、yahoo知恵袋で答える日々が続いた。

「保育園にいけば、5歳や6歳のお兄ちゃんたちもいるし、保育園だと息子は大家族の末っ子のような感じなんです。同級生もいて、大家族の一員みたいになるんですよ。発想の転換だと思うんです。そう書いたら、安心しましたという声が返信があって嬉しかっですね。私と二人でずっと家にいるよりも、保育園にいたほうが、コミニュケーション能力がついた気がするんですよね。息子は昔の私よりもよっぽど世渡り上手なんですよ」

幸せってなんだろう

大学時代、家庭教師のバイトをして、多くの家庭を見てきた。派遣先は、億ションに住み、小学校から大学までストレートで進学できる裕福な家庭が多かった。漠然と幸せそうじゃないと感じていた。

「例え名門の学校に行っても、上には上があるので、本人もコンプレックスを持ってるんです。本人はお母さんが望む小学校に入れなかったと後悔しているケースが多い。親も受かってよかったねと喜べばいいのに、第一志望を落ちたと6歳から言われて、楽しくないだろうなと思いました」

お金があっても幸せとは限らない。友達がいて、料理を作れる、この二つさえあれば社会を生きていける。勉強は最低限でいい――。それが、須田さんの教育方針だ。

現在、一人息子は小学生4年生。伸び伸びとしたたくましい性格となった。親の背中を見て育ったせいか、なんとエキストラとして映画やドラマに出演し、大人たちとも対等に渡り合う。少額ながらも出演料が発生するため、「小学生なのに、いっちょ前に稼いでいる」と須田さんは笑う。

お金があっても幸せとは限らない。友達がいて、料理を作れる、この二つさえあれば社会を生きていける=山本哲也撮影

お金があっても幸せとは限らない。友達がいて、料理を作れる、この二つさえあれば社会を生きていける=山本哲也撮影

労働者側の社労士として


須田さんは、現在は社労士として、独立して日々労働者側の相談に乗っている。そこで見えてきたのは、自分と同じ「いい子」だったタイプが社会の狭間で苦悩しているということだ。

解雇や料金不払いなどの相談もあるが、最も多いのは人生相談だ。かつての優等生だった自分が相談者に重なることも多い。

「相談者の方の親は団塊の世代で、結婚だったり正社員だったり、カッチリとした正しい道筋を求めてくる。でも人生はそううまくいかないことも多い。世間的な常識に乗り切れずに狭間で苦しんでいる人って多いんです。それが労働相談にも現れる。相談者の方は、聡明な方が多くて、マナーもしっかりしているんですよ。だからなおさら、世間とのギャップに悩んで、うまく社会で生きれずに苦しいんです。あなたはあなたのままでいいよと言うと、パッと晴れやかな顔になって帰っていかれます」

ドラマのエキストラの仕事は、今も仕事の合間に続けている。現在、社労士としてテレビでコメントを求められることも多くなった。その場で、即座に相手が求めるものがわかるのは、エキストラの経験が大きい。有名にはなれなかったが、エキストラの経験は、回り巡って今も役立っている。かつて有名になりたかった優等生の少女は、唯一無二の『普通の人』として、今この社会に居場所を見つけたのだ。

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