話題
「10連休」生きづらさを感じるあなたへ……「私のトリセツ」を持とう
今日から令和です。街中には「10連休」を楽しむ人たち……。そんな雰囲気に「なんだか浮かれられない」「ムードに乗れない」、そんな気持ちの人たちもいることでしょう。トランスジェンダーで、自身も過去に衝動的な行動をしたこともあるモカさん(33)は、この3年ほどで600人以上の悩みに向き合ってきました。「10連休が生きづらい人」に向けて「自分の取り扱い説明書を前もって言っておいて」と語ります。(朝日新聞記者・高野真吾)
〈令和に浮かれられない、私大2年生 伊藤弘さん(19、仮名)〉(モカさんに寄せられた複数の相談者の事例を組み合わせています)
神奈川県で私立大学に通う伊藤さんは4月中旬から、元気がありません。1年生の時は張り切って大学に通っていたのですが、2年生の4月からは遅刻か欠席ばかり。ついに4月下旬から平日5日間連続で通えなくなり、この10連休に突入しました。
大学に通えないどころか、部屋からも出られなくなってきました。LINEで友達から「映画に行こう」「遊ばない」と誘われるのですが、ずっと実家の自室のベッドでゴロゴロしています。
思えば高校生の時にも、無気力になる時期がありました。その時は学校を数日欠席すると復活できたのですが、今回ばかりは重症のようです。
「このまま、引きこもりになったらどうしよう」。内心では焦るのですが、体は言うことを聞きません。両親も心配し始めています。
伊藤さんは、ちょっと前の私ですね。私もこの2、3月は、全くの無気力状態でした。これまでも、引きこもり気味の時はありました。家に閉じこもり、ひたすらゲームをしたり、アニメを見たりしていた時期のことです。
ですが、この2、3月はもっときつかった。ゲームやアニメに接する気にすらならなかった。何をしていたかって? ひたすら寝ていました。
おなかは空くから、起きられる時にはコンビニに行って、食料を買いだめました。日常やるべきことも放棄です。部屋の片付けもしないし、お風呂にも入らないで過ごしました。気力が湧かず、体を動かせないから仕方ありません。
私は普段は都内で1人暮らしをしています。経済的にも自立できているから、自由な生活は性に合っています。ですが、徐々に食べることすら面倒になってきた時、実家に戻りました。最低限の栄養を取らないと、まずいじゃないですか。餓死したくないです。
自分の経験から、相談者の伊藤さんにアドバイスします。
もう、動けない時は休むしかないのです。
私は仕事や他にやっている活動からも、逃げに逃げまくり、休みに休みまくりました。
すると、2カ月過ぎたことから、自然と気力が湧いてきました。
4月に入ると、「色々やろう!」と思えてきた。たまっていた仕事を片付けるべく、社員に指示を出す。色々なメディアから、出したばかりの書籍に関するインタビューを受ける。お悩み相談も復活させます。
私は悩んでいる人たちが交流し、私にも相談できる「みんなと会う会」を開いています。4月はどうしてもきつくて休んでしまったのですが、今度の5月5日は開催しますよ。
伊藤さんも、今は休んでいい時期なのかもしれません。休む時に休まないと、ぷっつっと切れてしまいます。しんどくなって、私が過去にしたように衝動的な行動をしてしまうかもしれません。
「仕事を頑張り過ぎたからじゃないか」「悩み相談を張り切って受けすぎたからじゃないか」。私が無気力になった原因を、他の人は色々と推測します。
ところが、そうした推測に反し、原因は別にないことが多いのです。
たまたま、そういうメンタルの沈む波がきて、しんどくなった。だから、休むしかなくなったのです。
もしかしたら、伊藤さんも私と同じようなメンタルのタイプなのかもしれない。だったら、堂々と休みましょう。
さらに一つ伊藤さんにアドバイスしておきます。それは「自分の取り扱い説明書は、前もって周囲に言っておくと、トラブルが少なくなりますよ」ということです。
伊藤さんは今回、本格的な無気力状態が初めてのようです。事前に察知できず、とまどっていることでしょう。
ところが、何回か似たようなことや沈んだことがあると、予兆を感じることができます。
私の場合だと今年の1月ごろに、「何かメンタルおかしいかも」「無気力が来るな」と感じました。社員たちに連絡し、「これから仕事をできなくなりそう」と明かしました。最低限、社長として判断するべきこと、道筋をつけておくべきことだけは、何とかこなしました。
社員も、精神面で上がり下がりのある社長だと分かっています。前々から言っているから。すんなり受け入れて、復活を待ってくれました。
皆さんも「自分の取扱説明書」を周知することを恥ずかしがらないで下さい。それを受け入れてくれない集団や組織に居ても意味がない。だったら、元号が変わったこのタイミングで、新たな居場所を探しに行った方がいいですよ。
◇
モカ、1986年3月、東京生まれの元男性。トランスジェンダーとして、東京・新宿2丁目などで複数の飲食店などを経営する。29歳の時、マンション屋上から飛び降りる自殺未遂から奇跡的に生還。現在は、電話や対面で生きづらい人やLGBT当事者の人生相談に乗る活動を続けている。自身の半生を題材に描き下ろした漫画を含む書籍『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』(光文社新書)を4月に発売。
1/5枚