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74歳画家、カメラより精巧に描く理由 ボックスアート達人のこだわり
東京都交通局が作成した特殊車両のポスターについて取材しました。
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東京都交通局が作成した特殊車両のポスターについて取材しました。
東京都交通局が作成した特殊車両のポスター。一見すると写真のように見えますが、実は手描きのイラストです。作者はプラモデルのボックスアート界の第一人者・大西將美さん(74)。「写真でもCGでもなく『イラストで』と依頼された意味を考えました」と話す大西さんに聞きました。
都営地下鉄の駅などに掲出されている「PROJECT TOEI」のポスター。都営交通の取り組みを発信する企画の一環です。
3月18日から貼り出されているのが、第22弾を表す「022」とナンバリングされた3枚のポスター。
描かれているのは、いずれも主に夜中に運行している特殊車両です。
レールの頭部を高速で回転する砥石で削る「レール削正車」。
大江戸線の車両を牽引するための「電気機関車 E5000形」。
電気を供給する架線の点検を行う「電気検測車」。
詳細に描かれたこれらの車両。パッと見ただけでは写真だと思ってしまいそうです。
これらの車両を描いたのは、画家の大西將美さん。
タミヤに入社後、社内初のイラストレーターとして活躍。独立した現在も、数多くのボックスアートを手がけています。
白い背景に戦車や飛行機などの精密なイラストを描いた「ホワイトパッケージ」などを手がけ、ミリタリージャンルだけでなく、大ヒットしたミニ四駆「エンペラー」(初代)のパッケージなども担当しました。
そんな大西さんに特殊車両のイラストを依頼した理由について、東京都交通局の担当者はこう説明します。
「実際にプラモデルのイラストレーションやテクニカルイラストを多数描かれている方で、かつ、今でも手描きで描いているイラストレーター、という条件で大西さんに行き着きました」
普段目にすることがない「はたらく車両」を、いろいろな年代の人に興味を持って見てもらいたい。
そのために、あえて写真ではなく、精緻なイラストによって対象をより象徴的に見せることができるイラストを選んだそうです。
交通局側から機能の違いで選んだ3車両を指定してイラストを依頼。
「車両だけを描くのではなく、車両が働いているワンシーンのようなイラストで」と大西さんにお願いしたところ、実際の車両を見たり、現場職員に取材を行ったりと、綿密に取材されたそうです。
取材時のことについて、大西さんはこう振り返ります。
「実際にパンタグラフを動かしてもらうなどして写真を撮りました。描いていて『ここが困る』という場所は事前にだいたい分かるので、そこを中心に1時間ほどですね」
描くに当たって大西さんが考えたのは、こんなことでした。
「写真なら時間はかからないし、CGならもっと精細に仕上がる。イラストで依頼された意味とは? 私は何を求められているんだろうか」
大西さんが出した答えは「スマートさを出さず、いつも以上に愚直に描いて、見えないところまで見てもらう」ということでした。
写真で撮影しても影になったり、つぶれてしまったりする部分まで精巧に。
運転席の背面にあるスイッチや、車輪周辺のケーブル、パーツに書かれた文字なども再現しました。
写真のようにリアルでありながら、写真には写らない部分まで描く。そうして完成したのがこの3枚のポスターでした。
「手描きする手間ひまの大変さを感じることはありますが、地下鉄を取材をしていて、鉄道に関わる人たちが大変な手間をかけて走らせていることを感じました。それがこのポスターで伝わればうれしいです」
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