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「妻が目立つのは迷惑だ」「私は決めた」初めての選挙、母の決意
わたし、まちの議員をめざす。小学生の娘を育てる女性が、そう決意した。地盤も、地区の推薦も、十分なお金もない。この春、初めての選挙へ走り出した。「妻が目立つのは迷惑だ」という夫を「私は決めたので」と説得。節約して準備した資金は20万円。朝晩の「辻立ち」はできない。長野県内では4月14日と16日、補選を含め計35の市町村議選が告示される。子育てをしながら議員をめざす、ある女性の挑戦を追った。(朝日新聞長野総局記者・大野択生)
議会や政治なんて、自分以外の誰かがすることだと思っていた。でも日々のくらしの中で「もやっ」とすることはたくさんあった。
春になると増える工事現場。工事業者に聞くと、予算の使い切りで、年度末は仕事が多いらしい。10年ほど前から、子育て中の親を支援する市民活動を続けてきたけど、ボランティアの範囲でできることには限界を感じていた。
「行政がやってくれたら助かるのに」。活動の仲間からも声が漏れた。「本当に必要なところに行政の手が届いているの?」。疑問が募った。
地元の議会にも足を運んだ。地域に子どもが少なくなったので保育園を統廃合するという、意外と身近な問題が話し合われていた。
一方、議員の多くは高齢の男性。議会でのやりとりを聞いても、子どもを育てながら働く住民の視点は欠けているように感じた。
自分自身もいつしか、「政治は男性のもの」と思い込んでいた。陳情や署名で意見を伝えるだけではきっと変わらない。わたしが議員になって、子育て真っ最中の親の視点を生かしたい。市民活動の仲間にも背中を押され、昨年の夏ごろから、そんな風に思うようになった。
夫は「妻が目立つのは迷惑だ」と反対した。最後は、「私は決めたので、よろしくお願いします」と自分の本気を手紙に書いて伝え、押し切った。今年の3月半ば、7年間続けた仕事を退職。同僚たちは似顔絵をプレゼントして、挑戦を応援してくれた。
選挙に出ようと決めて、真っ先に心配したのはお金のことだ。市民活動を通じて知り合った議員の経験者に聞いてみると「100万円は必要」と言う。
そんな金額、簡単に用意できない――。調べると、条件をクリアすれば、選挙ポスターやビラ、選挙カーなどの費用は、自治体が負担する仕組みがあることがわかった。
これに加えて、活動資金は20万円。なんとか節約し、この範囲内でおさめようと決めた。これからも女性がどんどん選挙に出ていくために、まずは自分が「お金をかけなくても選挙ができる」と証明するんだ。
一式そろえると十数万円かかる看板は、無理かな……。でも、元議員の知り合いが、むかし使っていたものをぜんぶ譲ってくれると申し出てくれ、書き換えの費用など数万円ですんだ。
選挙に向けては、一緒に市民活動をやってきた20人ほどのママたちが、ボランティアを快諾してくれた。
選挙のやり方をいろいろと指南してくれる議員や知り合いもいる。ずぶの素人を心配してくれていると思うとありがたい。でも正直、「今までのやり方」はとうていできない。
たとえば朝晩、駅や街頭に立って政策を訴え、名前と顔を覚えてもらう「辻立ち」。選挙中も、毎朝早起きして子どもを学校に行かせ、家事をこなす親としての生活は変わらない。「辻立ち」を連日連夜続けるなんて、時間的にも体力的にもむずかしい。
「甘い」と言われるのはわかっている。でも、子育て中の親の声を政治に届けようと選挙に出るわたしが、今まで通りの選挙戦をしても次につながらないんじゃないか。今までの「常識」の戦い方ではなく、自分のようなママたちができる選挙戦を模索しようと決めた。
選挙活動の拠点になる事務所スペースを、知人のつてで借りた。まずつくったのは、子どもたちが遊べるキッズスペース。カーペットを敷き、おもちゃや絵本を用意した。
手伝ってくれるママたちは仕事や育児を抱えていて、ほぼ日替わり状態だ。それでも仕事の合間に数十分でも寄ってくれるメンバーもいる。
抱っこひもで赤ちゃんを抱えたり、子どもをキッズスペースで遊ばせたりしながら、4千枚の後援会案内チラシを折った。みずから地域をまわるほか、ママ友のつながりで配ってもらい、口コミで支援の輪を広げていく作戦だ。
「今まで選挙に興味がなかった。でも、あなたが出るなら応援したい」。そう言ってもらえると勇気が出た。一方で「自分の子どもをほったらかしにしている」と人づてに陰口も聞こえてきた。
3月末、事務所を大勢の人におひろめする「事務所開き」の日がやってきた。集まったのは、これまでの活動で知りあった人たちと、その子どもたち、合わせて20人ほど。あいさつを始めると、男の子が泣き出した。女の子は「ママ、お外へ行っていい?」。緊張感が、一気にゆるんだ。
選挙っぽくない光景かもしれない。でも、これが私たちの日常だ。元気よく、みんなに呼びかけた。
「子どもを育てる私たちに何ができるだろうって思うこともあるけど、生活している私たちが政治に興味をもつことがいちばん大事なので、こんな感じでやらせていただきます。みんながこの街に暮らしてよかった、暮らし続けたいなと思うことをやっていきたいです」
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