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方言コスプレ、新方言、ネオ方言… 平成になって復権した理由とは?
インターネットが発達し、SNSが全盛となったこんにち、なぜか方言を気軽に使う若い人が増えてきました。
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インターネットが発達し、SNSが全盛となったこんにち、なぜか方言を気軽に使う若い人が増えてきました。
【ことばをフカボリ:23】
平成がまもなく終わろうとするなか、「平成時代のことば」を振り返るシリーズの2回目は「平成の方言」。インターネットが発達し、SNSが全盛となったこんにち、なぜか方言を気軽に使う若い人が増えてきました。その背景を探りました。(朝日新聞校閲センター・田島恵介/ことばマガジン)
何かを人に頼む際に「どうかおねげえしますだ」、ツッコミを入れるときは「なんでやねん」、豪快な印象を与えたいときには「ごちそうさまでごわす」、きっぱり言い切りたいときには「行くぜよ」、事を荒立てたくない場合には「あんさん、いけずやわ」……。
近ごろ若い世代を中心に、生まれ育った地とは関係なく、いかにも方言らしい表現、すなわち「ニセ方言」を用いて場面に応じたキャラクターを演じ分ける様子がしばしば見られます。田中ゆかり・日本大教授はこうした方言の使われ方を「方言コスプレ」と呼んでいます。
方言は「標準的でない」として、教育現場では標準語に直すべきものとされた時期もありました。また1970年代ごろまでは、「かっこわるいもの」「恥ずかしいもの」と見られることがありました。
ところが、昭和後期から平成にかけて、次第に「面白い」「かわいい」表現とも見なされるようになりました。方言コスプレは、そんな風潮の中で生まれました。
さらにSNSの発達などによって、文字を使ったコミュニケーションを図る機会が増えた結果、「正しい」アクセントやイントネーションを気にすることなく気軽に「自己装い表現」を用いることが可能になったのだ、と田中さんは分析します。
コスプレではなく実際に、地方の方言が首都圏へと流れ込んで使われるようになった現象も目立ちます。
例えば、「行くべ」などの「べ」は、もともと東北や北関東近辺、千葉などで使われていましたが、最近は東京都区内や横浜出身の若者でも使うことがあります。
今は全国区で、主に若い層が使っている「~みたく」や「うざったい(うざい)」、「~じゃん」や「ちがかった(違かった)」なども、元来は地方の方言でした。井上史雄・東京外国語大名誉教授は、これらを「新方言」と名づけました。
共通語の影響のもとで生まれた新しい方言の形も広まっています。真田信治・大阪大名誉教授が提唱した「ネオ方言」です。
典型例として、「来ない」を意味する関西中部方言の「こーへん」があります。これは、共通語「こない」の影響を受けて、関西方言「けーへん/きーへん(きーひん、とも)」が変化した形だとされます。
関西で伝統的に使われてきた「あきまへんがな」が消えて「あかんやないか」という表現が生じたのも、共通語「だめじゃないか」の影響を受けたものとされます。「あかんやないか」はさらに、「あかんやんか」「あかんやん」という変種を生んでさえいます。
方言は、マスメディアの発達などによって地方では衰退したといわれます。確かにそのような傾向も見受けられますが、近年は都心も含めて比較的若い世代の間で「復権」を果たし、形を変えて生き延び、新たなコミュニケーションツールとして機能しているともいえます。
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