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「セクハラ」「就活」… 平成になって広まった略語、世相を示す表現
「平成時代のことば」を振り返ってみました。
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「平成時代のことば」を振り返ってみました。
【ことばをフカボリ:22】
平成がまもなく終わろうとしています。この30年ほどの間に、さまざまな新たなことばが生まれ、従来のことばも表現の仕方や使われ方が変化してきました。新しい時代に入る前に、「平成時代のことば」を振り返ってみましょう。まずは、新語や略語について見ていきます。(朝日新聞校閲センター・田島恵介/ことばマガジン)
「オヤジギャル」「老人力」「倍返し」……。平成の時代、さまざまな新語が現れては消えていきましたが、すっかり定着し、さらに新たな表現まで派生したものもあります。
例えば「セクシャル(セクシュアル)・ハラスメント」。これが「新語・流行語大賞」の新語部門で金賞に選ばれたのは、1989(平成元)年のことです。80年代初めには一部でしか知られていませんでしたが、平成に入ってから一気に広まり、「セクハラ」という略語も同時期に生まれて使われるようになりました。
その後、「セクハラ」という略し方にもとづいて、いろんな方面での「嫌がらせ」を示す「パワハラ(パワーハラスメント)」や「アルハラ(アルコールハラスメント)」、「マタハラ(マタニティーハラスメント)」や「スメハラ(スメルハラスメント)」などの語がつくられていきました。
背景には、平成に入ってネットが急速に普及して、弱者・被害者とされた人たちが声を上げる機会が増えたり、互いに情報を共有しやすくなったりしたことなどがあるのではないでしょうか。
「セクハラ」のように、略語が一般に浸透・定着すると、応用的に新しい複合語を増やしていくことがあり、そのような例は「○○ハラ」のほかにも見られました。
例えば、90年代後半、すなわち平成の初期から目立つようになった「就活」(就職活動)。その「活」という要素をもとに、「婚活」「終活」などのことばがつくられました。
これらの「活」は、「活動」の略語というよりもむしろ、「活」の1字だけで別の略語と結びついて、新たな複合語をつくる独立した要素になっています。漢字は1字だけでも意味をくみ取ることが容易なため、その傾向に拍車がかかったと考えられます。
なぜ略語の「就活」は、平成の世に広まったのでしょうか。
平成の大半は、バブル崩壊・世界金融危機後の「失われた20年」に当たり、「就職氷河期」でした。この時期の若者たちは、厳しい就職活動に明け暮れることを余儀なくされ、話題にする機会が増えた結果、「就活」の語が自然に受け入れられていったと思われます。
ことばというものは、使われる頻度が高くなると、略語が生まれやすくなるという傾向があります。
その「就活」が、平成末期の売り手市場となった最近でも盛んに使われているのをみると、ことばの不思議さや面白さを感じます。
国語辞典編纂(へんさん)者の飯間浩明さんは、「家族割(わり)」「早割(はやわり)」などのように、「割」の1字が独立した要素として「割引」を意味するようになった時期も、平成の日本経済の低迷期に重なるとみています。
「就活」や「~割」などは、平成の不景気な時代が生み出した、世相を示す表現だと解釈できるでしょう。
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