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IT・科学

さんからの取材リクエスト

何千万年前に絶滅した恐竜を見たことがないのに、どうやってその姿を描けるの?



見たことない恐竜どう描く? まず始めることは…復元画家に聞いてみた

国立科学博物館などで開催された「大恐竜展~知られざる南半球」で描かれたマプサウルス(c)Akio Itou
国立科学博物館などで開催された「大恐竜展~知られざる南半球」で描かれたマプサウルス(c)Akio Itou

目次

 恐竜の展示会にいくと、何千万年も前に絶滅したはずの恐竜たちをまるで見てきたかのように描いたポスターを見かけます。恐竜はどうやって描くのでしょうか。数々の恐竜の復元画を手がけてきたイラストレーターに聞きました。

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「復元画は、ファンタジーではありません」

 話を伺ったのは、東京工科大の伊藤丙雄教授。強面ですが、物腰軟らかな先生です。これまで恐竜展や小学館の図鑑NEOで描いてきました。

東京工科大の伊藤丙雄教授
東京工科大の伊藤丙雄教授

--恐竜を実際に見たことはないですよね?どうやって描いているんですか?

 恐竜の復元画は、ファンタジーではありません、科学的根拠に基づいています。恐竜が生きていた周りの環境も含めて、化石から分かっているものしか描けません。私たちは、研究者が描くイメージを代弁しているんです。国立科学博物館名誉研究員である冨田幸光先生は「研究者は描けなくても、描かれたモノが正しいかどうかは分かる」と話しています。

ドラゴンにも応用?恐竜の描き方とは

 ――「ドラゴン&クリーチャーのファンタジー表現にも応用できる」といううたい文句の『恐竜の描き方』(誠文堂新光社)という本も出されています。恐竜を描く手順を教えてください
 
 誰も見たことのない恐竜の復元には、まずたくさんの資料を集めるところから始めます。見つかっている化石も断片的だったり、圧力がかかってぺしゃんこになっていたりします。そこから、立体的なイメージを作りだす必要があります。動物園でスケッチした動物も参考にします。粘土で3次元モデルを作りながら、鉛筆で下絵を描いていきます。

 --着色の方法は?

 一般的でないのですが、輪郭の内側を暗い色でベタ塗りしてしまいます。そこから明るい色とどんどん重ねていきます。暗闇にいた恐竜に光があたり、徐々にその輪郭がはっきりしていく……とイメージしながら、描いているのです。

 --これまでの作品で手応えを感じた恐竜は?

 恐竜を描き続けてきて、絵の具が、ただの絵の具でなくなる瞬間というのがあります。たとえば、大恐竜展のポスターに採用されたマプサウルス。
ほほの部分のウロコがまさにそうでした。このウロコ感が手応えを感じた一つですね。 

国立科学博物館などで開催された「大恐竜展~知られざる南半球」で描かれたマプサウルス©Akio Itou
国立科学博物館などで開催された「大恐竜展~知られざる南半球」で描かれたマプサウルス©Akio Itou

姿を変える復元画

 ところで、新しい化石が見つかり、恐竜の理解が進むにつれ、復元画がどんどん姿を変えているのをご存じですか?

 有名どころでは、ティラノサウルスです。20世紀初めに米国で初めて復元されたときは、ゴジラのように尾を地面に垂らしていました。しかし、いまでは、骨と骨のつながり方が見直され、重い頭と尾で前後のバランスを取りながら機敏に歩き、狩りをしていたと考えられています。

 ほかにも、映画「ジュラシックパーク3」(2001年)に登場し、「史上最大の肉食恐竜」と言われた人気恐竜スピノサウルスがいます。1912年に初めて化石が発掘されたのですが、第2次世界大戦の戦火で失われたため、長年「謎の恐竜」とされてきました。

出典: You Tube

 しかし、米シカゴ大などは2014年、モロッコで発掘された化石から全身骨格を復元しました。研究によれば、長い前脚を使った四足歩行で、水生動物の特徴である重い骨を持ち、水中に長時間潜っていたとみられます。そのような姿は、「肉食恐竜は陸上で二足歩行」というイメージを覆しました。
 
 伊藤さんが小学館の「図鑑NEO」で描いたスピノサウルスも2014年までは魚をくわえながら陸上を二足歩行する姿でしたが、2015年から浅瀬で魚を追う姿に変わりました。

2014年までの研究に基づいて伊藤丙雄さんが描いたスピノサウルス(左)と15年以降のスピノサウルス
2014年までの研究に基づいて伊藤丙雄さんが描いたスピノサウルス(左)と15年以降のスピノサウルス 出典:小学館の図鑑NEO 新版 恐竜 DVDつき

 ただし、今後もその姿がかわる可能性があります。2018年には、カナダの研究チームから「スピノサウルスが水に潜るのは難しく、泳ぐには不安定だった」という発表が出てきたからです。日本古生物学会長を務める国立科学博物館の真鍋真さんに解説をお願いしました。

 2018年8月にロイヤルティレル博物館のドナルド・ヘンダーソンらはコンピューターシュミレーションでスピノサウルスの水中適応度を検証した。その結果、大腿骨などの骨が重くなっていても、大きな体をしているので体重にはほとんど影響を与えないらしい。肺の空気をほとんど抜いたとしても、スピノサウルスが水中に潜むことはむずかしく、また左右に狭く上下に高い体では水中安定性がわるい。また、重心は腰の位置にあるのが適切であるという結果が得られたことから、たとえ前あしが長かったとしても、陸上で二足歩行する方が全体のバランスが良いらしい。ヘンダーソンは同じモデルをティラノサウルスにも当てはめてみたところ、ティラノサウルスとスピノサウルスの水中安定性はほとんど同じだった。こうしたことから、スピノサウルスを水生適応した恐竜と見なすべき理由はなさそうである。

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