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「うんこで救える命がある」大腸失った医師、スマホゲーム開発
難病になって大腸を全摘出。自分の人生を変えてくれた外科医に憧れ、偏差値30から猛勉強して夢をかなえた――。そんな漫画のようなストーリーを歩むのは、東京・秋葉原で夜間のクリニックを開く医師・石井洋介さん(38)。大腸がんの早期発見を呼びかけようと「日本うんこ学会」を立ち上げ、ゲーム「うんコレ」を開発中だ。エンターテインメントの力で「刺さる医療情報」を届けようと奮闘している。
病気の前兆があったのは中学生の頃。血便が出ていたが、恥ずかしくて誰にも言えなかった。高校に入ってすぐ、調子が悪くなって入院。まさか血便が関係しているとは思わず、さまざまな検査を経て、1カ月後にようやく難病の「潰瘍性大腸炎」だと分かった。
高校に戻っても、入学直後の入院で出遅れて友人をつくるのも難しかった。学校から足が遠のき、街をふらふらして遊んでばかりいた。
フリーターだった19歳の時、症状が一気に悪化した。下血が止まらずに命の危険もあり、大腸を全摘出。小腸をおなかに開けた穴とつなぎ、便を出す人工肛門をつけることになった。
死の淵を経験して、「せっかく助かった命。誰かの役に立つ仕事がしたい」と考えるようになった。だが、高卒で突然障害を抱え、ちゃんと仕事に就けるのか不安も募った。
「自宅でも仕事ができるかも」と祖母が買ってくれたパソコンでネットばかりしていた。同じ潰瘍性大腸炎の患者との情報交換も始めた。すると、書き込みである情報を見つけた。
「人工肛門を閉じる手術がある」
小腸を折り返して袋をつくり、そこに便をため、肛門とつなぎ合わせる手術で、当時はまだ珍しかった。横浜の病院で受けることができ、手術は成功した。
自分の人生を大きく変えてくれた外科医。「僕もこうなりたい。人を救う医師になりたい」。その一心で、医学部への挑戦を決めた。
勉強は中学生レベルで止まっていた。入院中に体重が一時32キロまで落ちて、机に向かう体力もなかった。まず始めたのは本を書き写すこと。予備校にも通い、2年ほどかけて高知大医学部に合格した。大学ではラグビー部に入ったり、高知に研修医を集めるプロジェクトをやったり。「初めての青春」を経験した。
ただ、横浜の病院に勤務し、夢の外科医となっても、ある現実に直面した。
がん患者の手術でおなかを開くと、すでに手の施しようがないほど、がんが広がっていた。何もできずにおなかを閉じる。無力だと思った。
大腸がんが進行した患者さんに話を聞くと、みんな病院に来る前に便の異常を感じていた。
「病院に来る前に医療情報を届けないと」
自分はネット上で正しい情報にたどりついて手術を受けられたが、それは幸運だったからだと分かった。
ツイッターといったSNS上でバズる(拡散される)ワードのひとつが「うんこ」という情報を目にして、2013年、日本うんこ学会を立ち上げた。「うんこ」というワードを使って、医療情報を拡散する狙いだ。
医療情報や健康に全く興味のなかった中学生の頃の自分に届けるとしたら、漫画やアニメ、ゲームにちりばめるしかない。そこで、スマホゲーム「うんコレ」の開発を思いついた。
開発中の「うんコレ」は、課金支払いの代わりに自分のうんこの状況を報告する。すると、腸内細菌を擬人化した美少女キャラを集めることができ、ボスと戦えるようになる。調子の悪い便が続くと、警告が出る仕組みだ。
「ゲームを楽しんでいるうちに、いつの間にか、うんこをしっかり観察する『観便』の習慣を身につけてほしい」
エンジニア、イラストレーター、声優といった50人以上のクリエーターがボランティアで協力してくれた。ゲームのサーバーの運営資金などをクラウドファンディングで集め、2月にリリースできるよう、審査を受けている。
厚生労働省への出向、在宅診療医を経験して、昨年、高知大医学部時代からの仲間・鈴木裕介さんと、夜間に診療を受けられるクリニックを開いた。
場所はエンターテインメントの街・秋葉原。ロールプレイングゲームでゲームデータを保存したりダメージを回復したりする「セーブポイント」のような場所にしたいと「秋葉原内科saveクリニック」と名づけた。
内科や皮膚科のほか、お通じの悩みに答える排便外来も設けた。ふらっと寄って体の不調を相談できるような、暮らしに溶け込んだ医療を提供したいと考えている。
「脂っこいものとか、食べちゃダメだよ」
自分の入院中、看護師に言われた言葉を今でも覚えている。もちろん病状だけを考えれば、消化にいいものを食べた方がいい。けれど、友人とファミレスへ行っても食べるものがなく「どうでもいいや」と自暴自棄になって、体に悪いものばかり口にするようになっていった。
あのとき、もし「体も大事だけど、友達とのお付き合いも大事だよね」と寄り添ってくれる人がいたら…と考えることがある。
だから自身は、患者の治療と生活の幸せのバランスを、ともに考える医師でありたいと願っている。
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