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かわいすぎ!ベトナム雑貨「トーヘ」生まれた理由に泣きたくなった…
ベトナムのお土産として、日本人にも人気の雑貨をつくる会社がハノイにあります。その名は「to he(トーヘ)」。バッグやぬいぐるみは、カラフルな色合いと、のびのびとした楽しいデザインが特徴。好きが高じて創業者に話を聞きに行ったら、ますます好きになってしまいました。(朝日新聞ハノイ支局長・鈴木暁子)
トーヘはハノイの旧市街とコーザイ地区に店舗があるほか、各地の雑貨店などにも商品が置かれています。空港の売店などにも売っているので、ベトナム旅行の経験がある方なら見覚えがあるかもしれません。
でも、まだトーヘが知られていなさすぎーる!
日本のみなさん、いったいどこでベトナム雑貨買ってるの? ここにベトナムオリジナルがいっぱいあるのに。
と私は主張したいのです。
トーヘの商品はピンクや赤や黄色でいろどられた、メルヘンの世界。
私が一番好きなのが、絵本からとびだしてきたようなカエルの人形です。片側はなんだか寂しそうな顔で、ひっくり返すとへへへと笑っています。色えんぴつか何かでぐりぐり色をつけたみたいな緑色。6歳の息子が毎晩一緒に寝るお友だちです。
毎日使うパソコンバッグはいろんな絵柄がありますが、私のは、なんか川に流されているみたいな4人組の絵……ほっとします。なんでかな。
おすすめはスカーフ。シーズンごとにいろんな絵柄やデザインが出てくるんです。
私が「トーヘ」の存在に気づいたのもスカーフがきっかけでした。雑貨店で色とりどりのポーチなどを見たことはあったのですが、ハノイ支局で働くベトナム人の助手さんが、訪ねてきた私の母にプレゼントしてくれたのが、白と緑が基調のすてきなスカーフだったんです。
かわいいのに、60代後半の女性にも似合う。なんだろうこのデザインの魅力は、と興味をもちました。
首都ハノイの市内にある本社兼店舗の小さな建物を訪ねました。
店にはバッグ(45万ドン、1万ドン=約49円)、ししゅうしたポーチ(24万ドン)などのほか、普段着にもしやすいオリジナルのアオザイ(89万ドンなど)や子ども服も。
スカーフは秋をイメージさせるピンク柄(69万5000ドン)が一番人気だそう、とてもきれいです。
「商品の販売を始めたのは2012年。主事業を支えるためのアイデアだったんです」。
夫と友人とともに会社を立ち上げた創業者の一人、ファム・ティ・ガンさん(41)はこう話します。
ガンさんはもともと、夫とデザインと広告の会社を運営していました。あるとき、慈善活動の一環で、障害があり、家族のいない子どもたちが暮らす政府運営の施設をNGOとともに訪ねることになったそうです。
数カ月にわたるプロジェクトでは絵を描く機会がたびたびありました。
「想像する私の家族を描いてもいい?」
子どもたちはのびのびと描きます。手が不自由で、足を使って描く子もいました。
「普段からベトナムの若いデザイナーとのつきあいがあったんですが、子どもたちの絵をみて圧倒されました。例えば、なんとも間抜けな顔をした犬の絵なんだけれど、なぜかすごく心をつかまれる。たいていちょっとおもしろくて、技術では描けない遊び心がある。なんて素晴らしいんだろうって」
活動に参加するうちに、ガンさんは、生まれてすぐに寺や施設に預けられたり、育児を放棄されたりした障害児がたくさんいるベトナムの現状も知ることになりました。
施設には十分なお金もない。何かできないだろうか。ぼんやりとそんなことを考えていた2005年、夫とともに欧州を旅し、美術館をめぐる機会がありました。その中の一つが、スペインのバルセロナで訪れた「ピカソ美術館」でした。
そこで出会ったのが、ピカソのこんな言葉でした。
「ラファエルのように描けるようになるまで4年かかった、でも子どもみたいに描けるようになるには一生かかった」
ぴしゃーん、ガンさんは雷に打たれたようになりました。
「そうか、ピカソはあのマジカルな子どもの持つ世界に気がついていたんだ。世界の名だたる芸術家も、子どもみたいに描けるようになりたいと憧れながら描いていたんだ」
ガンさんはもとの仕事もやめて、事業化に向けて走り出しました。2006年に、課題解決を目指す社会的企業としてのトーヘがスタートしました。
でもまだガンさんは、どうしたら子どもたちの描いた絵を多くの人に広めることができるか、そのための資金や子どもたちが使えるお金をどのように生み出すことができるか、考えあぐねていました。
まずは障害をもった子どもたちがいる施設を訪ね、信頼できる施設と協力関係を結びました。なかなか事業が軌道に乗らず、出資してくれた知人が手を引いてしまったことも。
それでも徐々に形になっていったのが、「トーヘファン」という事業です。協力する12の施設の子どもたちが週に1~2時間、自由に絵を描くプロジェクトです。絵を描くための場とサポートするスタッフをトーヘが提供します。知的障害のある人は年齢を問わず参加できるようにしました。
子どもたちが描いた絵の中から、各施設の担当者がまず作品を選んでトーヘ側と共有し、そこからイメージを膨らませ、商品化に生かす絵を選びます。バッグなどの商品に作品が採用された場合、その子どもに、売り上げの5%が渡される仕組みです。
2012年に製品の販売をスタート。現在、毎週200人が「トーヘファン」に参加し、計300人の作品がこれまでに製品化されました。中には数千ドルの収入を得た子どももいるそうです。
収入は障害の程度や家庭環境によって、施設や親が管理し、子どもの成長に必要なものの購入にあててもらいます。製品にならなかった作品もオンライン上のギャラリー「トーヘバンク」に保存し、広く公開していく準備を進めています。
活動をきっかけに、アーティストとして成功し始めた人もいます。
その1人がバン・ミン・ドクさん(26)。自閉症のため、人と一般的なコミュニケーションをとるのがあまり得意ではなく、普段はあまりおしゃべりもしないそうです。ただ、絵を描いている間はずっとハミングをし、歌いながら手を動かしています。
もう1人、自閉症で難病のヌーナン症候群を患うネムさん(13)は「Nem Gallery」というフェイスブックのサイトで作品を描く様子などを公開しています。
2人はコーチとして、「トーヘファン」で子どもたちが絵を描きやすいようサポート役もしています。
ガンさんによると、企業としてやっと利益が出るようになったのは2015年。製品販売の売り上げは、事業の運営に回すことで循環させているそうです。最近では、障害のあるなしに関わらず、子どもを対象にしたイベントも開いています。
マレーシアの格安航空会社エアアジアは、機内販売でトーヘのアイマスクやポーチを扱っているほか、新入社員に配られるポーチのデザイン制作もトーヘに依頼しました。こうした外部とのつながりもさらに増えていくかもしれません。
お客さんはベトナム人と外国人が半々だそう。主にどんな人が買っているのでしょう。
ガンさんがこう話していました。「当初は10、20代の若者を主な購入層にできると考えていたのですが、うまくいかなかったんです。いま主な購買層は40~45歳の女性です」。
私は45歳、はい、どんぴしゃりです。でも、なぜ?
「働いたり、子どもを育てたり、いろいろな経験を重ねて、40代になってやっと気がつくんですね。ふざけたり、おどけたり、遊ぶことが大好きな子ども時代の、あの純粋な陽気さって、なんて得がたい価値があったんだろうって。
でも、かつて持っていたはずの遊び心を、私たちは大人になると忘れてしまう。この間まで子どもだった若い世代の多くは、その価値にはまだ気がつくことができないのだと思います」
鈴木記者、もう泣きそうです。そうか、だからこのお店にくるとすべてがキラキラしてみえるんだ。
もっとプレイフルに、リラックスして、人生を楽しもう。「そういうメッセージを持ったベトナムからのギフトだと思ってトーヘの製品を使ってもらえたらうれしいです」とガンさんは話します。
ところで、トーヘってどういう意味があるのでしょう。
実は、ベトナムの夜店などで今も売られている串に刺したお人形のことです。米粉や自然の染料が使われていて、遊んだ後には食べることもできます。
遊びを通じて、子どもが食べたり、学んだり、生活するための利益を得られる、企業の取り組みを表すのにぴったりだと考えてつけたのだそうです。
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