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「石を投げたらヤクザ?」北九州市が「修羅の国」だと誤解される理由

北九州市が作った動画には「修羅の国」の文字も……
北九州市が作った動画には「修羅の国」の文字も……

目次

 世の中にある「北九州市=修羅の国」とのイメージを覆そうと、市が今年つくった大型ポスターが話題を呼んでいる。その名も「ウワサの真相‼教えて★キタキューのおっちゃん」。Q&Aとデータで怖いイメージを一掃しようという試みだ。なぜここまで「修羅イメージ」が定着してしまったのか? 背景にある北九州市の「切実な悩み」。そして、ポスター作成に踏み切った担当者に狙いを聞いた。(朝日新聞記者・宮野拓也)

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北九州市が今年つくった大型ポスター
北九州市が今年つくった大型ポスター

「一家に一台ロケットランチャー?」

 「北九州市って修羅の国なんですか?」「北九州市の繁華街では、身ぐるみはがされますか?」「一家に一台ロケットランチャーがあるって、本当ですか?」

 ポスターは約縦1メートル横70センチ。前半がネット上に根強く残る北九州のウワサを東京生まれの「ボク」に、居酒屋で居合わせた「キタキューのおっちゃん」が回答する形式で進む。

 ロケットランチャーの質問には「こんなもん持っとるわけないっちゃ!」。「北九州では、盾やヘルメットの貸し出しはありますか?」には「貸し出しは無いけんそれは買うしかないね」。「北九州では石を投げたらヤクザに当たるって本当ですか?」には「県警が頂上作戦で暴力団の幹部みーんな捕まえてから全然おらんくなった」と答えをつないでいく。

ロケットランチャーの質問には「こんなもん持っとるわけないっちゃ!」
ロケットランチャーの質問には「こんなもん持っとるわけないっちゃ!」

「怖くない」データでたたみかける

 安全・安心課の担当係長は「前半は北九州はみなさんが思っている怖い街じゃないことを、後半のデータで見てもらうためのつかみです」と話す。

 後半ではデータでたたみかける。

 刑法犯認知件数がピーク時の2002年から2017年は87%減少し、政令市の中でワースト3位からベスト6位になっていること。市が支援する地域の安心安全パトロール隊の活動や、地域路ランニングしながら見回る「パトロールランニング(パトラン)」の参加者数が10月現在日本一の500人に上ることなどを紹介する。

 北九州市には全国で唯一「特定危険指定暴力団」に指定されている工藤会の拠点があり「暴力団のまち」というイメージがあるが、実際は2014年9月に工藤会の最高幹部らを一斉に逮捕する「頂上作戦」などで状況は改善。2007年末には770人だった工藤会の構成員は現在360人でうち半数が服役中といった数字も紹介している。

 さらに修羅ではなく「酒楽のまち」。北九州の夜を楽しむ飲食店や北九州を訪れた映画人に人気の店なども紹介して、安心して夜も出歩けることをPRする。

ポスターで説明される「怖くない」データ
ポスターで説明される「怖くない」データ

「採用活動で使いたい」

 ポスターが話題になると市内の企業から「市外の採用活動で使いたいからポスターがほしい」といった問い合わせもあった。ポスターは一つしか無いため、PDFでデータを渡しているという。

 市安全・安心推進課の担当者は「市民にとっては『そんなわけないじゃん』と一蹴する質問ですが、市外の人にも正しい知識を伝えたい」と話す。

 これまでに10月20、21日に東京であった北九州を紹介するイベントと、11月10、11日に市内であった北九州ポップカルチャーフェスティバルで掲示し、反響を呼んだ。今後も市外のイベントで機会があれば掲示するという。

「修羅」を「酒楽」に変えてPRするポスター
「修羅」を「酒楽」に変えてPRするポスター

なぜ「修羅イメージ」に?

 北九州市の人口は1960年代から100万人を超えていたが、現在は減少傾向が続く。2005年には100万人を切り、現在は90万人台半ば。他の政令指定市と比べても、人口減少率はワーストレベルだ。かつては周辺から人を集めていた炭鉱や製鉄所といった産業が陰り、今はいかに人を引きつけるかに市は頭を悩ませている。

 その中で市がハードルとみているのが「修羅の国」「怖い街」というイメージ。実際に市内の企業から「市外から市内の異動を従業員の家族が嫌がる」「市外での採用活動で不利な面がある」などの声があったという。

ポスターのポップなイラストと小倉城
ポスターのポップなイラストと小倉城

 県警のまとめによると、県内の暴力団構成員(2017年末の概数)は1230人。そのうち北九州市は360人と、北九州だけが突出して暴力団が多いという訳ではないが、発砲事件や大規模な暴力団対策などで一度ついてしまったイメージが、特に市外の人たちには根強く強く残っているのだろう。そしてどこでも起きるような事件だとしても、それがひとたび北九州で起きると「修羅の国」としてイメージが再生産されてしまう。

 今回のポスターの前半は「北九州はみんなが思ってるような怖い街じゃないってこと」と締めくくられる。市として「『怖い』そして時に『修羅の国』と思われていること」を認めるのは少し勇気のいる判断だったと思う。

 初めて見たときは「よく踏み込んだな」と思ったが、一方で市が「日本で最も子育てがしやすい街」と評価され、自らもそれを目指している。記者も異動する4月まで一市民だったが、渋滞も少なくコンパクトでとても暮らしやすい街だった。

 そんなもったいないギャップを、打破する今回の戦略を応援したい。と、難しい事を考えるまでもなく、ポスターは面白いから見てほしいし、それでも修羅の国じゃないかと思う人は是非一度確認しに見に来てほしい。ヘルメットは…いらないと思いますよ。

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